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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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感染が広まる前に


 翌日の昼過ぎ、幸太郎は目を覚ました。





「あ、幸太郎おにーちゃん、起きた?」





チワが幸太郎の頭を抱え込むように抱き着く。



すぐにモコたちが駆け付けた。当たり前だが、この村の住人は



全員耳がいい。





「ご主人様、お加減はいかがですか?」





「もう大丈夫だよ。えーと、俺は1時間くらい失神してたのかな?」





幸太郎は『寝てた』のではなく、1時間ほど



『気を失っていた』という認識だった。





「違うぜ、幸太郎。お前はあの後倒れて、丸一日くらい寝てたんだよ。


もう、翌日の正午すぎてるぜ」





ジャンジャックが笑った。





「なんか幸太郎さん・・・少しやせたみたい・・・」





ユーライカが少し心配そうに言った。





「さあさあ、幸太郎さん、難しい話は後にして、まずは少し


食べて下さいな」





ポメラが食事を勧めた。姿はモコと姉妹みたいに似ているが、



やっぱり『お母さん』という感じがする。








幸太郎の食事中、みんなが昨日の鬼神のことを聞きたがった。



だが、幸太郎にとって、それは後回しである。





「先に絶対にしなくてはならない事があるんだ。


まさか、丸一日寝てたとは思わなかったから、


余計に心配だ。まずはドライアード様たちに協力してもらって・・・」





それが聞こえたのか、いきなりジュリア、モーリー、シンリンが



空間転移で現れ、幸太郎の頭を3人で抱きしめた。





「幸太郎殿、昨日は疲れたであろう。本当に感謝しておるぞ。


我らにして欲しい事があれば、なんでも遠慮なく言うのじゃ」





幸太郎は即座に頼み事をした。





「ま、まじゅは、離れてください!」





幸太郎は真っ赤になって声が裏返った。なさけねー。



それを見たギブルスがつぶやく。





「若い・・・若いのう・・・」





イネスもつぶやく。





「あらまあ、こういう方面は、ギルベルトに全然似てないのですね」





ただ、幸太郎のこういう面をモコたち7人は好ましく思っている。





『これなら、他の女にちょっかい出すことは絶対ない』





それは確かな手ごたえだった。





「相変わらず、幸太郎は女に弱えーみたいだな。はははは」





「変わらぬ友の姿はいいものだ。あははは」





ジャンジャックとグレゴリオが大笑いする。








幸太郎は赤い顔で額の汗を拭きながら、



ドライアードたちに頼んだ。





「ドライアード様たちにお願いがあります。


昨日、カース・ファントムと戦った場所から、


周囲5キロ以内の全ての村へ連れて行って下さい。


村人全員を、念のため治療いたします」





「む? もう戦いは終わったではないか。


昨日、そのカース・ファントムとやらは幸太郎殿が倒して・・・」





幸太郎は眉を寄せ、苦しそうに言った。





「いいえ、まだ終わってはいません。


昨日、カース・ファントムが


まき散らしていたのは『病苦の瘴気』。


その瘴気は黒死病の菌を含んでおりました。


あの病原菌は、かつて私の故郷で猛威をふるった、


恐ろしい病気なのです。


私の故郷では、昔2000万人以上が亡くなり、


人間社会が崩壊寸前に陥ったという歴史があるのです」





「なんじゃと!? あれは、そんなに恐ろしい病気であったのか!」





「ですから、念のため病気が人から人へ感染する前に、


ここで全て根絶しておく必要があるのです。


昨日は感染してすぐに発症していましたが、


通常は発症するまでに潜伏期間があります。


その間は病気にかかっていても、自覚できません」





「わかった。では、早速、南部の村を順番に回っていこう」





幸太郎はモコたち全員に、もう一度『陽光の癒し』をかけた。



全員に何の手ごたえも無く、誰も感染していない事を確認。



その後、『感染するかもしれないから』と



ドライアードたちだけを伴い、



アルカ大森林の南部へ向かった。








幸太郎とドライアードたちは



昨日カース・ファントムと戦った場所から



近い順に村を回った。





そして幸太郎は青ざめて愕然とした。



額から汗が流れ、ガチガチと歯が鳴る!





恐らくはドライアードたちが話したのだろうが、



昨日の戦いがすでに噂になって広まっていたのだ。



・・・多大な脚色付きで・・・。





『悪い病気を広め、アルカ大森林を滅ぼさんと


地獄から這い出てきた邪悪な亡者。


だが、それに気づいた、


荒野の聖者が光の力を携え正面から迎え撃つ。


地獄の亡者と、荒野の聖者の戦いは熾烈を極め、


一進一退の激戦となった。


邪悪な病魔と聖なる癒しの力が激突。


それは拮抗した。


だが、荒野の聖者が太陽神に祈りを捧げると、


太陽から神通力が与えられたのだ。


その神力をもって、パワーアップした荒野の聖者が、


ついに地獄の亡者を討ち、滅ぼしたのである。


かくてアルカ大森林に、再び太陽の光が降り注ぎ、


平穏を取り戻した。


邪悪な病気から人々は守られたのである。


めでたしめでたし』





幸太郎は村長から聞いた『荒野の聖者、新たなる伝説』に



目まいがした。





(なんじゃそりゃ・・・)








幸太郎がこの話が気に入らないのは当然だろう。



昨日出現したカース・ファントムは、



明らかに幸太郎よりも数段強かった。



はっきり言って、幸太郎では『まるで歯が立たなかった』と



言い切れるほどの差があったのだ。





そして、勝ったのは幸太郎ではなく、金剛鬼神だ。



左鬼と右鬼に体を貸し、意識が接続された結果、



高次元の神霊が力の一端を貸してくれただけの事。



幸太郎自身は、特に何もしていない。ただ、物凄く疲れただけ。



もちろん、意識が接続され、混じり合ったせいで、



昨日の記憶自体はあるし、



おおよその事情も流れ込んできた。





唯一、幸太郎の功績があるとすれば、ブラッドリーを



召喚したことで、地獄の留置場に戻ったブラッドリーから、



『緊急事態』が地獄の裁判所に伝わったことだ。



そして、無理やり褒めるなら、幸太郎がネクロマンサーとして、



それなりにレベルが高かったせいで、



高次元の神霊を我が身に降ろすことができた事か。





幸太郎が昨日行った事は、



『仏身変化』、または『降神』と呼ばれる技である。



普通の人には無理だし、霊の存在を認めない人では



声が届かないし、聞こえない。



そのような人はどうするか?





・・・『自力で何とかする』のだ! 





昨日は幸太郎がネクロマンサーであったことが、



少しだけ有利に働いた。








幸太郎は、その『背びれと尾ひれ』どころか、



『パーフェクト・フルアーマー・アサルトバスター』形態の



噂話をなんとか否定しようとしたが、完全に無駄だった。



荒野の聖者が『森を救い、恐ろしい死病から人々を守った』という、



『新たなる伝説』に誰もが酔いしれていた。



しかも、噂話の発端がシンリンだ。信用度が違う。



おまけに、昨日戦った場所は、確かに数百メートルに渡り



森が草原になっている。実際に見に行った人々は



『本当だった! 間違いない!!』と伝説を事実認定した。





実は昨日、幸太郎が眠ってしまった後、



ドライアードたちやモコたちが、大興奮で



『地獄の亡者VS荒野の聖者』の戦いを



人々に話しまくったのだ。その噂が人から人へ伝わり、



どんどん大げさになっていった。



丸一日寝てた幸太郎が、今さら噂を消そうとしても手遅れ。





結局、幸太郎はさじを投げた。





そもそも、そんな事をしている場合ではない。



黒死病の菌が広まっているかもしれないのだ。



付近の村を全て回って治療し、



『衛生面に気を付けるよう』に指導して回らなければならない。



時間が惜しい。



心配は空振りに終わって、初めて笑い話になるのだから。





(あーもー! わかったよ、そんでいいよ!


とにかく今日中に付近の村を全部回らなきゃいけないんだから!)





幸太郎はヤケクソになって、とにかく1人残らず



『陽光の癒し』をかけて回った。






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