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第八話 変な奴とクラスメート

 面真たちが学校に着いたのは、面真の家を出てからちょうど十分後のことだった。




 時刻は午前八時、始業は八時半からなので、まだまだ余裕がある時間だ。




「わ、まだこんな時間。ねぇねぇ、面真くんってさ、いつもこんな早い時間に来てるの?」




「ギリギリに出て間に合わずに遅刻ってオチよりよっぽどいいからね。それに、朝早く起きるのは健康にもいいし、その時間で授業の予習もできるから」




「そんなこと考えたことなかったなぁ。私はいつも遅刻ギリギリだったし。何なら週一くらいで読みを間違えて遅刻してたし」




「間違いから学ぼうという気はないの? ──というか、よくそれでこの学校に来れたね……。先生から反対されそうなものだけど」




 この学校──県立宮代山学園は、この近辺では一番の進学校だ。ここより高いレベルの学校に行こうと思ったら、それこそ他県などの名のある有名私立に行かねばならない。




 そんな学校へ、中学の問題児だったであろう詞詠を行かせるわけがないと思うのだが……。




「面真くん忘れちゃった? 私、一応入試の成績は君に次いで二位だよ?」




 そういえばそうだった。それを思い出すと同時に、面真の頭に「体調不良だっただけで、私も実質満点だったから!」というようなことを言っていた詞詠が思い出される。




 あぁ、今更だけどまた腹が立ってきたな。




「まぁ、人間は入試の成績だけじゃ計れないよ」




「学力は入試の成績で計れるけどね!」




 何やらうまく言い返された気がして言葉に淀む。一発逆転の手段はなあだろうかと辺りを見回すと、近くにいたクラスメイトが目に入った。




 言っては悪いが、いかにも根暗そうな……三つ編みでまとめられた黒髪に、太い黒縁の眼鏡が印象的な女子に声をかける。




「ねぇ」




「──は、はい!! 何でしょうか!?」




「あなたって、入試の自己採点何点だった?」




 いきなりこんなことを聞くクラスメートも、まずなかなかいないだろう。彼女には後でお詫びをしなければ。




「入試の成績……ですか? 自己採点は五百点満点中三百点ほどでしたけど……」




「……! ありがとう。いきなりでごめんね」




 そう言うが早いか、質問した女子に背を向ける。




「ほら、詞詠。僕らとは違って入試の成績は三百点だけど、この学校に入学できている。君の言う学力は、入試の成績で計るには受験者のランクが偏りすぎているよ」




「ぐぬぬ……! 屁理屈を言うねぇ、面真くんも。──というか、いきなり声かけたと思ったらまさかその人なんてね」




「? どういうこ────」




 振り返ってその女子の顔を見たとき、はたと気づく。その女子生徒は、今朝僕らが通学しているときにいきなり挨拶だけしてきた女子生徒だ。




 クラスメートだというのに、僕はなぜすぐに気づかなかったのだろうか……!




 不覚の思いに身を焦がしながら女子生徒に声をかけようとすると、なんだか違和感を覚えた。




 見た目でパッとわかる違和感はな……嘘だ。違和感しかない。




 目がトリップしている。何やら斜め三十度ほどの方向をずっと眺めている。ハァハァとした息遣いが聞こえてくる。などなど、ヤバいところはたくさんある。




 ただそのどれもが、面真の脳裏に一番焼き付いた事実足り得なかった。




 真面目に生きる過程で、お辞儀の角度や目上の人に対する佇まいなどをみっちりと仕込まれてきた面真だからこそ分かる────普通なら見逃すべき違和感。




「……さっき僕と話した体勢から……一ミリも動いてない……?」




 指の位置、頭の位置、果ては靴の角度や服のシワ度合いまで、つい先程見たそのままの体勢で立っている。それ以外は多くの変化が見られているのに、だ。




 そのまましばらく眺めていると、やがて彼女に変化が現れた。




「……って……面……た……ですか?」




「ごめん、もう一度言ってくれないかな?」




「あーあー!! ごめんなさい! コホン、それではもう一度。




 それって……私のことを面真君が気にかけてくれた……ってことですか?」


 


 僕の新しいクラスメートはトリップした目でそう言った。

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