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1-1 転生したら闇の中

「まっくらー」


 目覚めた時、周囲は完全なる闇。

 少女の第一声はまぬけな声だった。


「ここ……どこ……?」


 何も見えはしなかったが、一応辺りを見回してみる。

 もちろん何も見えない。


「というより」


 状況確認をしようとした【彼女】はそこで初めて気付く。


 気付いてしまう。


「わたし、誰?」


 自分が何者であるか。

 彼女自身、それがわからなかった。


「女の子……だよねえ。たぶん」


 目が暗闇に慣れれば何か見えるかと思ったが自分の手足すら見えない。

 闇の中で自分の姿を確かめるすべが無いため、とりあえず顔や身体を触ってみる。

 髪は長く背中ほどまで伸びていた。

 肌のつやや胸のふくらみくらいでしか判断は出来ないがおそらくはまだ10代後半もいかないくらいの少女だろう。

 服装は半袖のシャツにスカート。襟周りの特徴からセーラー服ではないかと推測できる。

 あとは首にチョーカーを巻いているのも確認できた。

 女子中学生か女子高校生。

 どちらにせよ現時点でわかるのはそれくらいだった。


「うーん」


 自分の名前すら思い出せない少女はとりあえず自分の素性は一旦置いておいて、次は周りを少し探ってみることにする。

 光の全く無い空間。地面は感触から察するに石畳、少し歩いた場所におそらく同じ材質の壁もあった。そして光同様に風も感じないため、屋外ではなく屋内。


 それはまるで──


「──ダンジョンだよ」

「えっ?」


 静寂から一転、突然声が聞こえた。

 少女は声のした方向に首を向ける。

 すると先ほどまでの暗黒が一瞬にして光ある空間へと変わる。

 ダンジョンと呼ばれたその場所はどうやら人工的に作られた洞窟のような場所であった。


「やあ、こんにちは。探すのに苦労したよ。まさかこんなダンジョンの最深部にいるんだもの」


 黒い髪の少女に声をかけたのは彼女とは対照的な白い髪を持つ少年だった。

 いや、長く白い髪を後ろで纏めた少女と見間違えるほど中性的な少年と言った方が正しい印象だろう。

 まるで宝石のような透き通り吸い込まれそうな碧色の瞳も特徴的だった。

 格好はファンタジーに出てくる魔法使いが着ているような黒いローブを羽織っており、ローブの下にはファンタジーとはミスマッチな上下の白いジャージが覗いていた。


「あの人にも困るよね。何の説明も無しにこんな所に送るだなんて」

「ええと」

「ああ、ごめんごめん。僕の名前はフィオ。フィオ・フローライト」


 フィオと名乗った少年は握手をしようと手を差し出すも少女は一瞬戸惑ってしまう。


「わたしは」

「大丈夫、事情は知ってる。君は自分の名前すら覚えてないんでしょ?」

「う、うん」

「はあ……」


 少女の答えにフィオは思わずため息を漏らす。


「うちのバカ女神が本当に迷惑をかけたね」

「バカ……女神?」

「率直に言うと君は元の世界で死んでこの世界に転生したんだ」

「て、転生っ!?」

「うん、転生。いわゆる異世界転生だね。転生の際に自分の記憶も曖昧になったんだ。本当ならその時点で女神様のフォローがあるはずなんだけど……うちのバカ女神様は仕事もしない怠け者だから。仕事をするどころか君を間違えてこのダンジョンの奥深くに送り込んじゃったってわけだね。本当にごめんなさい!!」


 頭を下げるフィオ。その様子を少女はぽかーんと見つめていた。


 異世界転生。


 その言葉は知っている。どうやら自分の名前や素性の記憶が無くなっているだけで一般的な単語などは忘れてはいないようだ。

 それでも少女は驚きを隠せなかった。


「そっか……わたし、死んだんだ」


 転生して今はこうして生きてはいるが、少女が元の世界で一度死んだということはどうやら事実のようだった。

 もちろんその死因は覚えていない。事故か病気か災害、あるいは自殺や他殺の可能性もある。


「そっかあ……わたし、死んだのかぁ」

「君……」

「ま、いっか! 今は生きてるし!」

「……ふ、ふふっ。そっか、じゃあ良かった」


 自分が一度死んだと知っても少女はあまりにも前向きだった。

 そんな少女に一瞬呆気に取られたフィオではあったが、思わず笑ってしまう。


「それで……わたしの名前って?」

「あー、それなんだけど。実は名前までは聞いてないんだ。僕の仕えるバカ女神様なら知ってるだろうからまずはそこに」


 フィオはそう言いながらジャージの上着のポケットから小さな玉を取り出す。

 七色に輝くその玉は一瞬で姿を変え、フィオの手には魔女が持っているようなホウキが握られていた。


「何それ!?」

「ただの魔道具さ。持つ者のイメージによって様々な姿を取る変化の能力を持つ魔法の宝玉【虹の記憶(イリス・メモリア)】だよ。普段からホウキのまま持ち歩くのも邪魔だからね」

「魔法!? この世界って魔法とかもあるんだ! いいなー、わたしも欲しいなー!」

「ここを出たらね」

「やったあ! あ、ついでにもう一個聞いてもいい?」

「何かな?」

「フィオも……転生者なの?」


 少女はそう言いながらフィオのジャージを指差していた。

 この世界がどういう世界かはまだわからないが魔法や魔道具、それにダンジョンが存在する世界において、少女の見知ったジャージというのはやはり違和感があった。

 そこで少女は思った。フィオもこの世界に転生してきているのではないかと。


「あー、これか。これは単に動きやすいから気に入ってるだけだよ。転生者かどうかって話なら……どちらでもあるけど、どちらでもない……かな?」

「どゆこと?」

「詳しく話すと長くなるからね。ま、その話はここを出てからおいおいしようか」

「おいおい……かあ」


 疑問はほとんど解消せず、謎が増えたような気がしたが、少女もそれ以上追及はしなかった。


「…………ん?」

「どうしたの?」

「いや……転移魔法が発動しない」


 フィオはホウキを魔法の杖替わりにして魔法を発動させようとしていたが、何も起こりはしなかった。


「転移魔法?」

「そう、さっき君の前に現れた時に使ったやつ。ダンジョンを出るために転移魔法を使おうとしたんだ。……いや、魔力切れじゃないよ。今日はまだ転移魔法を数回とダンジョンを明るくするための照明魔法しか使ってないし。……そういうなら誰か替わって……いやいや、だから」


 説明の途中、フィオは何やら独り言を始めてしまう。その様子を不思議そうに見つめる少女の視線に気付き、フィオはこほんと咳払いを打つ。


「ともかく、どうやら何かが転移魔法を妨害してるみたいだね。これは入るのは簡単でも出るのは難しいタイプのダンジョンか。あの人もなんだってこんなめんどくさい所に送ったんだよ。転生直後にこんなゴミ初期位置とか無理ゲーでしょうが」

「どうするの?」

「普通に出口を探すか、あるいはダンジョンのボスを倒すか。場所的には最深フロアだからボスを倒す方が早いかもね。こういうタイプのダンジョンはだいたいボスを倒せば、転移魔法も使えるようになるだろうし」

「ダンジョン! ボス! わあ、ホントに異世界転生みたい!」

「君は楽しそうだね。ま、それじゃあ行こうか」


 こうして少女とフィオはダンジョンを脱出するためにボスを探すことにするのであった。

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