ファンタジー編第3話 これはもう詰みでは?
「俺の能力は危険予知。しょぼい力……なにが畏怖されるダブル異能者だよ」。
町の入口に着いても、アオヤマは不満げだった。この能力はその名の通り、将来起こりうる危険を予知できるもので、危険予測や危険回避の下位互換だ。重大な危険に直結する、ヒヤリとする瞬間やハッとする瞬間を高感度で予見できるが、100%ではないという。
「天使様、ここがニアフォレストの入口です」。ユーカは、ブツブツ言っているアオヤマを無視してエミリに話しかけた。エミリはアオヤマに聞く「危険予知の調子はどうだ?」。彼は「この町に入るのは、俺にとって危険のようだけど。まあ腹を括って行くしかないかな」と答えた。
3人は町の中央にある役所に向かった。町には多くの民家が並んでいるが、人はほとんど出歩いていない。たまにすれ違う人は、決まって陰鬱な表情をしていて、動きは緩慢だった。役所に着くとユーカは、受付窓口に座っている眠そうな目をした初老女性に伝えた。「ここにいるアオヤマという少年が、森でゴブリンを爆殺しました」。
それを聞いた瞬間だった。受付係は目をカッと見開き大声で叫んだ「ゴブリンを殺したの!えらいことですよ!」。受付が事態を各部署に伝えると、とたんに役所内が騒がしくなった。3人は、奥から出てきた町長秘書らしき女性に役所内で待つように言われ、質素な部屋に通された。すぐに町長、警備兵長、町議会議長ら、町の有力者が部屋に飛び込んできた。全員女性である。「どういうことだ!説明しろ」と、警備隊長が怒鳴った。
アオヤマは森での出来事を説明した。転生転移者であることは伏せていたが、彼が時折使う独特な表現や、彼の横で異様な落ち着きを見せるエミリの存在により、皆に感づかれたようだった。
ユーカは概ね黙っていたが、最後に一つだけ付け加えた。「私が助けてと叫んだのは事実ですが、これは条件反射みたいなものでした。実際に第三者に助けを求めたのではありません。周りに人間がいるなんて考えていなかったですし」。エミリは(この子、ぬかりなく梯子を外したね)と思い、感心した。
町長は、一通りの説明を聞いた後、こう指示した。「アオヤマとかいう、このクズ男は牢獄にぶち込め。ユーカは対応協議会議に加わってもらう。エミリ様は…私どもがどうこう指図できる存在ではありません。好きになさって下さい」。
アオヤマは警備兵に拘束されながら、町はずれにある牢獄まで歩くこととなった。すでに町全体に事態が知れ渡っていて、彼は酷い罵声と憎悪の目線を浴びせられながら進んだ。エミリは何食わぬ顔で一行の後ろを歩いて追う。
夕方になって、ようやく牢獄に到着した。狭く、恐ろしく不潔で、長年使われた形跡が無い建物だった。牢獄内には出入口脇に看守室があり、アオヤマと同時に到着した老女が座った。その奥に5部屋の独房があり、アオヤマはその一室に収監された。
エミリは牢獄内まで入ったが独房内までは入らず、通路にイスを置いて腰かけた。心の中では(うわぁ……この牢獄汚っ……気色悪い虫もたくさんいるし。まあ、一緒に独房内で過ごすなんていう大サービスしてやることもないよね)と考えている。
しばらく沈黙が続いた。看守が席を外したのを見て、エミリが話しかける。「ところであなた。危険予知の力で、収監されることに気付かなかったか?気付いたのであれば、町長たちが来る前に逃げることもできたと思うが。見ての通り警備はザルだぞ」と、誰もいなくなった看守室に目をやる。
アオヤマは「ええ、予知していましたよ。でもあそこで逃げればもっと最悪の状況になると感じたから。俺だけじゃなくみんなも」と答える。エミリは「そうか」と軽く流して話を変える。「ところで、ユーカを助けたことを後悔しているか?」
アオヤマは「分からない。目の前の人を助けることで、その先にさらに重大な問題が発生する場合……。あの時どうすれば良かったかは、答えが出せない。仮にこの時、危険予知能力があったとしても迷ったと思う」と振り返る。
エミリは、(アオヤマ君も少しは考えるようになったかな。短絡的に結論を出すようだと困っちゃうけど)と、少しだけ彼を見直した。そして。彼の真っすぐな眼を見てから、立ち上がって言う。
「さて、私はこれで失礼する、今日のところは。実は少々虫が苦手でな、ここに泊まることはできない」。アオヤマは「虫が嫌いみたいな、人間みたいな一面もあったんだ」と笑った。
エミリは牢獄を出る直前、「そうだ」とつぶやいて振り返り、「ところで、これは義務ではないから伝えなかったが……転生転移者にはそれぞれ、特殊能力と引き換えにミッションが与えられている」と言った。
「ミッション?」と驚くアオヤマに、彼女は「あなたのミッションは、ニアフォレスト住民の信頼を得て、この町を拠点に、魔物から世界を守る活動をスタートさせること」と教えた。
アオヤマは青ざめた「いや、ここまできたら、それはもう無理な気がする。これはもう詰みでは?」。