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1-11 狼の王をペットにしよう

「なんか寒くなってきたよ!?」

《フェンリルは氷の魔獣。きっともう近くにいる……気を付けて》


 フェンリルを探し、しばらく森の中を進んでいたフィオは急激に気温が低下しているの感じる。

 北の大地に住まう伝説の魔獣であるフェンリルは氷の魔力を持ち、辺り一帯を凍らせる力をも持っている。それを示すかのように進むごとに気温が下がり、地面には霜が下りていた。


「うわっ!」


 そして、更に進むと地面や木々、森に住む他の魔物を含めた辺り一帯が凍りついており、フェンリルが近くにいることを証明しているようであった。


「来た……!」


 (クロ)虹の記憶(イリス・メモリア)を即座に短剣へと変え、前方へ射出する。襲いかかったのは白銀の狼──ではなく灰色の狼たちであった。


「グレイウルフ!?」

《もしかして、こいつらフェンリルの手下になってるじゃんよ!?》

「ま、何でもいいよ!」


 投げナイフの要領で前方から襲い来る灰色狼を短剣で仕留めるフィオ。


「ダークネス・アロー!!」


 更に続けて闇の矢で側方からの伏兵も撃ち抜いていく。


「雑魚はもういいから出てこい!」


「──グォオオオオオオ!!」


 (クロ)の挑発に乗ったか乗らずか、巨大な咆哮と共に前方より冷気の塊が放たれる。

 フェンリルの吹雪の吐息(ブリザード・ブレス)である。その氷の息は配下であるはずのグレイウルフをもまとめて凍りつかせてしまう。


「ダークネス・シールド!」


 そんな吹雪の吐息(ブリザード・ブレス)に対し、(クロ)は闇の結界魔法で何とか凌ぎきる。


「もしかしてあのでっかいわんちゃんがフェンリル?」

《わんちゃんて……》

《そう、あれが白銀の狼王フェンリルだよ》


 そしてフィオたちの眼前に姿を見せる白銀の魔獣。その巨体は10メートルをゆうに超え、大きな狼であるはずのグレイウルフがまるで小型犬のようであった。


「よし、決めた!」

《決めたって何を?》

「あのわんちゃん、わたしが飼う!」

《はあ!?》

《もしかして、フェンリルを召喚獣にするつもりですか? それは無茶です!》

《うちはぺっときんし》


 他のフィオたちが驚く中、(クロ)は先ほど仕留めた灰色狼の死体から短剣を回収すると、(イリス・メモリア)へと変化させる。


 同時に再びの吹雪の吐息(ブリザード・ブレス)


 先ほどは魔法で防御したが、今度は回避しながらフェンリルとの距離を少しずつ詰めていく。


《近づいたら今度は爪と牙の攻撃が来ちゃうよ~!》

「わかってるって! でも所詮はでっかい犬っころ。足と口さえ封じれば一方的になぶり殺しに出来るってもんだよ」

《は……?》

《く、(クロ)ちゃん?》

「ダークネス・バインド!!」


 フェンリルを射程に捉えた瞬間に新しい魔法は発動する。フェンリルの足元に発生した闇の中より無数の触手が飛び出し、その四肢の自由を奪う。


《拘束魔法か》

《でもまだあのブレスがありますわよ!?》

「動きさえ封じちゃえばこっちのもんだよ」


 闇の触手による拘束。自慢の爪と機動力を封じられたフェンリルは再び吹雪の吐息(ブリザード・ブレス)を繰り出すために、その口を大きく開ける。


「グォオオオオッ!!」


 (クロ)はその隙を見逃さなかった。(クロ)はブレスが繰り出された瞬間に先ほどグレイウルフとの戦いでやって見せた転移魔法(ショートワープ)でフェンリルの背中の上へと移動する。


「さあ、わんちゃん。調教の時間だよ!」


 フィオはフェンリルの攻撃が唯一届かないその位置から鞭を振るう。だが、フェンリルの硬い皮膚にダメージは通らない。

 フェンリルはダメージこそないもののいつまでも背中に乗られているフィオを煩わしく思い、その身を揺らして振り落とそうとする。


《ほら言わんこっちゃない!》

《フェンリルは攻撃力だけでなく防御力も恐ろしく高いですからね。並み半端な攻撃や魔法は効きません》

「んじゃ、こういうのはどうかな? 巨人の(かいな)よ、闇の中より現れ、我が敵を捻り潰せ。ティターンズ・アーム!!」


 (クロ)の呪文の詠唱が終わると共に大地から巨大な闇の腕が現れる。上級闇魔法【テイターンズ・アーム】はフェンリルの首を掴んで締め上げる。


「あはははは! その首輪よく似合ってるよ、わんちゃん!」

《ちょ、ちょっと!?》

《く、(クロ)ちゃん、こわいよ~(泣)》

「さあ、まだまだ行くよ! バインド! バインド! もひとつオマケにバインドォ!!」


 (クロ)は他のフィオたちを無視し、ティターンズ・アームによる締め付けを強めつつ、ダークネス・バインドの数を増やしてフェンリルをがんじがらめにしてしまう。

 その美しい銀の身体のほとんどは漆黒の触手で捕らえられ、首を掴む巨椀を振りほどくために、もがくことすら叶わない状況となったいた。


 伝説の魔獣フェンリル。


 (クロ)以外の誰もが伝説の魔獣とはほど遠い今の姿に驚きを隠せなかった。


「ねえ、わんちゃん……そろそろわたしのペットになる気になった?」

「グ……グォ……グ……」

「はあ? 聞こえないよ?」


 つい数分前まで巨大な咆哮を放っていた口からはか細く苦しそうな声が漏れる。

 彼の狼王も所詮は生き物。動きと呼吸を制限されれば最早か弱い犬と変わりはしなかった。


「グ……グゥ……」

「お?」


 先ほどまでは何とか抵抗しようとしていたフェンリルであったが、完全に心が折れたようでその動きはピタリと止まってしまう。

 (クロ)もその様子を確認すると全ての魔法を解除して、フェンリルを解放するのであった。


「よーし、よしよしよし! 今日からきみはわたしのペットね! 名前はそうだなあ……銀色だからシルバーにしよう!」


 【調教】と【隷属】

 (クロ)が持つ自分より弱い魔物(・・・・・・・・)に効果のあるスキルが発動し、フェンリルは完全に彼女に屈服する。


《まさか、ここまで一方的だなんて……》 《ハルコさんはここまでわかっていたんですの!?》

(クロ)……君はいったい?》


 女神ハルコリウス・アヴァロンが転生者の少女を隔離した上で殺そうとした理由。深い闇の魂を持つ黒きフィオ・フローライト。


 彼女は先ほどの戦いがまるで嘘かのような無邪気な顔でフェンリルの頭を撫でていたのであった。

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