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第十話 変な奴とその馴れ初め

 わたくしが生目くんに出会ったのは、小学校の時のことです。




 今と変わらず気の小さかったわたくしは、あまり人と話すことができませんでした。




 それに加えて、長い黒髪がお化けを思い出させるのか、怖がられたり、いじめられたりしました。




 一度は学校の先生に相談しようかとも考えましたが、すぐにそんな考えは捨てました。




 ――だって、いじめっこたちが皆、先生の周りにいるんです。




「ねーねー先生!」




「今日はどんな授業するの?」




「ほらほら、もうすぐ休み時間終わるから……席に戻ろっか?」




 生徒が勝手に懐いてくるのだから、先生にとっても悪い気はしません。いじめっ子たちが考えてその行動をとったのかは分かりませんが……。少なくとも当時のわたくしにとって、その行動は効果てきめんでした。




 そうして我慢して、我慢して、まだかまだかとクラス替えを待ちわびながら、日々を過ごしていました。




 でも、世間はやっぱり不平等です。




 もうすぐクラスも変わるという二月の終わりに、数人のグループで協力しながら発表を完成させようという授業がありました。




 そのグループは運が悪いことに……いじめっ子三人と、わたくしと――当時はまだ何とも思っていなかった、生目くんでした。




 いじめっ子たちも、最初はふざけながらも真面目に作っていましたが……だんだんと飽きてきたのでしょうか。そのうち一人が言い始めました。




「これさぁ、お化けに全部やらせればよくない?」




 お化けと言うのは私のあだ名です。長い黒髪が、ホラー映画に出てくる女性みたいだということで付けられた名前のはずです。まぁ、そんなことはその瞬間のわたくしにはどうだってよかったのですが。




「さ~んせ~!」




「そういうわけだから、やっといてね。お化けって頭だけはいいらしいから、俺らの位できるよなぁ?」




 そう言ってニヤニヤと笑う三人に、わたくしは何も言い返せませんでした。




 絶対間に合わない。どうして私がこんな目に。成績だって、努力して、中学受験をするわけでもないのに塾に入れてもらって、それでなんとか維持しているだけなのに。そんな愚痴は、心の中だけで荒れ狂いました。




 勉強を頑張っていたのは、そこにいていいよと認められた気がしたからです。




 あの先生も、クラスのうちの何人かも、勉強ができるわたくしには、笑顔を向けてくれる。そのことに気づいた瞬間から、高い成績を取るのはわたくしの至上命題でした。




 ――でも。




 今回の発表が間に合わなければ、きっといじめっ子たちはわたくしのせいにするでしょう。




 そうすればわたくしは、できない子のレッテルを貼られてしまいます。




 今まで何とか仲良くしてくれていたあの子たちも、テストを返す時に笑顔を見せてくれていた先生も、何もかもが敵になってしまうように思えました。




 泣いてもどうにもならないことは、自分が一番よく分かっています。それでも涙を止められないと思った、その時――――。




「みんなでやった方が早く終わるしいいものができるでしょ。真面目にやりなよ」




 声をかけてくれたのが、生目くんでした。




「…………」




 全員押し黙っていますが、それも当然でしょう。クラスの優等生……どころか、学校、地域でもトップの成績を誇る生目くんには、いじめっ子たちも逆らえません。




 仮に逆らったとしても、被害を被るのはおそらく彼らの方です。生目くんには、そう思わせるだけの普段の行いがありました。まぁ、全部後から知ったことですが。




「…………その、ありがとう。助けてくれて」




「助けたも何もないでしょ。真面目にやるべきことをやろうって言っただけだよ」




 この瞬間、わたくしは、生目くんにすべてを捧げようと、そう決めたのでした……。






「と、いうわけで。これがわたくしの今までです! 分かっていただけましたか?!」




「「分かったけど…………長い」」




「え?」




 その瞬間、始業を告げるチャイムが鳴り響いた。

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