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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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バーバ・ヤーガの忠告


 全員がバーバ・ヤーガに注目した。この人の意見は傾聴に値する。



何しろ『黄昏の魔女』の異名を持つ強力な魔導士。



強さで言うなら、ジャンジャックとグレゴリオに引けを取らない。





「あたしらも近くまで行く。


ただし、戦闘に参加しようというのではないぞ?


逃げる時の事を考えておいた方がええ、という話じゃ」





「・・・なるほど確かに・・・」





幸太郎は納得した。



言われてみれば、バーバ・ヤーガの言う通りだ。



モコ、エンリイ、ファル、エーリッタとユーライカ、



クラリッサとアーデルハイドが



『きょとん』としているので、バーバ・ヤーガが追加で説明した。





「あたしらも戦闘を直接見て、『情報』を得ておくべきじゃ。


黒死病の男がドライアード様たちを狙っておる以上、


頭を吹っ飛ばしたからとて、死ぬとは限らん」





モコたちが『確かに』とうなずく。





「そして、だからと言って、ドライアード様たちが


黒死病の男に攻撃するわけにもいかん。


あやつは先程、逃げるあたしたちを、そのまま見逃した。


その黒死病とやらに感染した以上、放っておいても死ぬという


計算があるのじゃろうが、それよりもターゲットを


ドライアード様たちだけに絞っていると見るべきじゃ」





ここでモコが唸る様につぶやいた。





「それって・・・もしかして、ドライアード様たちから


『攻撃』されるのを待ってるってこと・・・ですか・・・?」





バーバ・ヤーガが頷く。





「方法は全く想像もつかんが、


ドライアード様たちからの攻撃に対して、


カウンターが取れるのじゃろう。いや、もっと言えば、


ドライアード様たちからの攻撃こそが『逆に致命傷になる』、


そんな計画があると見て間違いなかろう。


あやつが、あたしらに目もくれず、焦りもせずに、


森を枯らし続けて挑発しておるのは、


それ以外に考えられん。


なればこそ、あたしらは、


黒死病の男の戦闘を見ておかねばならん。


小僧たちが倒せなかった場合、ここにいる全員で


倒す方法を考えねばならんのじゃ。


エリザベーテとギブルスの頭脳には期待しておるぞ。


そして、小娘たちも、その時は知恵を絞るのじゃ」





『はいっ!』とモコたちは気合の入った返事をした。



そこへ、幸太郎が1つ付け加える。





「あとは、俺たちが負けた場合、


歩けなくなってる可能性があるってことだな。


スマンが、その時は俺たちを引きずって逃げてくれると助かる」





モコたちがぎょっとした顔になる。



そして一気に顔つきが引き締まった。



『黒フードのネクロマンサー』『荒野の聖者』



『ナイトメアハンター』である幸太郎と、



B級冒険者のジャンジャックとグレゴリオ。



この3人が『負ける』などということは、



モコたちは『全く』考えていなかった。



アルカ大森林のダンジョンで『ナイトメア』を倒し、



さらに『ドラゴンタートル』を倒した男たちなのだから。



『倒せないかもしれない』は理解できたが、



『負ける可能性』は、まるっきり思いつきもしなかったのだ。





場の雰囲気がガラッと変わった。



バーバ・ヤーガは全員を見渡し、頷くと、



今度は幸太郎に話しかけた。





「小僧。気をつけよ。先ほど黒死病の男を見たが・・・


あやつは『冥界のオド』を纏っておった。


お前のように薄く、微かに、ではなく・・・


非常に色濃く、分厚いものじゃった」





「私と同じ『ネクロマンサー』ということでしょうか?」





「わからぬ。普通の人間ならネクロマンサーしか答えは


なかろうが・・・。いや、それにしても異常な濃さじゃった」





「普通の人間ではない、と」





「うむ・・・。何らかの冥界の力を持っているのだけは


間違いない。無理をするでないぞ? 相手の力がわかれば、


対策も立てることができる。


ここにいる全員が小僧の味方じゃ。


相手を殺すことに拘り過ぎず、我々に頼れ。よいな?」





「承知いたしました。お師匠様」





「こそばゆいことを言うでないわ」





バーバ・ヤーガは苦笑した。



そして、最後にシンリンが全員を見回し、言った。





「我らは、助言に従おう。今回は近づけぬし、戦えぬ。


しかし、我らは100メートルほど後方で待機しておるゆえ、


万一の時は何としても我らの所まで逃げよ。


『空間転移』で、即座に脱出する。


・・・アルカ大森林を守るために力を貸してくれ」








作戦開始だ。と言っても、難しい事ではない。



何より、最初の奇襲は、ほぼ間違いなく成功するだろう。



何しろ黒死病の男は、ジャンジャックたちの病気が治ったことなど、



考えもしないはずだからだ。



さらにジャンジャックとグレゴリオがB級冒険者であることも



知らないだろうし、新しく参加した幸太郎が『太陽神の加護』を



持っていることも知らない。





幸太郎たちも黒死病の男が何者かは知らない。



だが、状況としては有利なはず。





ただし、それは『相手が普通の人間ならば』だ。








幸太郎は歩いて『黒死病の男』に近づいていった。



そのずっと後方には、モコたちが心配そうに距離を取ってついて行く。



さらに、それから100メートルほど後方には



ドライアードたちがいた。



こんなに離れている理由は、



黒死病の男の射程を50メートルと見当をつけているからだ。



最初に森が枯れたのは半径50メートル。



ドライアードたちは実際に『体感』しているのだから間違いない。



黒死病の男から最低150メートルも離れていれば、



ドライアードたちまでは手が届かないはずだ。





黒死病の男は後方にいるドライアードたちを見つけ、



嬉しそうに笑った。



何を狙っているのかは見当もつかないが、



やはりターゲットはドライアードたちだけのようだ。



幸太郎には、まるで興味が向いてない。





だが、やはり黒死病の男から20メートルくらいまで



幸太郎が接近すると、



少し不思議そうな顔で幸太郎を見た。





それはそうだろう。相変わらず黒死病の男からは、



何か『黒い靄』のようなものが発せられている。



先程ジャンジャックたちは、この距離まで接近したところで、



全員、黒死病を発症した。



ところが幸太郎はケロリとしているのだから。





「やあ、今日はいい天気ですね」





幸太郎は平然と『曇り空』を見上げる。



黒死病の男から、完全に笑みが消えた。



黒死病が発症する範囲へ入っているのに、



『効いていない』。



そして、微笑みを浮かべながら低い雲が広がる空を見て



『いい天気』だと言う。



さすがに奇妙に思ったのだろう。





「初めまして。私は幸太郎と申します。


私はあなたが気に入りましたよ。


どうですか? あっちで一杯やりませんか?


ご心配なく。私のおごりですよ」





幸太郎は爽やかに微笑んだ。サイコだ。





もちろん、幸太郎は黒死病の男の注意を引きながら、



『鑑定』した。





『アンジェロス  28歳  木こり』





幸太郎は顔に出さないが、内心焦った。





(こんなことをできる奴が『ただの木こり』なワケあるか!


まずい! まさかオーガスと同じパターンか!?)





さらに目に見えている『黒い靄』も鑑定。



無色透明だと『鑑定』は出来ない。あくまでも、幸太郎が



対象を認識できないと使えないのだ。



くどいようだが、『鑑定』は、ムラサキが『旅に便利なように』と



授けたもので、戦闘用にはできていない。



万能の能力ではないのである。





幸太郎は鑑定結果を見て、さらに焦った。





(なんだこれは!? 『病苦の瘴気』だって!?


効果範囲内では・・・重い病気を引き起こす、か。


森を枯らしたのも、こいつのせいだな。まるで化学兵器か、


生物兵器だ・・・)





『俺以外に耐えられる人間はいない』幸太郎はそう確信した。






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