2-5 自称勇者と盗賊のアジト
猫耳の少女やケルベロスとの戦闘を経て、赤は【気配遮断】のスキルを使用し、北ペルト山の探索を続ける。
先の戦闘で騒ぎになり盗賊たちに気付かれた可能性を考えてのことであった。
「これあんまり使いたくないのよね」
《赤は目立ちたがりですものね》
「黄、あんたには負けるけどね」
勇者を自称するほどに自信家である赤と気配を殺して目立ちにくくする【気配遮断】のスキルはあまり相性が良くなく、赤自体もあまり使いたがらなかった。
《うーん、さっきの子いないね》
《あの子猫ちゃん、めちゃくちゃ弱かったから無茶してなけりゃいいけど》
《まあ、あのカードがまだ残ってたはずだから何とかなりそうではあるけど》
《……それもうんしだい》
「とりあえずあの子にはあたしが盗賊の仲間だなんて誤解だけは解いておきたいわね」
しばし、盗賊のアジトと例の少女を探して山をさ迷うフィオ。やはりこの山は魔物や動物の気配はあまりなく、今度は先ほどのような少女の襲撃も起こりはしなかった。
《暇だねー》
《ずっと歩いてるだけですものね》
《しりとりでもするー?》
《いいですわね》
《わ~い、桃ちゃんもやる~☆》
《……フィオもやる》
「あんたら、黙っ──見つけたわ」
暇を持て余した黒たちがしりとりを始めようとした時、ようやく盗賊のアジトらしき入り口を見つける。
と言ってもそこはただの山の岩壁であり、一見すると何も無さそうに見える。
《ここ?》
《……なるほど》
《確かに……ここで間違いなさそうだね》
《……?》
「黒、魔力感知を研ぎ澄ましてみなさい」
赤に言われて黒もようやく気付く。
《あっ、岩の中からいくつか魔力反応がする! すごいちっちゃいけど!》
「つまり、この岩山の向こうが盗賊のアジトなのよ。たぶんどこかに隠し扉でもあるんでしょうね」
【魔力感知】のスキルを使うことでようやくわかるほどの小さな反応が岩山の向こう側──というよりも岩山の中の空間からしていた。つまりこの中こそが盗賊のアジトなのであろう。
《で、どうするんや? ぶっ壊して中に入るんか?》
《うーん、それもありだと思うけど、あんまり派手にやると面倒なことになりそうだから僕はおすすめしないかな》
「結局は正規の入口を探すしかなさそうね。まあだいたいの見当はついてるんだけど」
赤はそう言いながら視線を地面に落とす。盗賊たちは足跡などの痕跡を上手く消しているようではあったが、一つだけ残っていた。おそらくは猫耳の少女のものであろう。
その跡を辿ると、とある壁の前で途切れていた。
「ここが入口ね。んじゃ、白開けるのは任せたわ」
《え? 僕?》
「こういうのは適材適所よ。あたしだとさっさと爆破させちゃうだろうし、白が適任でしょ?」
《はあ……仕方ないなあ》
赤からの指名を受け、白が表に現れる。隠し扉を穏便に開ける方法は最も魔法の扱いに長けている魔法使いの白が一番の適任だった。
白い髪の少年に姿を変えたフィオは岩壁をじっくりと観察する。
「なるほど……魔法で扉をカモフラージュしてるのか。呪文で解錠して開閉するタイプで……ふむふむ、呪文は──」
当初は渋々調べていた白であったが、次第に興味津々となり、扉にかかった魔法の正体を解き明かしていく。
《どうやら白の悪いところが出ましたわね》
《白はまほうばか》
《えー、意外だなあ》
《普段真面目なだけに反動が……な》
《白、そろそろいいかしら?》
「ああ、ごめんごめん。特定の呪文を唱えると開くタイプのよくある隠し扉だったよ。呪文もすでに解析完了してるから」
白は赤に急かされ、壁に向かい呪文を唱える。
「──岩よ、岩よ、扉よ、開け、扉よ、岩よ、開け、開け──」
単純な単語の組み合わせ。それこそがこの扉を開く呪文であった。しかし、単純だからこその良さもある。この呪文は魔力の有無に関わらず、ただ単に言葉の羅列により扉は開閉するため魔力の少ない盗賊たちにも都合がいいのだろう。
そして、白が呪文を全て唱え終えると、岩壁が音を立てて開いていく。
《おー、開いたねー》
《でも音が大きすぎるよ~》
「うーん、これはバレたかな? 赤……パス」
ここからは荒事になると感じた白は身体の所有権を再度赤へと明け渡す。
再びフィオは赤い髪の少女となる。
「ま、こうなった以上仕方ないわね」
赤へと戻ったフィオは剣を構えたまま、いつでも戦闘に移れるよう警戒しつつ、盗賊のアジトの内部へと足を踏み入れていく。




