名前を貸して欲しい
「いよう! モコ、相変わらずいい耳してるな。
幸太郎たちも元気そうで何よりだ」
ジャンジャックとグレゴリオが笑顔で歩いて来る。
幸太郎も笑顔で応じた。
「やあ、ジャンジャック、グレゴリオ殿。
来るとは思っていたけど、随分早いな」
「なーに、そりゃあ『アレ』を聞けばな。
詳しく聞きたくなるってもんよ」
ここでグレゴリオが辺りを見て、ボソッと一言つぶやいた。
「・・・美女だらけになったな・・・幸太郎殿・・・」
「ぐわああっ、それを言わないでくれ、グレゴリオ殿!」
まあ、それはともかく、お互いに自己紹介する。
クラリッサとアーデルハイドは
自分と同じくらいのジャンジャック、
2メートルはあるグレゴリオを見て、
明らかに『ほっ』としていた。
毎度ながら、自分の高い身長がコンプレックスなのだ。
幸太郎は孤児院の老婆にジャンジャックとグレゴリオを紹介する。
「そうだ、孤児院の建て直しに
ジャンジャックとグレゴリオ殿も協力してくれないか?」
幸太郎はそう言ってウインクした。
この2人は、これだけでピンときた。
((ははあ・・・何か計画があるんだな・・・?))
ジャンジャックとグレゴリオは二つ返事で『オーケー』を出した。
孤児院の老婆は恐縮して、頭を下げている。いい人だ。
「では、早速、何かいい方法はないか、相談しよう」
幸太郎は孤児院の老婆と子供たちに手を振り、
全員で海辺に向かった。
幸太郎たちは海辺にタープを張り、テーブルを囲んで相談を始めた。
というか、幸太郎の作戦の内容を聞くのだ。
しかし、ジャンジャックが待ったをかけた。
「待て待て、まずは『黒フードのネクロマンサー』が
出現したという話から聞かせてくれよ」
「いやいや、その前にユタに来ていたのだろう?
子供たちの弔いか? そちらから聞かせて欲しい所だな」
グレゴリオも待ったをかけた。
幸太郎としては、あまり知られたくない話なのだが、
『血も涙もない作戦』の実行のためには、
この2人にも知っておいてもらいたい。
幸太郎は説明をモコとエンリイ、そして女性陣に任せた。
自分で話したくない。おっさんはわがまま。
モコとエンリイはファルネーゼと共に
ガイコツの森へ向かった話をする。
そして、幸太郎の愚かな行動が原因で
死にかけたエピソードへ差し掛かった。
「おいおい! 幸太郎、うらやましいじゃねーか!
下着姿の美女3人に温めてもらうなんてよ! あはははは」
「笑ってはいかん話だが、いや、惜しい所だったな、幸太郎殿。
意識があれば、男なら誰もがうらやむような光景が
見れただろうに。ははははは」
幸太郎はまたも耳まで真っ赤になり、汗だくになる。
そして、椅子から立ち上がると、砂浜で
『ふて寝する柴犬』の構えで横たわり、動かなくなった。
「ありゃ? 幸太郎のやつ、スネちまいやがった」
「少々、からかいすぎたか。幸太郎殿、悪かった。
もうからかわないから、機嫌を直してくれ」
グレゴリオが、寝そべる幸太郎の脇に手を入れ、
『ひょい』と抱え上げて、テーブルまで戻ってくる。
子ども扱いだ。力では全くかなわない。
幸太郎はブスッとした表情のまま、椅子に座らされた。
「まあまあ、機嫌直せって。もうからかわないからよ。
それで、その後も何かあったんだろう?
ユタに『コナのオーガス教の司祭と、聖騎士が1人行方不明』って
ニュースが入ってきてたぜ?
位置的にあれも幸太郎の仕業なんだろう?
何があったんだ?」
モコとエンリイが真剣な顔で続きを説明した。
ジャンジャックとグレゴリオも雰囲気が一変。眉をひそめた。
「まさか・・・教会が人狩りどもの拠点となっていたとはよ・・・」
「オーガス教の司祭と聖騎士、コナの司政官が黒幕だったとは」
『叩き潰しに行くか?』とジャンジャックとグレゴリオは
幸太郎に質問した。それに対し、幸太郎は首を振る。
そして『血も涙もない作戦』を説明した。
ジャンジャックとグレゴリオもドン引きの邪悪な作戦だ。
「こりゃあ・・・大勢死ぬ・・・だろうな」
「うむ、しかし・・・先の事を考えれば、
最善かどうかはわからないが、
『被害者』は明らかに減る・・・か、いなくなるだろうな。
悪の力をもって、悪を制すると言った所か。
しかも、永続的に。・・・俺は賛成だ。
きれいごとだけでは世の中は治まらん。
宗教に殉ずると言うのなら、それは彼らの選択だ」
「そうだな・・・他にいい案も浮かばねーし。そもそも、
それだけの事をやっちまってるからこその自業自得って面もある。
しっかし、よく、こんな作戦思いつくよな、幸太郎。
お前自身は全く手を下さず、見てるだけなのに、
オーガス教はきりきり舞いして血反吐を吐くだろうぜ」
幸太郎はちょっと溜息をついた。
「そこなんだよな。オーガス教など、どうなろうと知った事ではないが、
孤児院と、それを運営している教会が社会の敵として
壊されると困る。そこで、孤児院再建計画なんだが・・・
2人の名前を貸して欲しいんだ」
「おっと、待った。幸太郎殿、先にゴブリンの巣穴の話を
聞かせてくれまいか」
「あ、そうだった、そうだった。
えー、じゃあ、引き続きモコ、エンリイ、説明を頼むよ」
モコとエンリイは幸太郎が褒められると嬉しい。語りたい。
喜んで『ゴブリンの巣穴』事件を語りだした。
その間に幸太郎はスープの作成と
ステーキ、ソーセージを焼きだした。
意外なことにクラリッサとアーデルハイドが手伝ってくれる。
この2人の料理の腕前は、幸太郎よりも圧倒的に上だった。
腕も太く、手も大きいのに、繊細な包丁さばき。
さすがは『ハーフドワーフ』といったところか。
一通り説明を聞いたジャンジャックとグレゴリオは感心する。
「性格の悪いゴブリンどもだな・・・すぐに見つかる罠は、
『行き』でなく『帰り』の妨害をするためとは。
それを見破る幸太郎も大したもんだぜ」
「130体を越える大きな群れか。幸太郎殿の言う通り、
最後はビエイ・ファームか、カーレに襲い掛かっていただろう。
騎士団が出動するか、俺たちB級冒険者に依頼がくる事件となるな。
これは町を救い、大勢の市民の犠牲を未然に防ぐことになったはずだ。
そして、召喚魔法を使うゴブリンと、死霊術を使うゴブリンか。
ゴブリンメイジに『上位種』がいるとは、
おそらく世界初の情報だろう。見た目に差が無い所が厄介だな。
なんとかこの情報を広めたい所だが・・・」
『黒フードのネクロマンサー』が出現した話をしていると、
カーレの方からギブルスがアカジンとミーバイを連れて
歩いて来るのが見えた。