2-4 自称勇者と野良犬
《まさかケルベロスまで召喚しちゃうなんてね~☆》
《えすえすあーる》
《あの子猫ちゃん、運良いなあ。今のところ当たりカードしか出てないじゃん》
《……しかし、これは不味いな》
勇者を自称する赤にも唯一にして最大の弱点がある。
それこそが──
「犬だけはほんと無理! 誰か代わって!!」
犬である。
勇猛果敢な正義の勇者(自称)たる赤であったが、どんなにかわいい子犬であっても恐れてしまうほどに犬が苦手であった。
《あれ? でも前にわたしがグレイウルフやフェンリルと戦った時はここまでじゃなかった気がするけど?》
《ああ、どうせあの時は視覚遮断でもしてなるべく見ないようにしていたんですわ》
《赤は本当に犬が苦手だからね》
《……いぬぎらいきわまれり》
しかし、犬嫌いは赤だけではないようであった。
「ひっ、犬っ!」
《ん?》
《あれれ~? もしかしてあの子も赤ちゃんと同じで犬嫌いなのかな~?》
《というか、自分で召喚しておいてまぬけですわねえ》
《まあ、ランダム封入だからねえ》
《はずれれあ》
《だとしても、ケルベロスが犬系の魔物だってことくらいわかりますわよ》
どうやら猫耳の少女も犬が苦手なようで自分が召喚したケルベロスにすっかり怯えて身体が震えているようであった。
そんな召喚者たる彼女のことなどまるで無視するかのようにケルベロスはフィオに対して攻撃を仕掛けてくる。
「は、は、早く代わってー!」
《それじゃあ、誰が出る? わたし行こうか?》
《いや、うちが出たるわ》
「じゃ、じゃあ任せたわね」
ケルベロスという巨大な三首の犬を前についにギブアップしてしまう自称勇者。赤に代わり、紫の髪の少女が姿を現す。
「えっ!? 髪の色が変わった!?」
「髪の色だけちゃうで!」
赤い髪から紫の髪に、赤いマントは白い特攻服に、そして剣は手甲に変化する。
そして赤から紫に変わったことで戦闘スタイルは魔法剣士から拳闘士へと変化する。
「さあ、暴れるで! 紫獅刃風脚!」
近接格闘戦を得意とする紫はケルベロスとの間合いを一気に詰め、風の魔力を纏った回し蹴りを放つ。
「ギャ、ギャ、ギャ!!」
そんな紫の攻撃に、ケルベロスは三つの首から炎の塊を吐いて対抗する。
《わっ! あのわんちゃん、火ぃ吹くよ!》
《ケルベロスは地獄の番犬と呼ばれ、地獄の業火を操るとされる火の魔獣です。紫、代わりましょうか?》
「いらんお世話や!」
ケルベロスの弱点は青が得意とする水の属性。だが、紫は青には頼ることなく戦闘を続行する。
「紫獅烈風拳!!」
ケルベロスの最大の武器は三つの首から繰り出される炎弾。フェンリルほどではないにせよ強大な魔獣である。
紫はその速さを活かし、炎をあっさりとかわしながらケルベロスの懐へと踏み込み、強力な連打を叩き込む。
「……グッ!」
「ほな、トドメや!」
紫フィオは足に風の魔力を纏わせ、一気に高く飛び上がる。
ケルベロスは先の連打により怯んでおり、紫フィオの次の攻撃に対応するにはもう遅かった。
「紫獅山風脚!!」
高所からの落下スピードと風の魔力による加速。その二つを掛け合わせた山風の如き踵落としはケルベロスが反応する前にその三つの頭の真ん中の脳天を蹴り砕く。
「──グォ」
そして、そのままケルベロスは沈黙し、召喚魔法の効果が切れたのかその場から消えてしまう。
《ありゃ、消えちゃった。あのわんちゃんも飼おうかと思ったのに》
《ハルコさんがまた怒りますわよ? 黒、あなた結局フェンリルの世話をハルコさんに任せっきりにしているでしょう?》
《えー? そんなことないよー?》
《……ぺっとはせきにんもってかわなきゃだめ》
《はあ、まあいいですわ。ハルコさんもだらだらしているよりは犬の世話でもしていた方がマシですし》
《……ん?》
《どしたの、藍?》
《気付かないか? いつの間にかいなくなっているぞ》
藍の言葉にようやく他のフィオたちも気付く。消えたのはケルベロスだけではなく、猫耳の少女もいつの間にかその場から消え失せていた。
《逃げちゃったのかな?》
《僕たちのことを盗賊の仲間と勘違いしてるみたいだったから、盗賊のアジトを探しに行ったのかもね》
「赤、犬もおらんようになったし、とりあえず代わるで」
《え、ええ……ありがと、紫》
少女も犬もいなくなったため、紫は赤に身体の所有権を明け渡す。
「結局、あの子なんだったのかしら?」
《なんか訳ありっぽいよね~》
《ま、目的地は同じっぽいですからまたすぐに会えますわよ》
猫耳の少女のことが気になりつつも、フィオたちは改めて盗賊のアジトを探すことにする。




