2-6 自称勇者と悪魔召喚
「な……!?」
盗賊たちにバレるのを覚悟でアジトに踏み込んでいったフィオたちであったが、その目に飛び込んできたのは衝撃的な光景であった。
《し、死んでるの!?》
「……みたいね。」
アジトの中へ入り奥へと進んでいたフィオたちは盗賊の死体を目撃する。それも一つや二つではない。奥へ奥へと進むにつれ、死体の数は増えていった。
《あの子がやったのかな?》
《……おそらくは違うだろうな》
《あの子弱かったですし、流石にここまで出来そうにありませんわ》
《仲間割れ……って、雰囲気でもなさそうだよ~》
「ちょっと……嫌な予感がするわね。気付いてる?」
《もちろん……これは確かにかなり嫌な事態だね》
先ほどアジトの外から【魔力感知】を行った時は小さな反応がいくつかあっただけだが、今は違っていた。
とても大きな反応が一つと今にも消えそうな反応が一つ。つまり、アジトの中にフィオ以外の生き残りは二人しかいないということ。
フィオはとりあえず消えそうな方──まだ助けられる可能性のある方へと向かい駆けていく。
《しかし、このアジト意外と広いじゃん》
《どうやらこの地にあったダンジョンを利用してアジトとしているようですね。先ほどの隠し扉はダンジョンの入口だったのでしょう。流石に魔物などの類いはいなさそうですが》
《けど、魔物より遥かにヤバそうなのはおるみたいやけどな》
しばらく死体を辿ると目的の場所へと到着する。そこには多くの盗賊たちと一人の少女が倒れており、少女の方はかろうじてまだ生きているようであった。
フィオが感じた今にも消えそうな魔力反応の持ち主は例の猫耳の少女であり、赤はまだ助かる命にすぐに駆けよっていく。
《赤、まだ息がある。すぐに回復を》
「ええ、でももう代わってる余裕もなさそうだわ」
赤は白に代わって回復魔法を唱える時間すら惜しみ、ポケットから回復薬の入った瓶を取り出す。そして、自ら回復薬を口に含み、そのまま少女に口移しで薬を直接流し込んでいく。
《……ねこちゃん、たすかる?》
《僕たちの持ってる一番良い回復薬だからたぶん大丈夫だよ》
《さすが赤、判断が早いね。でもいきなりチューだなんてだいたーん》
《オイラも子猫ちゃんとキスしたかったぜ》
《……お前ら茶化すな》
《ご、ごめんなさーい》
フィオの持つとっておきの最上級回復薬により、少女は一命を取り戻す。だが、まだ万全ではなかったため、赤はもう一本回復薬を取り出し、同じようにして彼女に飲ませていく。
「う、ううん……」
「どうやら気付いたみたいね」
二本目の回復薬の効果がすぐに現れ、少女は意識を取り戻す。
「アタシ、いったい……」
「それはこっちの台詞よ。いったい何があったの?」
「そ、そうだ! あ、悪魔が!」
「悪魔?」
少女はまだ混乱しているらしく、怯えて助けを求めるかのようにフィオに抱きついてくる。そして、例の魔法カードの一枚をフィオへと見せるのであった。
「これは……何とも厄介なことしてくれたわね」
《どれどれ……デーモン?》
そのカードはすでに効果が発動済みであり、魔力を失っていたがカードには『デーモン召喚』という名前と悪魔のイラストが書かれていた。
つまり、この事態を引き起こしたのは──
《このカードは悪魔の召喚まで出来るんですの?》
《いや、普通の悪魔ならまだよかったんだけどね。どうやら事態はもっと深刻みたいだ》
《どういうこと?》
《今感じている魔力反応は明らかに召喚術で使役出来るレベルの悪魔を遥かに超えています。この魔力反応はまず間違いなく魔族ですよ》
《まぞく?》
悪魔の中でも上位悪魔をも遥かに超える魔力量と知性を持つ存在を【魔族】と呼ぶ。低級から中級程度の悪魔ならば召喚術で喚び出せることもあるが、魔族ではこうもいかない。普通、魔族は人間の召喚術になどは応じない。
だが、現にフィオたちの感じている強い魔力は明らかに魔族のものであり、あり得ないことが起こったことを証明していた。
《なんかとんでもないことになってきたよ~》
《まさか盗賊退治が魔族絡みになるやなんて。誰やねん、クソ雑魚ナメクジクエストなんて言うたんわ!》
《悪かったですわね! わたくしもこんなことになるなんて夢にも思いませんでしたわよ!!》
単なるCランクの盗賊討伐依頼から一転、フィオたちすら頭を抱える事態へと陥っていた。
「で、そろそろ落ち着いた?」
「う、うん……」
「じゃあ、何があったか話してちょうだい」
少女が落ち着いたところでフィオは改めて少女から話を聞くことにする。
「えっと……盗賊のアジトに乗り込んで、あのカードを使って、悪魔を召喚して、騒ぎを起こして、それでその隙に……」
まだ少し混乱しているようではあったが、何が起こったのかはだいたい理解出来た。
要するに少女が使用したデーモン召喚のカード。それが何らかの暴走を起こし、悪魔ではなく何故か魔族を喚び出せてしまったとのこと。
そして、魔族は少女を含む周りの人間全てを襲い、ダンジョンの奥へと向かっていったという話であった。
「はあ……」
《どうしますの?》
《ここはペルトの村にも近いですからね。放っておくわけにもいかないでしょう。それに何より……赤が一番放っておきたくないのでは?》
「よくわかってるじゃない。ここで逃げたら勇者の名が廃るわっ!!」
相手は強大な魔族。だが、赤は怖じ気づくことなどなく、その魔族を倒すことを決意するのであった。




