異世界人の
「異世界・・・。幸太郎さんは異世界から来た日本人・・・」
エーリッタとユーライカは驚きの顔でつぶやいた。
「異世界・・・、この世界の外から、太陽神アステラ様の
御用をするために地上へ・・・。
にわかには信じられん、が・・・」
バスキーも腕を組み、うなった。
「あたいが思ってたのよりも、100倍すごい秘密だったねぇ・・・」
「わ、私たちは、コウタロウさんが、
う、海の向こうから来たんじゃないかって
思って、たの・・・」
クラリッサとアーデルハイドも驚き、というか、もう呆れている。
話がぶっ飛びすぎだからだ。
「でも、これで理解できたでしょ?
ご主人様が異世界人という秘密は、
今までの『黒フードのネクロマンサー』、
『荒野の聖者』、『ナイトメアハンター』という秘密よりも、
遥かに危険な話なのよ・・・」
モコがみんなを落ち着かせようと、あえてゆっくり話す。
「幸太郎殿の何でも治す『陽光の癒し』、
馬車1000台でも入る『マジックボックス』、
町を吹き飛ばせる威力の『神虹』。
どれも世間に知られれば戦争の火種になりかねん能力だが、
やはり『異世界人』という事実は別格だ」
「ああ、世界中で幸太郎の争奪戦が起きるだろーぜ?
幸太郎を手に入れたら異世界の知識が手に入る。
どこかの国が幸太郎を手に入れたって噂が出るだけでも、
他国は戦々恐々だろ」
ジャンジャックとグレゴリオが真面目な顔で言った。
この2人はゼイルガン王国の貴族だから、より一層、
肌で実感できるのだ。
「さらに、幸太郎のいた世界は、どうやらワシらの世界よりも
数百年くらい未来へ進んでおるようじゃ。
魔法文明と科学文明という違いはあるが、はっきり言って、
今のこの世界には手に余る知識じゃろう」
ギブルスは、以前アルカ大森林で
『人類を何度も絶滅させることができる大量の兵器』
の話を聞いている。
エーリッタとユーライカ、クラリッサとアーデルハイドは
真剣な顔で『絶対に他言しない』と誓いをたてた。
「今まで内緒にしてたのは悪かった。申し訳ない。
なかなか言い出せなくてね。
みんながどんな反応をするかもわからなかった。
正直に言えば、気持ち悪いと嫌われる可能性も怖かったんだ。
それで、エーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドにもお願いなんだけど、
今回のように、俺がうっかり口を滑らせたら、
『ただの言い間違い』とか『気のせいじゃない?』と
フォローを入れて欲しいんだ。
これはモコ、エンリイ、ファルにもお願いしている。
どうも、俺は肝心なトコでヘマをするからな」
エーリッタとユーライカ、クラリッサとアーデルハイドは
『任せて!』と胸を叩いた。
ただ、この4人は内心こんなことを思っていた。
『わたし、異世界から来た人のお嫁さんになるんだ・・・』
知らぬは幸太郎ばかりなり。
異世界について、様々な質問が飛んできた。
が、やはり一番全員がショックだったのは、
幸太郎のいた地球には亜人、獣人が全くいない事だった。
この世界の人々の常識から考えれば不自然極まりないのだろう。
元の地球の人々にわかりやすく言うなら、
ネアンデルタールやクロマニヨンなど、他の旧人類が
全ていなくなってしまったことに似ていると例えればいいか。
もちろん、幸太郎から見れば、この異世界はファンタジーだ。
「でも、人族しかいないってことはさ、戦争が起きたら、
全然終わらないんじゃない? いつまでもいつまでも、
ダラダラと際限なく戦っていそうじゃん」
エーリッタのこの言葉に、
幸太郎は苦い顔で肯定するしかなかった。
元の地球の恥ずかしい部分だ。
「さあ、異世界の話は一旦このくらいにして、
カース・ファントムの説明を聞かせてくれよ。
なんでドライアード様たちを狙っていたんだ?
あの『三面金剛鬼神』とかいう神は誰なんだ?」
「そうじゃ。私たちもそれが聞きたい」
ジャンジャックが話を変えようとした。
ドライアードたちも賛同。
実はジャンジャックとグレゴリオはあまり異世界の話を
したがらない。無論、興味が無いというわけではない。
むしろ、本当は興味津々である。
だが、あまり深堀りしない方がいいと思っている。
なぜなら前に幸太郎と話している時に、
『火薬』の話を聞いたからだ。
それは『顔も見えない相手を、
遠距離から一方的に殺傷できる兵器』を作れるという。
今のこの世界では、相手の顔も見ない距離から
相手を殺せる兵器は弓矢くらいなもの。
魔法でもかなりの遠距離から狙撃できるものはあるが、
それは上級者に限られる。
『相手の顔も名前も知らないのに、一度に数百人を一瞬で殺せる兵器』
など、この世界には無い方がいいと
ジャンジャックとグレゴリオは判断していた。
『きっと殺し合いの際限がなくなる』
それを危惧していたのだ。幸太郎にしても、
『いずれ誰かが発明するだろうが、
それはこの世界の流れに任せたい』と考えていた。
偉大な古代中国の『四大発明』に、紙と印刷技術、羅針盤、
そして『火薬』がある。
この世界でも、いつかきっと火薬は登場するだろう。
その時は魔法文明が終焉を迎えるかもしれない。
だが、仮にそうなるとしても、異世界から来た幸太郎が、
それを決定していいわけは無い。
それはこの世界が作る歴史だ。
(異世界に火薬や銃を持ち込むなど、無粋の極み・・・)
幸太郎は、そう信じている。
幸太郎は火薬の作り方を知っていた。
本などで得た知識だ。必要な物の配合量などは知らないが、
何が必要かは憶えていた。
しかし、幸太郎はその知識を決して口にしない。
そんな知識を披露してこの世界の人々にマウントを取るなど
浅ましい事この上ないだろう。
そして、幸太郎は『自分の前世が42歳のおっさん』
という事実は、今回言わないことにした。
以前、ジャンジャックとグレゴリオに打ち明けた時、
グレゴリオが自分に敬語を使おうとしたことを
憶えていたのだ。
現在の人間関係に大きな変化が起きるのは避けたい。
とゆーか、面倒くさい。
前世では42歳。肉体年齢は20歳くらい。
この世界での満年齢なら、まだ0歳だ。
何を基準にしても気味の悪いことになる。
何より、自分が42歳だとして、他の人たちに
『俺の方が年上だぞ!』と偉そうな事を言うのは、
あまりにも醜悪で、愚かしい事だと幸太郎は思っていた。
自分の方が年上だとして、それが何なのだ?
自分の年齢でマウントを取るなど、
『無駄に歳をとりました。歳をとったけど、
バカは治りませんでした』と
吹聴するようなもの。幸太郎は、そういう事が嫌いだ。
話を聞いてて、バスキーとポメラは思った。
『モコはとんでもない男を捕まえてきたな』と。