ファンタジー編第4話 まさか、暴走?
収監翌朝、ユーカが面会のため牢獄を訪れた。エミリも一緒だ。アオヤマは、「危険予知のおかげで、良く眠れた。危険は感じなかったからさ。でも腹減ったな」と明るく話す。
ユーカは、差し入れとして弁当と水筒を用意しており、「これ、食べてください」と言って格子の間からアオヤマに渡した。彼は有難うとお辞儀してこれらを受け取ったが、口に入れる前に聞いた「ところで何か話が?」
ユーカは「はい。先ほど、町の対応が決まりましたので、伝えます」と言い、その内容の説明を始めた。彼女によると、昨日夕方にゴブリン山樹海のゴブリンの首長「ゴブリンクイーン」からコンタクトがあった。クイーンは、ゴブリン爆殺を強く非難するとともに、3つの要求を突き付けてきた。
要求1つ目は、ゴブリンを爆殺した人間、つまりアオヤマを生きたまま引き渡すこと。2つ目は、町の健康な男子10人と女子100人を、生きたまま引き渡すこと。3つ目は、今後もお互いに約定を守ること。町が要求を受け入れれば今回の件は不問。受け入れなければ報復を行うという。
「町は要求を受け入れました」と、ユーカは目を伏せる。アオヤマは落ち着いた態度で聞く「なるほど。引き渡しの期限は、きょうあすってわけじゃないよね?」。彼女は「はい、10日以内という話です。おそらくゴブリンのもとに渡った人間は、二度と帰って来れないでしょう。せめて、期限ギリギリまで、この町で過ごしてもらいます。アオヤマさんはここから出られませんが、何かあれば言ってください。できる限り協力します」と答えた。そこから沈黙が続き、しばらくしてユーカは「では」と言って牢獄を後にした。
またしばらく沈黙が続いた。アオヤマは何か考えている様子で、天井を見てじっとしている。エミリは昨日と同じく独房の外で腰かけていたが、退屈に耐えかねたのか口を開いた。「ところで、その弁当、食べないのか?」。
アオヤマは何か決心したような顔をしてから、逆に質問した。「それより、ユーカはゴブリンに襲われたあの時、森で何をしていたんだろう」。エミリは「さあ」と短く答える。
彼は質問を続ける「ゴブリンとの約定は、少し人間が不利じゃないか?人間がゴブリンに危害を加えてはいけないのに、ゴブリンは町に近づかないという制限しかない。実際、ユーカはゴブリンに襲われたけど、ゴブリン側はお咎めなし。単純にお互いに危害を加えないとか、近づかないとかじゃダメだったのか」。
エミリは「そうだな」またしても短く返す。
この後も湧き出るように質問が続く。「人間はどうやってゴブリンと闘ってきた?」、「ゴブリンクイーンってどんな魔物だ?」、「この町、男がやけに少なくないか?」、「ゴブリンはなぜ人の引き渡しをを要求する?」
そして最後に「ゴブリンはそんなに強大な魔物なのか?転生転移者として、ゴブリンどもを退治することはできないか?」と語気を強めた。
エミリは何一つ明確に答えず、適当に相槌を打ちながら、(うーん。危険予知を与えて慎重になったといっても、アオヤマ君の根本的な無鉄砲さは変わらないか。少し、熱を冷ましてやらなくちゃ)と考えている。そして「弁当、食べないなら私がもらうぞ」と話をそらした。
アオヤマは、「食わない。この弁当、危険な予感がする。食いたいならどうぞ」と強い口調で答え、弁当を乱暴に格子の外に出した。その目には、怒りとも狂気ともとれる異様な光が宿りだした。
エミリは、(まさか……暴走?)と心の中で叫んだ。態度には出さなかったがさすがに狼狽している。昨日までの出来事が頭の中を駆け巡り、反省が後を絶たない(アオヤマ君、追い詰められてネジが飛んだ?これは、なにしでかすか分からないよ。私の『威厳ある女神』みたいなキャラクター設定は適切だった?もう少し朗らか系にして苦悩を受け止めてあげるとか、おちゃらけ系で緊張を緩和してやるとかしたほうが良かったかも。しっかし、それやったら調子こくだろうなこいつ)。
彼女は少し落ち着こうと、弁当に入っていたタコの形をしたウインナーを口に放り込む。弁当には何一つ危険が無いように思えた。