第七十八話 串焼き屋のお姉さんがNPCすぎる件
「うーん」
「セイントちゃん難しい顔してどうかしました?」
「もしかしてトイレ我慢してるの?」
「違うウサ!」
天使の戯言を否定して、セイントちゃんは周囲をキョロキョロ見渡す。
「なんだか変ウサ」
「変。ですか?」
「確かに人型のドラゴン族はともかく、普通のドラゴンはどうやってトイレしてるのか不思議ですよね」
「天使はさっきから何の話ウサ!
そうじゃなくて、なんかドラゴン族も普通のドラゴンも違和感があるようにしか思えないウサ」
「違和感。ですか?」
「うーん、私の見た限りだとトイレ我慢してるようには見えないけどなー」
「トイレの事じゃないウサ!」
天使に怒るセイントちゃん。
いいぞ、その調子でどんどん怒ってくれ!
ついでに俺にも!
「セイントの言う通りね、この町はなにか変だわ」
ミイナも同じ違和感を感じたようで警戒しながら周囲を見渡す。
ミイナがそう言うならセイントちゃんの言ってる事も本当だと思うが……変? どこが?
真似して周囲を見渡す。左側の住宅では巨大なドラゴンが獲物を口に咥えながら「ただいまー」と喋って大きなドアノブを手で回して建物の中に入った。明らかに変だがこの町では普通なのだろう。多分これではない。
右側のお店ではドラゴン族のお姉さんの頭に生えたトゲトゲを抜き、ブロック状の肉に刺して串焼きにし、口から出した高火力の炎で一気に肉を焼いてお客さんに直接渡していた。これも明らかに変だがきっと普通なのだろう。多分これでもない。でも個人的にあの『お姉さんの炎で直接焼いた串焼き』はめっちゃ食べたい。
「僕にはわからないです」
「私も初めて訪れるので何が変か分かりません」
「ジンくんとリンリンさんに同じく」
3人揃って頭を捻る。
「そうなんだウサ。僕もこれだ! って確信はないウサだけど教えてあげるウサ」
「ついてきてウサ」と言ってセイントちゃんは串焼き屋さんにぴょんぴょん走って行く。
その走り方は超可愛いが俺、リンリン、天使の3人は「なんで串焼き屋さん?」と終始不明なままついていく。ミイナは「成程ね」となんか納得していた。
「こんにちはウサ」
セイントちゃんが串焼き屋のドラゴン族のお姉さんに話しかける。
「いらっしゃいませ、串焼きお一ついかがですか」
「買うウサ、一本くださいウサ」
お姉さんにお金を渡して、目の前で焼かれたてほやほやの串焼きを受け取るセイントちゃん。パクッと一つ食べて「口の中でとろけた。はぁ美味しいウサ」とリアクションもしてくれた。いいね。
けどこれと違和感の関係がわからない。
「この串焼きが違和感の正体ですか?」
「それとも違和感は食欲って事?」
「ちっちっ、違うウサ」
串焼きを指に見立てて横に振り「見ててウサ」となんと串焼きを持ったまま、またお姉さんに話しかけた。
「串焼きくださいウサ」
「いらっしゃいませ、串焼きお一ついかがですか」
「「「え!?」」」
明らかに串焼きを持ってるのに『お一ついかがですか』はおかしい。何か変だ。
「持ってるからいらないウサ」
「またきてくださいね」
と会話にならないやりとりをするセイントちゃんと串焼き屋のお姉さん。
「これでわかったウサ?」
セイントちゃんが俺達に振り向いて最後の肉を食べ終えた。
「はい、なんとなくですが……」
「私も私も」
ここでようやく、天使もリンリンも違和感の正体に薄々勘付いたようだ。だがまだ俺の中で確信には至っていない。
なので俺は個人で動く!
セイントちゃん同様、俺は串焼き屋のお姉さんに声をかけた。
「こんにちはです」
「いらっしゃいませ、串焼きお一ついかがですか」
「お姉さん美人さんです」
「いらっしゃいませ、串焼きお一ついかがですか」
「僕とデートしませんか?」
「いらっしゃいませ、串焼きお一ついかがですか」
「はーい、ちゃーん、ばぶぅ」
「いらっしゃいませ、串焼きお一ついかがですか」
「……」
会話が成立しない。やはり口から出るのは同じセリフで、まるでゲームのNPCのようだ。
寒くなりそう、寒気ヤベェ




