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第四話 変な奴とその思考

「それは……どういうこと?」




 そう面真は問うが、その質問への返答は返ってこない。




 代わりに、先ほど部屋に入ってきた三人が口を開く。




「君が木南豪詞詠さんでいいかの……?」




「はい、そうですが……何か御用ですか?」




 それは、面真が今日一日見てきた詞詠の中で、最も詞詠らしからぬ発言だった。――まぁ、面真が詞詠と関わったのは今日が初日だが。




 とはいえ、常識や倫理観というものがブチ飛んでいそうな詞詠の中で、一番常識人らしい発言と言って過言ではなかった。




「なんですかあなたは。自分のしでかしたことが分かっていないのですか……?」




 先ほど詞詠に問うたのは中央の男性だったが、嫌味を言ったのは初老の女性だ。年齢としては先ほど詞詠に質問した男性と同じくらいだろうが、なぜだろうか、面真はこの女性に自分と似たものを感じた。




「まぁまぁ、生徒をそう責めるものでもありませんよ。彼女なりの理由があるのかもしれませんし」




「だとしてもこんなことは前代未聞です! こんな――始業式を¥で好き勝手されては、我が校の威厳が……!」




 ややヒステリックになりながら喚き散らす女性教師。面真は自分と似ているかもしれないと思ったことを撤回した。自分だったらば、体調不良者がいる前でこのように喚き散らしたりはしない。




 それを見とがめてか、今まで一言も発さなかった奥の男性が、「そこに倒れてしまった人もいるのですよ? 我らのすることは憤慨することではなく事情を聴くことでしょう」と諫める。




 その男性は、そのままこちらの前に姿を現す。先ほどの二人と比べるといやに若いと思えるような、おそらく四十くらいだろうと思われる男性だった。




 こちらに来る勢いそのままに、四十ほどの教師が先頭に立って質問をする。




「では……まずは木南豪さん。いろいろと聞かせてもらいたいことがあるんだけど……いいかな? あ、もちろん正直に答えてくれて構わないよ」




「…………はい」




 そこで面真は少し拍子抜けした。




 面真の知る詞詠ならば、ここでも食ってかかるのではないかと思っていたのである。まぁ、面真としてはやらなければならないことが減ってありがたいのだが……。




「それじゃあ、手短に行こうか。――なんであんなことをしたのか、聞かせてもらっていいかな?」




「やりたかったから……じゃ、ダメですか?」




「――ちょっと! あなた大人をなんだと思って――」




「先生。今はこの子の時間です」




 またもや怒りかけた女性を、若い男性教師はすぐに諫める。面真が知らないだけで、この先生は偉い人だったりするのだろうか。




「失礼したね。君がそれが理由だと言うのなら、それで構わないよ」




 まるで食後のコーヒーでも飲んでいるかのような落ち着きぶりに、面真は一人面食らう。




「先ほどの質問と似たようなものになってしまって申し訳ないが――やりたかった理由など、あったら教えてくれないかな?」




「色んな人と、友達になりたかったからです」




 少し不機嫌そうな詞詠がそう言うと、それを察したのか中年の男性教師は「ふむ」と呟く。




「それだけならわざわざ始業式の代表挨拶を横取りする必要はなかったと思うのだが……そこについてはどうなんだい?」




 ふと、空気が変わった。




 先程まで温厚な調子だった中年教師の目が鋭くなり、こちらのすべてを見透かされているような気分になる。




「少し、先程までの回答と矛盾するかもしれませんが……いいですか?」




 いやに下手したてに出る詞詠に、構わないとばかりにうなずく先生。




「それは────そのほうが、面白いと思ったからです!」




 始業式の時と変わらない元気さでそう宣う詞詠に、全員が呆気にとられる。




 そんなことなど微塵も気にしないかのように、詞詠は更に続ける。




「私は生きた時間は短いですが、普通の人には飽きました。もっと面白い人と、もっと変な人と、もっとおかしな人と、私は出会いたいんです。──だから、始業式の代表挨拶を狙ってやりました」




 あまりに正直にすぎる告白。先程構わないと言ったけれど、自身の「友達を増やしたい」とも、結果だけ見れば矛盾している。




 そんな不完全な学生の理論を────中年の先生は、いや、その先生だけが、笑って聞いていた。




「ハハッ、ハハハッ! あ〜……。いや、すまない。あまりに面白くてね。まさか入試二位の成績を残した子が、このような我の強い子だとは!」




 喜々とした顔の先生を見つつ、面真は「やっぱり入試二位は詞詠だったか……」と内心うなだれる。




「ありがとう、これで木南豪さんに聞きたいことは終わりだ。それで────生目くん、少しいいかな」




「僕……ですか?」




「あぁ、君だ。君は先程の言葉を聞いてどう思ったか、そして、君自身がどう過ごしていきたいか、それをお聞かせ願いたい」




 面接のような質問に、少々肩透かしを食らう面真。




 だが、その問いに答えるのに、それほど時間はいらなかった。




「僕は……僕自身は真面目に生きたいです。他人にまで強制はしないですが、そのように生きてほしいとも思っています。変人が世の中に多くいたらたまりませんし。


 ──でも、それでも。木南豪さんの言っていることは、僕が目指すものとは別ながらも、面白い志だとは思います」




 何ら面白みのない、面真らしい答え。


 真面目に生きるのは面真の生き方。それを変えるつもりも、変えられるつもりもない。ただ、他人は他人で求める生き方がある。それだけのことだ。




「まぁ、もう一度言うと真面目に生きてくれたほうが楽ではありますけどね」




 かすかなジョークのつもりで口にするが、笑っているのは中年の男性教師だけだった。




「いやはや、君も面白い。君も十分変人側の人間のようだね」




 そう言ってひとしきり笑ったのち、更に先生は続ける。




「──分かった。君たち二人に免じて、今回の件は水に流そう。そのかわり……君たちがまた、なにかしてくれることを、わずかながら願っているよ」




「ちょっと、それは流石に──」




「ここです規則を優先し、若い芽を摘むことほど愚かなものはありませんよ」




 悟ったように言う先生。ここで僕は先程からずっと気になっていた疑問を投げかける。




「先生って……偉い身分の方だと思うんですけど、どなたですか?」




「ん? あぁ……。紹介が遅れたね。わたしは小梨志茂六こなししもろく。この学校において、臨時で校長より偉い立場の人だよ」




「ええっ!?」




「あれ? 面真くん聞いてなかったっけ? 入学式の最後に言ってたよ。この学園の改革のため〜とか言って」




「僕は詞詠が挨拶に乱入したせいで気を失っていたから聞いていないよ」




「あ、そうだった。ごめんね?」




 驚きの感情がこうまでして一瞬で、苛立ちに代わることがあるのだろうか。ただ面真は真面目なので、保健室で騒ぐようなことはしないが。




「そういうわけだ。これからの君たちの生活、楽しみにしているよ」




 そう言って、三人の教師は去っていく。




 あとには再び、面真と詞詠だけが残された。




「面真くん、ありがとね。私の志を面白いって言ってくれて」




「面白いと思ったからそう言っただけだよ。他意はない」




「そっか……。大丈夫、面真くんももう 友達だから!」




 ん?




「な、なんて……?」




「だ、か、ら〜、もう友達だから、二人で一緒に友達作り、頑張ろうね!!」




「他意はないって言ったよね?! その考えに賛同したわけじゃないからね?!」




「目指せ! 友達千人!」




 あ、駄目だこれは。おそらく人の話を聞いていない。




 面真の学園生活は始まったばかりだというのに、前途多難さがありありと


目に浮かんだ。

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