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幾千世界の回帰者  作者: ぼんとかる
3/3

領主ビバルイ

 襲撃から少しして、四人に囲まれたアモウは目を覚ました。


 「気分はどうだ」


 「…お前、何者だ」


 「俺は気分はどうかと聞いている」


 「お前、俺が誰だかわかっ――」


 「ヤン」


 「はい」


 張りの良い打撃音がテントの中に響く。


 「ぐはっ...!ヤン、お前...」


 「アモウさん、お願いなんでここは素直に答えてください」


 「…裏切ったのか」


 さらに張りの良い打撃音がテントの中で響いた。


 「ふぐぅ...シンん、ヤンを止めろ...ぉ...」


 「アモウさん、聞かれたことだけに答えるだけでいいんです。余計な事は言わないほうがいいです」


 「リ...エン、お前もか...」


 リエンは黙って様子を見ている。


 「気分はどうだ?」


 「...くそだな」


 「そうか。アモウ、お前に聞きたいことがある。ここの管理権は元々、お前ではないはずだ。誰に貰った?それと、お前が取引をしている領主についても教えてもらおう」


 「んなこと、お前なんかに教えてやる義理はねェ」


 「俺はお前と仲良くしていきたいと思っているんだが」


 「俺はこれっぽっちも思ってねェよ」


 「まあそう簡単に口は割らんか。方法なら幾らかある」


 一番手っ取り早い方法はこいつの弱みを握ること。こいつの弱みとなるものそれは――


 「…ライカン」


 「!!」


 アモウの目が一瞬泳いだのを俺は見逃さなかった。


 「思い出した。ここの以前の管理者は確かライカンだったな」


 回帰前の世界では、ホーマ採掘場の管理者は、ライカンという人物だったのを思い出した。ホーマ採掘場は王国が持つ採掘場の一つで、金属が多く取れることで有名だった。ライカンはこの採掘場を要として、近い将来、王国と対立することになる。


 後に、反王制派として国を追放され、悪名を轟かせるまでは。


 その際に、名乗った組織名が「碧の勇軍」というもの。その特徴として、体のどこかしらに、従属を示す青色の隷従紋章が刻まれる。そのため、勝手な行動は許されず、文字通り、命を握られた状態になる。


 隷従紋章には特徴がある。一つ、術者が死なない限り、永久に効果を持つこと。二つ、術式の上書きを行えば、次の術者に隷従権限を譲渡する事が可能であること。


 そして、隷従紋章は二種類存在する。術者が直接命令を下せる直属紋章と、直属紋章持ちが、さらに下の者へ命令を下せる二重紋章というものがある。


 直属紋章のみが刻まれたこいつは、奴隷には変わらないが、ライカンが持つ組織では、幹部の位置にいることになる。


 「いつここをライカンに譲ってもらった?」


 「...何の話してんだよ」


 「お前がライカンにここを譲ってもらった話だ」


 「ハッ、何のこと言ってんのさっぱりわかんねェな」


 「とぼけるのが下手糞だな。奇襲といい、そういうのはお前には向いていない。素直に答えろ」


 「...チッ、知ったところで何になるんだ」


 「ライカンは俺が殺す」


 アモウは呆れた顔をした。


 「お前みてェなやつに殺されるほど、ライカンは弱くねェよ。大体、腐ったもん食って気絶したてめェに何ができんだよ」


 「誰に聞いた。ヤンか?」


 「お、俺は言ってないっすよ」


 「下で馬鹿どもが騒いでたのを聞いたんだよ」


 ...あいつら。


 「そんなものを鵜吞みにしているのか。呆れたな」


 ヤンらが視界の隅で、同時に口を一の字にして黙り込んだ。


 視線を感じる。だが、俺はそれを見ていない。


 「いいから、ライカンの居場所を吐け。場合によってはお前を助けてやらなくもない」


 「だから、お前が勝てるような人じゃねーんだよ」


 「よっぽど俺よりライカンの方が怖いのか」


 「ッたりめェだろ…。お前ェはあいつがどれだけ危険な奴なのか知らねェのさ」


 「そうか。ならば、仕方がない。お前をボイトラに売り払うとしよう。なあヤン、いい考えだと思わないか」


 「え…。ええ、ええいい考えだと思います!」


 「!?」


 「なあシン、リエン」


 「い、いい考えですね…」


 「お…おい!ボイトラ!?ボイトラってあのジジイの事か…!?」


 「と、とてもいいと思います!」


 「お前ら…!」


 誰に言うわけでもないが、ボイトラとは、クオンテン山に住んでいるヤブ医者だ。


 ヤブ医者とはいえ、腕は悪くないし、回帰以前では、何度も世話になった。が、信用の無い奴や、カモになり得る奴には、とことんヤブ医者を貫き通す男だ。


 基本的に、医者のくせに簡単に人を死なせるだとか、若い女子の肉を喰らっているなどの噂ばかり。そういった噂のみが、一人歩きしている状況があるからだろうが、誰も近づこうとしない。


 実際の事に関しては俺も知らん。そもそも、ボイトラが本名なのかすらも怪しいが、そんなことは気にしない。俺にとって、あいつは協力者という立場なだけで、あいつに関する素性には一切興味は無い。


 そんなわけで、噂だけを知る者にとって、彼のもとに連れていかれることは、死んだ方がマシのように聞こえるというわけだ。


 「俺を連れて行くってことは、お前もボイトラに何されるか、分かったもんじゃねェだろ。いいのかよそれで!」


 「ボイトラの何が怖い。噂か。この目で見てもいないのに?俺は真に恐ろしいものを知っている。ボイトラなんぞ、霞むほどのな。噂を鵜呑みにするな。いつか自分の足を引っ張ることになるぞ」


 アモウは少し鈍い顔した。納得がいかないようだな。


 「確かに、話だけじゃ信憑性に欠けてしまうか。ならば仕方がない。後回しにしようと思っていたが、お前らの目の前で鉱山の主を殺そう」


 「鉱山の主も知ってんのか」


 「鉱山の主って何すか」


 「私も知らないのだけど」


 「お前らにとっては邪魔だろう。ついでだ。ついて来い」






 主の部屋へ着いた俺は、手に持っていた作業用ツルハシで、すぐに鉱山の主を無力化した。主の見た目は、少し小さい蜘蛛のようだった。


 「どうだ。満足したか」


 「あんなでかいのに、マジかよ」


 「でかい蜘蛛なのに、さすが大兄貴…」


 「あんなにも大きいのに、人間じゃないわね」


 「…」


 「お前が何を根拠に、あんなに自信があるのかと思っていたが、こりゃあ凄ェな…」


 「こんな化け物がいたなんて」


 「知らずにここに入ってたら、間違いなく帰って来れなかかったっすね…。というか、アモウさん、なんで教えてくれなかったんですか」


 「一応、この穴には近づくなって念は押してはいたんだが、まあ結果良しだ」


 二人はアモウに聞こえないように、耳元で囁きあった。


 「アモウさんって意外と適当?」


 「そうかもしれないわね」


 「理解してもらえたならいい。さっさとライカンについてを吐け」


 「理解できたというか、できなかったというか、まあとりあえず、わーったよ。そいつを殺してくれたし、ライカンのことは話してやる。王国のもんにはまだ言うなって言われてるから、ここだけの話にしてくれ。ライカンが俺にここを譲ってくれたのは、ひと月ぐらい前だ」


 「ちょっと待て。話が長くなるなら手短に頼む。そうでないとうっかり俺の手からツルハシが、お前めがけて飛んでいってしまいそうだ」


 「分かったから。なるべく省略するから黙って聞いてくれ。…それで、その少し前ぐらいに、変な仮面をかぶった男がここを訪ねてきた。ライカンにしてもらいたいことがあるって言ってな。男が帰った後のライカンは()()()()って顔で、ここは俺にやるってくれた。んで、そのままライカンは俺の使命だからって、コクブシィに行っちまった。ここんところ王国からは何の支援もなかったし、なんなら敬遠されてたからな。良い頃合いと思ったんじゃないか?」


 おかしいとは思っていた。この時期に、紋章持ちがいるということは、すでに碧の勇軍は、存在していることになるからだ。そして、このタイミングで王国を離れるとは、あまりにも早過ぎる。相当前から計画を練っていたのだろう。


 嫌な予感がする。


 ライカンがホーマ採掘場を放棄したという事は、王国に反旗を翻すための、何かしらの準備が整ったことを意味する。回帰前であれば、ライカンが反王政派に回るのは、もう数年先の出来事。


 何が原因かは分からないが、歴史にずれが生じたことは確かだ。このままいけば、各地に点在する反王政派が、動き出してしまう。それは止めなければならない。


 碧の勇軍の初戦は、王国の離れにある古城を占領することから始まる。複雑な地形から見ても分かる通り、奴らにとって、都合の良い根城になるからだ。


 まだ、それすらも始まっていないということは、彼らを止める余地はある。


 王国の存続は、良くも悪くも、後の歴史に大きな影響をもたらす。回帰前の世界では、王国は、俺の処理仕切れない敵にぶつける良い駒の役割があった。俺の目標はアイツを殺すこと。その計画が狂ってしまうことなどあってはならない。


 「準備をしろ。これからライカンを止めに行く。馬を出せ」


 「え、今からですか?すでに日は落ちてますよ」


 「日が出てようと、出てなかろうと一緒だ。これはお前たちにも関わる事だ。このまま放っておけば、あいつは間違いなく王国を滅ぼす」


 「何言ってんのかよく分かんないです」


 「おそらくだが、ライカンは軍隊を所持している。お前と同じ青い刺青を持った者で構成された軍隊だ。身に覚えは?」


 「軍隊は知らないが、同じ刺青を持ってるやつなら何人か知り合いにいるな。ちょうど町中にも数十人いる」


 「お前には軍隊の話は来なかったのか?」


 「聞いた事ねぇな」


 「お前はライカンのお気に入りかと思っていたが…そうか。はぶられたわけだな」


 「!?」


 「一度町へ下る」


 「何故」


 「いいからついて来い」


 四人は、状況を把握出来ていない様子ではあったが、素早く俺の指示に従った。





 日が沈んだ頃、カンヴァイ山脈には、五人の人影が馬へ跨り、山の麓へ向かって颯爽と駆けていた。


 「暗ぇ…真っ暗っすよ…」


 「こんな暗い中、馬を走らせるなんて、普通は怖くてできないわ」


 「やっぱりあの人普通じゃないっすね」


 「多分だけど、あの化け物蜘蛛を相手にして、本気出してないわよ。普通じゃないわ」


 「…」


 聞こえているが。


 暗闇の中、左右の木々が視界を何度も過ぎていく。


 松明を持つことが出来ればよかったが、急ぎのため、暗闇でも視界を確保できるように、ぼんやりと青白く光る発光石を全員が身に付けていた。


 「お前本当に今日初めてこの山に来たんだよな?」


 「…ああそうだ」


 「なんでこのルートを知ってんだ」


 「分からん。勘だ」


 実際、勘頼りで下っているため、正確な道ではないと考えていたが、なんとなく道が続いているので、何度か採掘組が使用しているのだと思う。


 アモウ曰く、今我々が進んでいる道は、採掘場から麓の町まで、ほぼロスタイムが無く下れる、整備のされていない岩道とのこと。


 「なんでこんなに急ぐ必要があるんだ」


 「説明するには確証が持てない。町が危ないのは確かだ。だから、まずは領主に会う」


 「あのなあ、領主だって馬鹿じゃねェ。見ず知らずのやつなんかに会うわけねェだろ」


 「そのためにお前がいる。お前が、俺と領主の橋渡し役になるんだ」


 アモウが嘘をついている可能性も十分あるが、アモウは領主と関わっていても、碧の勇軍については何も知らされていない様子だった。ならば直接領主に聞く方が手っ取り早い。


 碧の勇軍はおおよそ三万弱。一か所に駐屯しているとは考えにくい。ならば、ライカンの目が行き届き、かつ王都から離れた場所に隠す方が安全だ。その内の一つが麓の町であることはまず間違いないだろう。


 「そこを左に向かえ!町の裏側に着く」


 アモウが道を示す。その指示通りに山を下っていく。


 しばらくして、町の裏側に到着した。


 「馬は見つからないように、留めておけ」


 「なんで正面から入らないんすか」


 「今から領主を襲撃する。正面から入ったところで無駄に時間を食うだけだ」


 「襲撃って、冗談っすよね?」


 「冗談ではない。俺とヤン、シン、そしてアモウで行く。アモウ、領主邸は何処だ」


 「この壁を越えればすぐに見える、赤い屋根の屋敷だ」


 「…本当に行くんすね。自分、馬見てていいですか」


 「馬はリエンに頼む」


 「分かりました」


 リエンはシンと目が合うと、片手ですまないねと伝えた。


 「えぇそんなぁ…」


 「俺は戦えないっすよ!大兄貴」


 「分かっている。だから、今後のために俺らの戦い方を見て学べ。そして何かを得ろ」


 ちょっとした柵を越え、近くの屋根に飛び乗ると俺たちは、屋敷の特徴である赤い屋根の建物を探した。


 「はぁはぁ、速いっすね…どこっすかぁ?赤い屋根の建物って、そんな建物いくつもあるじゃないですか」


 「目の前って言ったろ。あれだ」


 「あーーあれっすね!」


 「どうした」


 「何か聞こえるか」


 「何が」


 「耳を澄ませ。何か聞こえるか?」


 「いいや?」


 「それがおかしい」


 「何でだよ。今は夜中だぞ。住民はとっくに寝ている時間に決まってる」


 「行くぞ」


 「えちょっと、今登ったばっかなのに!」


 夜中だろうと、住民全員が寝るわけじゃない。特に酒場なんかはそうだ。夜の方が人の出入りは絶えない。そのはずだが、そんな空気が微塵も感じられない。何かが引っ掛かる。俺は嫌な予感のまま、領主の屋敷へと向かった。


 「ここだ」


 「やっと休憩できる…」


 「辺鄙の領主にしては随分と立派な屋敷だな。町の金でも横領したんじゃないか?」


 領主については、事前にアモウから聞いた。名はビバルイ。金にがめつく、自分に得な者としか、関わりを持たない。屋敷を見て分かるように、古典的な金の亡者だ。


 「た、確かに、この街には似つかない屋敷っすね」


 屋敷の外観には、金でできた細工が施されている。他にも庭には誰かを模様した彫刻像などが建てられていた。


 領主の屋敷は立派なものであった方が良い。屋敷とはその町の顔と言えるものであるからだ。そして、屋敷の豪華さは街に比例していなければならない。


 だが、ここはどうだろうか。この町は鉱業で栄えているとはいえ、そこまで羽振りの良い利益は出ていない。稼いだ金の大半は、王都への献上金として収められているからだ。怪しいことには変わりはない。


 「おい待て。いいか。普通、領主に取引を持ちかける時は、手土産が必要になるんだよ。具体的に大金だな。それが無いとまず、話すら聞いてくれない」


 「金か。当然そんなものは無いぞ」


 「…だろうな。そう思って金の代わりに、俺は純度の高い鉱石を一袋分持ってきた。この袋一つで大半の人間は一生食っていける分だ」


 「一生!?」


 「この純度の高さの鉱石なら、あのがめつい領主でも納得してくれるだろうよ」


 シンは両手でよく分からない計算をしながら、ギラついた目で袋を凝視している。


 「ガチャガチャうるさいと思っていたが、そのためか」


 「これぐらいのもんが無いと相手にすらしてくれないからな」

 

 「そんなものいつ集めてたんすか」


 「半年以上前からコツコツと集めていた。何かあった時のための貯蓄としてな。備えあれば憂いなしってやつだ。まさか、ここで使うとは思わなかったがな」


 「俺を見るな。持ってきたのはお前だ。それと、別にそんなものが無くても、俺には考えがある」


 「どんな考えがあるんだ」


 俺は思い切り屋敷の玄関扉を蹴り破った。


 「こうだ」


 「お、おま、お前ェやりやがったな!?」


 「何をしてんすか大兄貴ッ!」


 「何がだ。俺は交渉をするとは一度も言っていない。襲撃すると言ったんだ」


 「今のは穏便に交渉を、って流れだっただろうが!空気読めよ!」


 「過ぎたことに一々文句を言うな」


 そうこうしているうちに、奥から二人こちらに向かって来た。装備からして傭兵だろう。


 「領主の屋敷と知っての行いか?」


 「領主に用があるのでな」


 「随分と大胆な奴だな。…おい、隣にいるのは採掘場の管理人じゃないか?」


 「名はアモウだったな。どういう事か説明してもらいたい」


 アモウは思った。くっそ、やらかした。完全に判断を間違えたな。こいつに先陣切らせるべきじゃなかった。このままだと俺の安定した未来が危ない…!


 「た、助けてくれ!こいつに脅されて採掘場が乗っ取られたんだ。このままだとせっかくのけいやグハッ…!」


 「誰が命乞いをしろと言ったんだ。そんな必要はない」


 アモウは再び思った。お前のためじゃねェよ!俺の未来のためだ!


 「お前らなど相手にもならん。指一本あればいい」


 「それは舐め過ぎだろう。こっちにもプライドってものがあるんだ。黙ってられるほど、出来てないぞ」


 「武器も持てないのに、威勢振り撒くんじゃねーよ。万が一にも殺しちゃっても後悔すんなよ」


 「俺を捉えることすら出来ていないのにか?」


 「「!?」」


 その場にいた全員が自分の目を疑った。瞬きをする間に俺が傭兵二人の背後に回ったからだ。


 傭兵二人はすぐに背後へ武器を向けたが、それよりも前に俺は、二人の顎へと拳を放った。


 「「かはっ」」


 二人の傭兵は同時に床に崩れ落ちた。


 「なんすか今の…」


 「見えなかった。…それより今、拳を使っただろ」


 「顔が気に食わなかったから、咄嗟に手が出ただけだ。ぼーっとするな。行くぞ」


 「ちょ、さっきから二人とも色々速いっす!置いてかないでください!」


 玄関から見えるのは、真っ直ぐに続く長い廊下。その廊下の壁にはいくつかの扉があり、なかなか良い絵画が飾られている。


 「あの先の突き当たりに領主の部屋がある」


 「ここだな」


 「え、そんな堂々と入るんっすか」


 部屋に入ると、机を目の前に男が椅子に座っていた。


 「はあ、こんな夜遅くにどこの誰が、どういったご用件で?…おや、アモウ管理人も一緒とは」


 「お前がビバルイだな。俺は王都から派遣されてきた者だ。手短に確認したい事がある」


 「王都ですか。格好もそうですし、あなたのような方は身に覚えがありませんね」


 「昨日担当を任されたばかりだからな。知らないにも無理も無い」


 「…そうですか。では確認したいこととは?」


 「()()()についてだ」


 その単語を聞いた途端、領主の顔が訝しい表情に変わった。


 「その単語をどこで?」


 「隠す気はないのか」


 「王都からわざわざこの地に足を運んで頂いたのです。少なくとも裏付ける何かを持っているという事でしょう」


 「…そうだ。そういう事になるな。話が早くて助かる。この町に碧の勇軍を駐屯させていることは分かっている。どこだ」


 「…それは、正確な情報ではないですね。軍はもうこの町にはいませんよ」


 「いたという事は間違いないようだな」


 「はい。すでにこの町を後にしました」


 「いつだ。今日か?」


 「ええ、ちょうど陽が沈む頃です」


 もうはや軍は動き出したのか。完全に回帰前とは違う動きを見せているな。


 「軍の規模は?」


 「町の全住人ですよ」


 その言葉に一瞬、アモウが顔を強張らせた。


 「住人の数はいくつだ」


 「二千人はいますよ。勇軍としてコクブシィに向かった者は、子供、老人を抜いた、千五百と言ったところでしょう。そういった情報は把握していると思ったのですが」


 「そんな情報は知らん。王都から来たというのも嘘だ」


 「え、それ言っちゃうんすか…」


 「下手な嘘はかえって自分を苦しめるからな」


 シンは素っ頓狂な顔を晒した。


 「なんと、王都から来たというのは偽りだったとは。驚きました」


 わざとらしく納得した、という風な顔をした。まるで知っていたかのような顔だ。


 「驚いている様には見えん。それにさっきから内情を喋りすぎだ。俺にとって有益な情報しか話していないぞ」


 「私は領主ですからね。こう見えて人を見る目は良いのですよ。とくに金の匂いがする人を見る目は。そうやって、ここまでのし上がってきましたから」


 こいつはどうもきな臭いが、条件次第ではこちらにつくかもしれない。


 アモウが口を開いた。


 「軍はコクブシィに向かったな」


 「行き先は知らされていないので、私からは何とも言えませんが、南の方へ向かわれたのでおそらく、コクブシィで間違いないでしょう」


 「ビバルイ。お前は何処までをライカンから聞いている」


 「彼のしようとしてる事は想像はつきますが、内容については一切聞かされていません」


 「ならば、ライカンの計画は、お前にとってどんな影響を与える?」


 「上手くいけば、今の地位から昇華出来るでしょう。失敗すれば、彼に加担した私は、即刻死刑でしょうな」


 「上手くいけば、な。俺たちは、ライカンを止めるつもりだ」


 「構いませんよ。私じゃあ、あなたたちに敵いそうにない。精々、奮闘して後ろの彼一人でしょう」


 ビバルイはちらっと、扉の方に目を向けた。俺もそちらに目を向ける。


 「確かにな」


 「いやあ、そこまちょっと否定してほしいっすね!一応、筋肉は付いてますから!ね、ほら」


 筋肉アピールをするシンは必死だった。


 ビバルイ。こいつはこいつで、碧の勇軍とは別に何かがありそうだ。

 

 再び、アモウが口を開いた。


 「目的地は分かったんだ。急ごう」


 「ふむ、そうだな。領主ビバルイ。失礼した。また後で来る。行くぞ」


 「ええ、健闘を祈ります」


 「あ、そうだ」


 「なんでしょう」


「俺は屋敷の修理代は出さないから、自腹で頼む」


 「…」




 リエンの元へ戻ってきた俺たちは、すぐに、軍の跡を追い始めた。


 「話せば分かるやつだったな」


 「おかしい。いつもなら、あんな簡単に決まんねェよ。きっと裏があるぞ」


 「だろうな。あいつはあいつで、何かしらの計画を持っているように見えた。とりあえず、あいつは後回しだ」


 「今はライカンっすね」


 「ここからコクブシィまでいくらだ」


 「町からなら二日半ってところだな」


 「必ず追いつくぞ」



 月明かりに照らされた平原に、五馬とその背中に乗る五人の影が、映し出される。




 平原を颯爽と駆ける馬の立髪が激しくなびく。




 夜明けはまだ遠い。

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