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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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靄<もや>


幸太郎が治療を始めると、すぐに大行列ができた。



『荒野の聖者』の噂は、すでに広がっているらしい。



動かない腕も、失った足も、聞こえなくなった耳も、



折れた歯も、失った視力すら、全てあっという間に完治する。



どんな病気でも怪我でも問題ない。すぐに全快だ。



全ては『陽光の癒し』という神の魔法の力。





幸太郎が昼の休憩に入り、リンゴをかじりながら



山盛りになった『お供え物』を



『マジックボックス』に入れていると、



モーリーとジュリアが空間転移で現れた。



モーリーとジュリアは幸太郎の様子と、モコたちの様子を



交互に見て回っている。別に何か責任感があるわけではなく、



ドライアードたちは、元々好奇心が強い方なのだ。





モーリーがモコたちの様子を幸太郎に教えていると、



話の途中でモーリーとジュリアの顔が突然苦痛に歪んだ。





「モーリー様!? ジュリア様も!」





幸太郎が真っ青になって慌てた。それはそうだろう。



ドライアードたちは、不老不死だ。森がある限り不滅。



体だって治療するより、新しい体に代えた方が早いという



デタラメぶり。人間とは根本的に違うのだ。



そのドライアードであるモーリーとジュリアが苦しむなど、



『普通に考えれば』有り得ないこと。





モーリーは額に汗を浮かべて、南の方を見ながら言った。





「今・・・森の一部が『いきなり』枯れた・・・」





「南の森ですか!? 枯れた!? いきなり!?」





幸太郎も少し混乱している。



何が起きたのかなど、想像もつかない。



モーリーとジュリアが苦痛に顔を歪めた以上、



木が2、3本枯れた程度ではないはず。





「詳しい事はわからぬ。だが、『森』の一部が


丸ごと枯れたのは間違いない。


何があったのかは、見に行ってみるよりなかろう。


しかも、枯れた範囲が増えつつあるのじゃ」





「私も行きます。何かお役に立てるかもしれません」





「待て、シンリンがすでに見に行ったようじゃ。


・・・シンリン、シンリン、何があった・・・?」





モーリーはシンリンと念話をしているようだ。



人間も『念話』を使える者がいるが、水晶玉が必要だし、



制約も多い。ドライアードの念話は、



完全にSFのテレパシーと同じと言える。





『来るな!! ジュリア! モーリー!!』





声が聞こえた。そう、近くにいた幸太郎にまで聞こえた。



それは絶叫に近い。あまりに強い念話だったため、



モーリーのすぐそばにいた、幸太郎までも受信してしまったのだ。



初めての経験に、幸太郎も目を白黒させている。





「どうした!? 幸太郎殿も心配しておるぞ。説明せぬか。


何? 幸太郎殿なら、ここにおるぞ。それがどうした?」





モーリーが怪訝な顔をしていると、すぐそばにシンリンと



ギブルス、イネスが空間転移で現れた。



とりあえず無事ということだ。



モーリーとジュリアが安堵の溜息をつく。





「脅かすな、シンリン。一体何が・・・」





モーリーが言いかけたが、



シンリンが緊迫した表情で話し始める。





「南の森の一部が、枯れた。


今は、およそ直径400メートル程度まで拡大しておる。


枯れたのは草も大木も、全てじゃ。


中心に1人の男が立っておった。


そいつの仕業で間違いない」





ギブルスが、説明を補足した。





「しかも、その男の目的はドライアード様たちのようじゃ」





「なんじゃと!? 我らが目的!?」





「ドライアード様たちが目的ですか!?」





幸太郎も驚いた。それは当然だ。



ドライアードたちは森の化身。



森の中では無敵と言っていい存在だ。



力で何とかなるような相手ではない。



魔力にしても人間では勝負にならない。



だが、その男は森を枯らし、ケンカを売っている。





「まずは順を追って話そう」





ギブルスとイネスが状況を幸太郎たちに説明しだした。








シンリンがモコたちとガンボア湖の市場を見て回っていると、



いきなりシンリンの顔が苦痛に歪んだ。



それは、ガンボア湖とは反対側、西のモーラルカ小国群の方で、



『突如、森が枯れた』という。





シンリンが見に行くというので、買い物をしていたモコたちも



ついて行くことにした。全員で空間転移すると、そこには



およそ半径50メートルくらいの円形に『森が枯れていた』という。



森の端なので、正確には半円に近い。



その円の内側は大木も、草も、植物は全て枯死していた。



そして、その枯れた部分の中心に1人の男が立っていたのだ。



ジャンジャックが『おい、お前の仕業か?』と聞いた瞬間、



その男はニヤリと笑うと、こう言った。





『来たか、ドライアード』





これを聞いたギブルスとイネスが、シンリンの手を掴み、



『逃げるぞ、シンリン!』『お逃げ下さい、シンリン様!』と



叫んだ。シンリンはギブルスの判断には絶大な信頼を置いている。



すぐに逃げることにした。





『ここは我々にお任せを』とグレゴリオが言ったので、



モコたちが、その場に残り、いったん逃げてきたという。








「詳しくはわからんが、あの男は


植物を枯死させる能力を持っておるようじゃ。


ドライアード様たちには分が悪い」





「その男は、体から、何か黒い『靄』のようなものを


発していました。何か、変な・・・


臭い匂いがする『もや』でございました。


あれの正体は幸太郎様しかわからないと思います。


バーバ・ヤーガは『瘴気』に似ていると言ってました」





ギブルスとイネスがそう言って説明を終えた。



『幸太郎にしかわからない』というのは、



もちろん『鑑定』のことを言っている。





「・・・とにかく、私も行ってみます。森を枯らしている以上、


放っておくわけにもいかないでしょう。


逃げ回ると、被害が拡大します。モコたちも心配ですし」





幸太郎も不安になった。『瘴気』『臭い靄』という言葉は



『不死身のニコラ』を想起させた。幸太郎の顔が曇る。



そして、その男が『来たか、ドライアード』と言った以上、



森の中では無敵のドライアードを狙っていると見て間違いない。



何かは想像もつかないが、ドライアードへの『対策』、



そして何より『勝算』があるということだ。



だからこそ、ギブルスとイネスは即座に『逃げろ』と判断した。





いったい、その男が何を目論んでいるのかは、わからない。



だが、実力行使に出ている以上、どう考えても友好的な



相手ではないのは確定だ。



しかも、今も枯れた範囲が拡大している。





ギブルスもイネスも幸太郎と同じ意見らしい。





「殺すしかなかろう」





「もはや、話し合いの余地は無いかと存じます」





幸太郎もうなずいた。





「よし、では先ほどの場所へ戻るぞ。ん・・・?」





シンリンが少し南の方を見て怪訝な顔をした。





「なんじゃ? ジャンジャックたちは、随分あの場所から


後退しておるようじゃ。何があった・・・?」





シンリンが首をかしげる。



モーリーとジュリアも、同じことを感知して不思議がった。



B級冒険者、モコとエンリイ、



エーリッタとユーライカ、クラリッサとアーデルハイド、



さらに『黄昏の魔女』までいるのに、



『随分後退している』という。





「行ってみましょう。悪い予感がします」





幸太郎の言葉に、全員がうなずいた。








シンリンの空間転移で、幸太郎たちは



ジャンジャックたちのいる場所までやってきた。



そこには異様な光景があった。






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