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ファンタジー編第6話 町長、無駄骨を折る

 収監5日目、町長がエミリと一緒に牢獄を訪れた。アオヤマは、エミリが届けた書籍や新聞などを読み漁っていたが、手を止め彼女らに目をやった。


 町長は前置きなしに言う、「ゴブリンに手出しをするな。人間では不利だ。アオヤマ君と言ったね、君が仮に天才だとしても絶対に勝てない」。アオヤマは、「5年前にゴブリン族と町民で戦争があったらしいな。史料も新聞も黒塗りばかりで意味が分からないが」と返す。

 

 町長は重々しい口調で語り始めた。「5年前は、とある転生転移者を担いでゴブリン討伐作戦を実行した。その転生転移者はまだ10歳そこそこの女の子だったが、鬼神のごとき強さだった。転生転移者をリーダーとするわが討伐軍は、町に攻め入ろうとするゴブリンの前衛軍約1万匹を1日で殲滅。個々のゴブリンは弱いが、さすがにこの数をここまで早く制圧した例は聞いたことが無い。その後討伐軍は、ゴブリン山樹海に乗り込み、三日三晩にわたり奴らを倒し続けた。おそらく、百万単位のゴブリンを倒しただろう」。

 

 彼女は悔しそうに唇を噛む。「しかし、状況はたった一つのゴブリンの策略で急転する。ゴブリンプリンセスの一匹が、人間に化けて町に潜入し、数人の子どもを人質にして小さな避難所に立てこもったのだ。一方で、討伐軍は快進撃を続けながらも、ゴブリンクイーンまでたどり着けていなかった。というよりクイーンの居場所が分からなかったのだ」


 彼女の顔はさらに険しくなる。「プリンセスは、人質解放を条件に停戦を持ち掛けた。クイーンが見つかる前に争いを止める魂胆だろう。結論から言うと、我々は停戦を受け入れた。ゴブリンどもは、群れの数を維持する策略をとることもあるが、結局のところクイーンさえ生き残ればいいと考えている。一方で我々は違う。少数の仲間が人質にされただけで参ってしまう。だから戦局的に圧倒的に有利だったとしても、人間がゴブリンに勝ち切ることは難しいのだ。これ以前も争いはあったが、どれも結末は似たようなものだ。負けに等しい引き分けばかりだった」。


 そして、諭すように問いかける「君の世界では命の価値はどうだ?争いでも人の命を重視するだろう、魔物の世界でないのなら」。


 アオヤマは黙って目を伏せた。町長は、今度はあきらめの表情で言う。「そもそも、ゴブリンに抗おうにも人が足りんのだ。気付いたように、この町は女ばかり。男がいないわけじゃない、ほとんどの成人男性が、ゴブリンの出現と同時に謎の感染症にかかるようになり、病床に臥せっているのだ。女は看病しながら、仕事や警備にあたっているのだ。ゴブリンなんかと争っている余裕は無い」。


 アオヤマはようやく口を開き、「感染症ねぇ」とつぶやく。そして、独房内に転がっている水筒を蹴った。「ところで、その感染症の症状を緩和する薬があるんだろ?その薬はどうやって作る?」。


 町長は慎重に言葉を選ぶように答える。「森から調達した材料で作っている。とはいえ、今は調達人も減っている。元気なのは……ユーカぐらいか。君がゴブリンを殺した時、まさしく彼女は、材料調達のためあの場にいたのだ」。

 

 これを聞いて、アオヤマの顔が、急に晴れた。「なるほど!謎は全て解けたぞ」。町長はうろたえる「え?何が」。アオヤマは得意げな顔をして答える「つまり、ゴブリンどもをぶっ倒せばいいってことだよ」。


 町長は「ええと君、私の話を聞いていたか?結構大切な話をしたはずなんだが」とさらに狼狽する。アオヤマは「そういう難しい話は分からんから」と突っぱね、聞く耳を持たない。


 エミリは町長に耳打ちした。「この未熟で無鉄砲な男には、何を言っても無駄なようだ。当日、抜かりなくゴブリンに引き渡そう。私も協力する」。


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