表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/14

第九話 変な奴と変な奴

「気にかけてくれたというか……まぁ、言いようによってはそうなるかもしれないけど……」




 少したじろぎながら、面真は答える。




 面真は恐怖を感じて少しずつ後ずさっているのだが、一定の距離感を保ち続けるためか、眼前の少女はそれに合わせるようにこちらににじり寄っていた。




「――そうですよね! ありがとうございます! ありがとうございます! ささ、これ以上こんな下賤な奴なんかとお話しにならずに、ご学友と歓談されてはいかがでしょう!?」




 なんというか……怖い。三つ編みの髪が乱れ、太い黒縁眼鏡がずれるのにも構わず、何かにとりつかれたように動く少女は、事態が事態なら即座に通報する案件だ。




「いや、ごめん。そもそも君の名前を知らないし……なんでそんな言葉づかいをされるのかも謎だから、そこを話してからにしてもらっていい?」




「――! まさかこんな卑しい女に、まだしゃべる機会を設けていただけるのですか?! このご恩になんと報いれば……!」




「ああ、うん。今聞いたことを話してくれればそれでいいよ」




「ちょっと面真くん? これなにごと?」




 見かねた詞詠が助け舟を出そうと――――していなかった。




 『面白そうなやつがいるじゃないか、なぜ昨日のうちに話してくれなかったんだい?』とでも言いそうな顔をして、目を輝かせながらこちらを見ている。




 そんな詞詠に、面真自身も何も知らない旨を話そうと口を開く。――だが、それより先に言葉が聞こえてきたのは少女の方からだった。




「木南豪詞詠さん……でしたか?」




「うん、そうだよ! あなたは?」




「…………わたくしは、あなたのことが好きではありません」




「……………………はい?」




 そのやり取りだけで、場の空気がぴりついたものに変わる。唯一の救いはこの場に他のクラスメートがいないことだった。




「昨日会ったばかりの分際で生目くんの代表挨拶を邪魔し、輝かしい彼の経歴に傷をつけた! しかもあまつさえ彼を失神させるなんて……その行為、到底許されるべきものではありません!」




「え、えと……」




「それに、今朝も一緒に登校していたじゃないですか! そんなの羨ま……じゃなくて、距離感が近すぎます!」




「そ、そうかな……私としてはこれくらいが普通なんだけど」




 面真が詰め寄られた時と同じようにたじろぐ詞詠。彼女のこのような様子を見るのはなんだか新鮮で、少し笑ってしまう。




「生目くんまでそんな顔をするんですか……?!」




 そう言うと少女はうなだれて、三つ編み版貞子のような体勢になる。




「もう分かりました……こうなったら、わたくしの生目くんへの愛を! 二人に教えてあげましょう!」




「いや、それよりもまず名前とかを教えてほしいんだけど……」




 面真の切実なつぶやきは、聞き入れられることなく掻き消えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ