第十一話 変な奴とその周囲
「はい、じゃあ朝の挨拶を……出席番号一番の相田」
「起立、礼」
「「おはようございます」」
よくある挨拶を終え、全員が着席する。――ただ一人、困惑したままの彼女を除いて。
「……どうした山岡。座らないのか?」
「あ、え、えと……ごめんなさい。少しぼーっとしてました……」
「高校生活が始まって浮かれるのもわかるが、気を引き締めるようにな」
「はい、すみません」
そう言って顔を真っ赤にしながら座る少女。ただそんな中でも、しっかりと視界の恥に面真を捉えているのが分かる。
「えー、しっかりと顔を合わせて話をするのは初めてか。俺はこのクラスの担任を受け持たせてもらった、真堂哲人しんどうてつとだ。一年間よろしく頼む」
「早速だが、次の時間は自己紹介をしてもらう。全員がクラスのみんなのことを知っていって、いいクラスにしような!」
それから確認事項やプリントなどを渡し終えたのち、先生は教室を出る。
教室に張り詰めていた緊張の糸が、一気に切れる音がした。
「はー、先生あんな人なんだ」
「ちょっと威圧感あるよな」
そんな声が口々に上がる中、面真は山岡有記やまおかゆき――先ほどの少女のもとへと向かう。
ちなみに名前は先ほど座席表で確認していた。
「あの…………」
「は、はい! なんでしょう生目くん!!」
「一つだけ言いたいことがあるんだけど……」
瞬間、少女の表情が目まぐるしく変化する。
面真からすれば全ては憶測でしかないのだが……何を言われるのだろう? あの生目くんに向こうから話しかけてもらえた! 生目くんの気に障るようなことしてないかな、大丈夫かな。といった感情が、現れては消え、また発現される。
めまいを覚えるほどの感情の移り変わりを眺めながら、次の言葉を待つ種所へ口を開く。
「――さっきまで大声で話していたから、僕に対する視線の集まり方が尋常じゃない気がするんだけど……」
面真が言うと、有記の顔が一瞬青ざめたものに変わる。それから周囲を数度確認すると、泣きそうな目をしてこちらの方を向いた。
「生目くん……ごめんなさい、わたくし、こんなつもりじゃ……」
これまた大声で、いかにも誤解を招きそうなことを言う有記。その声に、周囲の視線がさらに集まる。中にはこちらに近寄ってくるやつもいた。
真面目に過ごそうと思い話しかけた結果がこれなのか……と諦め、いったん有記を連れて場を去ろうとしたところに、声がかけられる。
「面真くん、面白い子連れてきたじゃん! いいよ! ありがとう! 変人大歓迎だよ!!」