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第三話 変な奴と僕の目覚め

 どれほど時間が経っただろうか。正確には分からないが、少なくとも面真にとっては、久方ぶりの目覚めであるように思われた。




「……知らない天井だ」




 どうやら面真はベッドに寝かされているらしい。一番最初に天井が見えたことと、面真の背中に伝わるパイプベッドの感触が、ありありと感じられる。




 ──身を起こすと、見慣れない部屋にいた。




 視界の殆どはカーテンのようなもので覆われているが、一部開けたところからは、デスクのようなものが見える。




 その奥には……何らかの棚だろうか? 少し遠くて見取れないが、中には箱に入った何かが陳列されていた。




 未だ頭が上手く回らないまま、カーテンを開ける。──その時、鈴の音のような声が、面真の鼓膜を揺らした。




「面真くん? 起きた……?」




 ……誰だっただろうか。聞き覚えがあるような、ないような。




 あぁ、うまく思い出せない。




 少しぶっきらぼうにカーテンを開けきると、目の前にはブレザーを纏った少女──木南豪詩詠がいた。




「良かった〜! 起きないかと思って心配したんだよ? 急に気絶しちゃうし……」




 その一言で、つい先程のはずの記憶が蘇る。素晴らしいもののはずだった式も、面真の新入生代表挨拶も────それらをすべて、目の前の少女に台無しにされたことも。




「──式は?! 入学式はどうなったの?! というか君が元凶なくせに、よく笑っていられるね?」




「まぁまぁ。君の同意を得ずにやったことは謝るけど、他のところで乱入するよりは良かったかなって」




「良くないよ!? そもそも入学式のさなかに乱入とか普通は考えないから!」




 ──駄目だ。嫌な記憶が蘇り、怒りたいのかツッコミをしたいのか分からなくなっている。起こることは構わないが、八つ当たりのような形になるのは、人に責任を押し付けているようで嫌だった。




「…………一つずつ聞こう。式は? 入学式はどうなったの?」




「私が乱入して挨拶したあとに、私と君が引きずり降ろされて終わったよ。──ねぇ、ひどいと思わない?! こんなうら若き乙女を、力で無理やり引きずり下ろすなんて!」




 身を抱く仕草をする詩詠だが、正直可愛くもなんともない。




 心の中でだけ、「妥当な判断だし当然の報いだと思うよ」と言ってから、次の言葉を続ける。




「それで? 君は怒られたりしなかったの?」




「ん〜、よく分かんないけど、一旦そういうのは後でやるみたい! 今回は君が倒れて、話が聞けなかったからだと思うけどね。お陰で帰る時間が遅くなっちゃう」




「──帰る時間? ってことはもう今日の行事は終わったの?」




 面真が倒れたのは、式も終わりかけの十一時少し前。今がどれくらいかわからないが……そんなに時間が経っているのだろうか?




「もう午後の三時だけど。私は君をずっと見守っていなきゃならなかったからお昼もご飯も食べてないよ……」




 詩詠がそう言ったタイミングで、ちょうどよく彼女のお腹が鳴る。




 その少しあとには、お腹を鳴らした少女からの、食料催促の視線が刺さる。




「残念ながら僕に食べ物を期待しても無駄だよ」




「──そんなぁ!? 友達第一号は使えないなぁ」




「勝手にアテにしておいて、勝手に落胆された側の気持ちも考えてほしいね」




「私は私が良ければ大抵のことはどうでもいいよ? 法に違反するとなると面倒だけど、校則とか常識、他人の気持ちくらいなら気にしないよ!!」




「頼むから少しは気にしてほしい。君は良くても僕のストレスが尋常じゃない」




 ため息をついて、一度辺りを見回す。




 少し冷静になってみれば、ランドルト環の表や、身体測定で使われる器具などから、保健室であることが分かる。




「──まぁ、なんとなくではあるけど、なんで僕が保健室に運ばれたかは理解したよ」




「そうなの? ところで保健室に男女二人。しかも片方はベッドにいるこの状況。なんだか少し興奮しない? 私はしない」




「僕を性欲の権化だとでも思ってる? 僕もしないよ。──というか、話をずらさないでほしい。まだ聞きたいことがあるんだし」




「何が聞きたいの? 私の好きなタイプ?」




「…………君を置いて僕だけ家に帰ろうかな」




 僕はこのとき本気でそう思った。ここから家までの距離は大してない。であるならば、余計なことをされる前にさっさと帰ったほうが吉である。




「わ〜!! ごめんごめん!! 帰りにご飯でもおごってあげるから!」




「貸し借りはしない主義なんだ。話を本題に戻すけれど…………君は、なんであんなことをしたの?」




 その言葉を耳にした詩詠が、ピシッと音がなったように固まった。今ならだるまさんが転んだでも無双できるかもしれない。




 そんなくだらないことを考えていると、扉がノックされる。「はい」と応答すると、スーツ姿の男性二人と女性の計三人が、部屋の中に入ってきた。




 詩詠は未だ固まったままに見えたが、口だけを動かして、面真にだけ聞こえるよう呟いた。




「君の質問の答えは────今から分かると思うよ?」

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