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1-2 フィオとゆかいな自分たち(前編)

 女神の従者の少年フィオと名も忘れた転生者の少女。

 二人はダンジョンのボスを探すために通路を進んでいたが、フィオはそのダンジョンに違和感を持つようになる。


「おかしい。これまで魔物に出会ってない。この規模のダンジョンならもう何十回とエンカウントしてもおかしくないのに、魔物の気配すら感じない」

「そうなの?」

「まあ君もいるし、余計な戦闘の手間が減って僕たちとしてはいいんだけど」


 ダンジョン内を進んでいた時もフィオはホウキを武器として構え、いつでも魔物が現れてもいいように警戒を解いてはいなかった。

 だが、魔物の姿は一切見かけることなく、しばらく進むと二人は広めの部屋へと辿り着く。


 大きな部屋だが先に進む道がなく、どうやら行き止まりのようだった。


 そんな中、少女は部屋の片隅に小さく蠢く物体がいるのを見つける。


「あ! あれって」


 大きさは30センチほど。ゼリー状のプルプルとした黄緑色の物体は部屋の隅をゆっくりと動いていた。


「わあ、スライムだー!」

「あっ、ちょっ──」


 自分自身の記憶がない彼女でも、それは知っていた。自分がやったことがあるかどうかは覚えていないがゲームでよく出てくる最弱の魔物【スライム】である。

 このダンジョンに入って初めて見つけた魔物でもあったため、少女はフィオの制止も聞かず興奮ぎみにスライムの元へと駆け寄っていく。


「かわい──」


 言い終わるよりも早く動いたのはスライムとフィオ。

 スライムは少女が近寄ってきたと同時に身体の一部を粘弾として射出し、フィオも魔法を発動させ少女の周囲を光の結界で覆う。


「えっ!?」

「君のいた世界ではどうだったか知らないけど、スライムは決して弱い魔物じゃないよ。物理攻撃が効かず、ものによっては毒や強酸を操るとても恐ろしい魔物だよ。現にこの世界にやってきた転生者の死因の七割は君みたいにスライムを弱い魔物と侮ったことなんだ」


 フィオの張った結界はスライムの攻撃を防ぎはしたが完全ではなかった。

 粘弾はじわりじわりと結界を溶かしていく。


「ま、魔法侵食!? ただのスライムじゃない……ということはまさかあれがこのダンジョンのボス!?」


 そのスライムは明らかに普通のスライムとは違っていた。

 スライムはフィオの張った魔法結界を【魔法侵食】の能力が付与された粘弾でいとも容易く溶かし、少女に更なる攻撃を仕掛けるべく再度身体の一部を飛ばす。

 フィオも同時に結界を張り直しつつ攻撃へと移る。


「シャイニング・アロー!」


 ホウキの先に無数の光の矢【シャイニング・アロー】を発生させ、スライム目掛けて一気に放つ。

 普通のスライムならばこれで終わりである。

 だが、そのスライムはフィオの予想通り普通のスライムではなかった。

 スライムの身体に突き刺さったはずの光の矢はスライムのコアには届かずその体内へと吸収されてしまう。


「魔法無効化……いや魔法吸収か! 流石に僕じゃあ相性が悪すぎる!」


 フィオは自分と少女の前に結界を張りつつ、少女の手を引きスライムから距離を取る。

 魔法を無力化し吸収してしまう【魔法吸収】の能力を持つそのスライムと【魔法使い】であるフィオとの相性は最悪と言っても過言ではなかった。


 フィオの魔法を吸収したスライムはみるみる巨大化し、あっという間に倍近い大きさへと変貌する。


「ど、ど、どうするの!? あ、もしかしてここでわたしが覚醒するとか?」

「君はこんな時でも前向きだね。確かに君に賭けるのも面白い。だけど、ここは──任せたよ! (アカ)!」


 フィオがそう叫んだ次の瞬間。


「──最初っからそうしなさいよね!」

「えっ!?」


 フィオの姿が変わっていた。


 白い髪は炎の如き赤い髪に、羽織っていたローブは真っ赤にたなびくマントに、そしてホウキは一振りの剣へと姿を変える。


「だ、誰っ!?」

「誰って……フィオよ。あたしもフィオ・フローライト。(アカ)って呼んでくれればいいわ」


 フィオはその声と口調も変わっていた。先ほどまでは少年であったが、今のフィオは少女のそれであった。


 赤い髪のフィオ──(アカ)はホウキから変化した(イリス・メモリア)をスライムに向け、戦闘態勢を取る。


「スライム相手ってのはちょっと不満だけど……か弱い少女に毒牙を向けたからには即ち悪! 悪のスライムはこの正義の勇者! フィオ・フローライトが打ち砕くわっ!!」


 物言わぬスライムに対し口上を述べると、剣を両手で構え一気に距離を詰める。

 (アカ)は魔法使いであった(シロ)とは違い、虹の思い出(イリス・メモリア)が変化した剣と炎の魔法を主体に戦う接近戦タイプ。自称勇者である。

「絶・対・正義! 爆・炎・ザァァンッ!!」


 (アカ)の咆哮と同時に剣から炎が燃え盛り、スライムの身体は炎と共に両断される。

 (アカ)の必殺技である炎の斬撃【絶対正義爆炎斬】である。


「正義は勝ーつ!!」

「す、すごーい!」


 スライムをあっさりと倒した赤いフィオ・フローライトに対し少女は称賛の拍手を送る。


「まあ、ざっとこんな……え? まだ終わってない? 斬撃無効? いやそれは知ってるけど……火炎無効!? 何それ聞いてない!」


 スライムはまだ死んではいなかった。


 両断された際に自ら体内のコアを二つに分け、更に(アカ)から受けた炎のエネルギーを吸収して巨大化。

 最初は30センチ程だった小さなスライムは今や2メートルを超える巨大な二体のスライムへとパワーアップしてしまう。


「……あたしじゃ無理? いやいやまだまだ……極大爆炎魔法で…………やめろ? わ、わかったわよ。代わる、代わるわよ!」


 渾身の必殺技を軽く受け流されただけではなく、スライムの強化に利用された|(アカ)

 彼女自身はまだ戦闘を継続しようと思ってはいたが他のフィオ(・・・・・)に宥められてしまう。


 そして、先ほど同様にフィオの身体に変化が起こる。


「んじゃ、次はオイラじゃん♪」


 (アカ)フィオから一転。

 赤い髪は夕陽を浴びた大地の如き橙色の髪に、マントだったものは土色のテンガロンハットに、そして剣はオレンジ色のギターへと姿を変える。


「また変わった!?」

「ヨロシク、かわい子ちゃん! オイラもフィオ。(ダイダイ)って呼んでくれじゃん♪」


 (ダイダイ)を名乗ったフィオはテンガロンハットを被ると挨拶代わりに陽気にギターをかき鳴らす。

 (ダイダイ)は音楽に魔力を込めて戦う陽気な吟遊詩人。ギターの音色は土の魔法となり大地を動かす。


「まずは一曲目!大地の歌・巨人の槍(タイタンランス)!!」


 フィオのかき鳴らすギターの影響でスライムの下の石畳が盛り上がり、無数の石の槍へと変化する。

 【大地の歌・巨人の槍(タイタンランス)】により生じた石の槍は一瞬で二体のスライムを串刺しにしてしまう。


「センキュー!」

「こっちのフィオもすごい!」

「アンコールは必要な……へ? ぶ、物理無効!? スライムだから当然だろって? いやいや、そりゃそうだけどあの規模のド派手な技じゃん?」


 が、スライムは石の槍を受けてもやはり死なず、コアを再度分裂させる。


 巨大スライムは計四体となった。


「はあ……仕方ないですわね」

「今度は誰!?」

 

 橙の髪は眩い稲妻のような黄色の髪に、テンガロンハットだったものは輝く宝石があしらわれたブローチに、ギターは二対の扇の姿へと変化する。


「ご機嫌あそばせ。わたくしはフィオ・フローライト。()と呼んでくれても構わないですわよ」


 どことなくお嬢様を思わせる口調の少女へと変わったフィオはブローチをジャージの胸に取り付けると、両の手に持った扇を構えてスライムに向き直る。


「物理も魔法は無効、炎の攻撃もダメ。となればこれしかありませんわ!」


 ()は両手に構えた扇を広げながらスライムへと接近する。

 ()は舞踏家。扇による格闘と雷の魔法を組み合わせて華麗に舞うように戦うことを得意としていた。


「わたくしの舞で痺れなさいな! 雷神の舞ですわ!」


 ()は扇に雷を纏い、流れるように四体のスライムの核を突いていく。 【雷神の舞】による雷撃によってスライムは麻痺となる。


 はずであった。


「はあ!? 今度は雷撃無効に麻痺無効!? これホントにスライムですの!?」


 今までのフィオ同様、()の攻撃でもスライムを倒すには至らなかった。雷属性の麻痺攻撃も効かず、()の目論見は外れてしまう。


「……じゃあ……つぎはフィオがいく……」


 黄色の髪は芽吹く若葉のような緑色の髪に、ブローチはかわいい花の髪飾りに、そして扇は大きなクマのぬいぐるみの姿へと変わる。


「……フィオもフィオ。フィオは(ミドリ)……こんごともよろしく」

「よ、よろしく……?」


 ()に代わり姿を見せた(ミドリ)。頭に付けた花飾りや抱きかかえたぬいぐるみもあってか今までのフィオよりも幼い雰囲気の少女ではあるが、その実力は他のフィオたちに匹敵する。

 (ミドリ)は人形使い。木の魔力が込められた木人形(ウッドゴーレム)が仕込まれたぬいぐるみを操って戦うトリッキーな戦法を得意としていた。


「とりあえず……やってみる」


 (ミドリ)は抱えていたクマのぬいぐるみをスライムの方へと放り投げる。


「じゃっくとまめのき」


 そのキーワードを合図にクマのぬいぐるみの中の木人形(ウッドゴーレム)は急激に成長し、ぬいぐるみ自体が巨大化する。更にぬいぐるみの腕から飛び出した無数の強靭な蔓がスライムたちを絡めとる。

 ぬいぐるみの巨大化と蔓による拘束攻撃【じゃっくとまめのき】が(ミドリ)の得意技であった。


「とりあえず……うごきはふうじたからだれかとどめを……あ」


 触手のように絡みつく蔓により一ヶ所に集められたスライムはその蔓を酸の身体で溶かすと再度合体して更に巨大なスライムへと変容する。


 スライムは3メートルを超える一匹の巨大スライムとなった。


「……ぱす」


 それを見た(ミドリ)はあっさりと諦め、引っ込んでしまう。



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