衝撃的な来客
相手の所は夜明け前の時間とわかってはいたが。光学迷彩を使い空を飛んで、里のレオナインを訪ねた。
レーデルの事、精霊魔法の事、太古語について、フラゼッタ王国の現状、僕が立てた仮説について話し、計画に加担してもらう。
翌朝、レーデルに、僕が準備しようとしている内容を伝える。
性急な行動をせず、準備が整ってから行動するよう話し合った。辺境大森林へ向かう予定は、僕と一緒に立てることも了承してもらった。
僕は専門学校に向かい、二ノ鐘からの治癒魔法講義に出席した。
薬草や外科的な対処は参考になったが、ほとんどの病気の原因が、魔王の仕業であると教えられていた。
魔王には悪者になってもらわないといけないか。
勇者に頼らせないといけない訳だね。
顕微鏡もなく、公衆衛生の概念もないからね。魔王国での教育は科学的な考え方の基本からかな。
昼食後の四ノ鐘から防壁と治癒の見学が、専門校の西側に建つ闘技場で行われる。僕も出席を求められた。
闘技場では奴隷剣闘士を戦わせたり、魔物と武術師、魔術師を戦わせて見世物と賭けの対象にする。奴隷ではなく、職業として剣闘士の試合に出る者、貴族の中にも参加する者がいると聞いていた。
僕は、人が傷つけ合う姿は見たくない。それも金銭のために傷つけ合う場には、行きたくもないと断った。
僕のこれまでの噂を聞いて血の気が多いと思われていたらしく、大層驚かれる。
暴力や裸、いじめを見世物にするって、それ以外の芸を持ち合わせてないってこと。無能を見る趣味はないよ。
前世、あの時代のものは、民衆の目をそらすためとか、人気取りのためとかだったな。
まあ、いつの世でも為政者の思惑で行われるものが、必ずある。世界中から人を集めた競技会とか博覧会とかね。民草は踊らされて、内政の瑕疵から目をそらされるってね。
専門校の図書館で、古い羊皮紙の束を走査している時に、専門校の寮の側仕えが来た。
「エルク様、ラドミール様からの伝言が届いております」
「ん? 伝言が? ありがとう」
ラドミールから、屋敷に僕を訪ねて客が来て待っているというものだった。
客? 名前は書いていないな。ラドが追い返していないのなら……会うか。
専門校から屋敷に戻った。え? この魔力って? 屋敷内にいる者たちが信じられなかった。
客間に入ると、椅子から三人の女性が立ち上り、僕に頭を下げた。
「エルク様」
ん? んん? 弱いが……魔力の反応が弱いが! やっぱり?
「ガラン? ええっ! ガラン! ガラン! ホーロラにスランも!」
「はい、エルク様、ガランです」
三人の女性は改めて頭を下げた。
三人とも長身で均整の取れた肢体、簡素な布を体に巻き付け、革の履物……三人とも絶世の美女と言っていい。
「あの夜の話! ……出来たんだね!」
「はい、人の姿に変身できました」
「すごい! すごい! 驚いたぁー!」
三人は顔を見合わせて、にっこり笑った。
「もー! ゆうべは一言も、こんなこと言ってなかったのに!」
「エルク様に驚いていただこうと思いまして。申し訳ありません」
「いやいや、謝らないで。嬉しい驚きだよ。……でも……三人とも男性だと思っていたんだ。女性だったんだね、……女性に手を上げるなんて、失礼したね、ガラン」
「いいえ、竜族には、他の生物のような雌雄がありません。人間に変身するのであれば、女性でも男性でも、どちらの姿にもなれます」
「ラドミール。君も共犯だね。客の名を伏せた伝言を寄越して」
「私も最初は驚きましたから。『私の背に乗って、共に里に行ったではないか』と言われまして……」
珍しくラドミールが、にやにやと笑っていた。
人の姿になれたのか! それも絶世の美女とは!
連絡網がいけるか!
しかし、あの巨体の竜が……たおやかな女性の姿に……質量は? 見た目が変わっても質量は変わらないのでは? 一歩ごとに床が抜けたりしてない。
あ、女性に体重の話は禁物だね。
みんなで席に着き、ガランたちを見知っているアザレア、オディー、ラウノにも来てもらった。
「……ガ、ガラン様? え、こ、黒竜ガラン様? 人のお姿に……」
アザレアが口を開けて、ガランたちを見つめていた。
「あの夜から、エルク様がおっしゃった事で、本当に面白い思索が出来ました。他の竜たちとも話しました。我々竜族のこと、人種のこと、世界のこと、そしてルキフェ様のこと……太古種のこと。一族に伝わる古い話。私の中に埋もれていた古い記憶……。そういったものの中に、人種に変わる伝承、記憶があったのです」
世界とルキフェ……太古種……古い伝承……埋もれていた記憶、その中に。
記憶……自分の記憶……魂は輪廻転生すると前世の記憶は無くなる……本当に?
完全には無くならないとしたら……前世の記憶……上書き?
答えはわからないが、シナプスの消失で失われる記憶が、予備の複製として魂に記されていくとしたら……前世、今世、後世……埋もれていた記憶……。
僕が、目を上げると、皆が見つめていた。あ、声に出してた?
「ああ、ごめん、ルキフェの名前につられて、つい考え事を。ガラン、その方法を思い出したってことだね」
「はい、その方法を。人種の言葉では表現できず、お教え出来ませんが、ホーロラ、スランたち竜族には伝えることが出来ました」
ホーロラとスランがうなずいた。
「竜族に広めていますが、私自身とホーロラ、スランが訓練をするうちに、別の事実がわかりました。……変身は己の魔力を体内で……回して? ……維持します。その訓練で魔力量が増えたのです。二人とも、隠蔽魔法の時間と念話の距離が延ばせました。私ほどではありませんが」
「ラド、連絡網が、迅速な連絡網が作れるかな?」
「はい。もしガラン様たち竜族が、知られずに動けるとなれば……」
「うん。作れそうだね」
そうか! 魔王国に、空軍が出来たってことだ。隠密の戦闘機、輸送機、高高度偵察機。魔王国空軍が誕生したんだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は、「王城潜入」
じょ、女装しないの? ええっー! してほしいのに! ってお話です。
客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。
誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。
ブックマーク、よろしくお願いいたします。