意外な同行者
「おう、ジジイ。やっぱ来たな」
「ひっひっひ、面白そうな話なら、わしも混ぜておくれ。
ユタの事件と、ゴブリンの巣穴の事件の説明は聞いたかの?」
「今、聞き終わった所です。孤児院の再建計画も大方聞きました。
カーレの商人ギルドはギブルス殿に抑えてもらうしかありませんな。
我々も『B級冒険者』の肩書は、喜んで出しましょう」
「グリーン辺境伯は、ある程度準備が進んだ所で、
俺から話を通すとするよ。
まあ、売り上げの20%も税金として出せば、
嫌とは言わないだろう。
イベントも喜んでくれると思う」
「幸太郎の望む客については、わしが心当たりがある。
全て、わしから話をしておこう。
おそらく、すっ飛んで来るぞ?
ひっひっひ」
「では、まず手始めに『景品』の作成に、
アルカ大森林へ行かなくては」
「俺たちも行くぜ。こんな面白そうなイベントなら
見逃すって手はねーよ」
「ははは、しばらく冒険者は休業だな。モコ、エンリイ、
久々に同行させてもらおう。エーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドもよろしくな。
幸太郎殿について行けば、きっと面白いものが見れる気がする」
ジャンジャックとグレゴリオは、女性陣と順番に握手して回った。
「よーし、じゃあ、早速今から行こうぜ!」
ジャンジャックが提案する。しかし、グレゴリオとギブルスが、
それに待ったをかける。
「落ち着け、俺たちもまずはユタの冒険者ギルドに
休業を知らせておくべきだろう」
「わしもユタへ寄ってから行きたい所じゃ。
どうせ行くならアルカ大森林で
香辛料などを仕入れておこうかの。
馬車を用意せねば」
この提案を受けて、一度ユタへ立ち寄ることになった。
とりあえず、みんなでお昼ご飯を軽く食べておく。
幸太郎たちはピートス川の橋の辺りで待つ事にした。
用も無いのにユタへ入った所で通行料がもったいないだけだ。
待つ事1時間半くらい。
『意外と時間がかかるな』と幸太郎が釣りをしながら、
ボンヤリとそんな事を思った時、
モコがギブルスの馬車がやって来たことを告げた。
ガーラとタマンもいるのが見える。
「ひっひ、待たせてスマンのう。ちと、用事が増えてな」
ギブルスがそう言うと、御者をしているアカジンの後ろから、
2人の女性が幌をめくって顔を見せた。
「お久しぶり・・・と言うほどでも、ありませんわね、
幸太郎様。ゴブリンの巣穴を潰した大活躍は聞きましたわ!」
馬車の中にいたのはファルネーゼとイネスだった。
イネスが微笑んで会釈する。
「えええ!? ファルネーゼ様!?
どうして、どうやってここに?」
「あら、今は『ファルネーゼ』ではありませんことよ?
今の私は幸太郎様のパーティーメンバー『ファル』です。
パーティーメンバーが幸太郎様のお側にいて、
何の不思議がありましょう」
そういう問題じゃない。
「ひっひっひ、まあ、色々裏の方法があるんじゃよ。
そこは目をつぶっておくれ、幸太郎」
(まあ、今さら帰すわけにもいかない。
おそらくは、何か外交上の課題があるとでも言って、
出てきたのだろう・・・)
もちろん中身は物見遊山なはずである。
そして、そもそも帰れといって、帰ってくれるわけもなく、
強制する方法も無い。
この2人が町を出るために、
当然、ギブルスが何か手を回したはずだ。
(この人には、かなわないなぁ・・・)
幸太郎は苦笑した。
時間も遅めだったので、すぐに夕方になった。
かなりの大所帯になってしまったが、幸太郎がいれば問題ない。
『時計塔』でシェルターを作り、男用に簡易ベッドも作る。
女性陣は馬車とテントのベッドだ。
食料だって幸太郎の『マジックボックス』に
わんさか入っている。
「はっはっは、幸太郎がいればダンジョンだって楽勝ってもんよ!」
ジャンジャックが酒を飲みながら上機嫌で話す。
話はピシェール男爵領への進軍や、ついにこの地域へ魔物が
入ってきた事がメインになった。
意外なことにユタでは、
まだゴブリンやオークは見当たらないという。
『体がなまってくるぜ』とジャンジャックがぼやく。
と言っても、先日、ジャンジャックとグレゴリオは
商人の護衛で盗賊15人を皆殺しにしている。
だが、彼らの異常な強さにしてみれば、
ジョギング程度にすらならないのだろう。
翌日。
野犬も狼もイノシシも来なかったので、静かに夜が明けた。
道中も平和そのもの。まあ、このチームを襲うような
頭の悪い人狩りや盗賊などいないだろう。
B級冒険者2人、『黒フードのネクロマンサー』、C級のエンリイ、
C級並みの強さのモコ、クラリッサ、アーデルハイド、
弓の名手エーリッタとユーライカ、ギブルスの店員である
タマン、ガーラ、アカジン、ミーバイもいる。
さらに、お世話係として随行している武装メイドも強い。
襲い掛かれば、冥界への片道切符が
速やかに発行されるだろう。
正午を過ぎ、やや太陽が傾いてきたころ、
幸太郎たちはアルカ大森林へ到着した。
木々の上に見張りのダークエルフたちが見える。
幸太郎が手を振っていると、突然後ろから幸太郎を
『ぎゅう』と抱きしめる者がいた。
「よう戻ってきた、幸太郎殿、歓迎するぞ」
耳元で囁く声がする。
「あひゃあああっ」
幸太郎が変な声を上げたが、後ろの人物は気にしない。
もちろんジュリアだ。
空間転移で幸太郎の真後ろへ出現したのだ。
「さ、何処へ行く? 小狼族の村か?」
「い、いいえ、まずはダークエルフの村へ行きます。
食料とパンを仕入れたいのです」
「おお、そうか、そうか。任せるがよい」
いつの間にかモーリーとシンリンも来ていた。
幸太郎の『飲料水』目当てなのは間違いない。