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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 4
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費用は総額で・・・


 翌朝、幸太郎はモコとエンリイ、エーリッタとユーライカ、



クラリッサとアーデルハイドを伴ってギルドの食堂で朝食。





ギルド内は、『ゴブリンの巣穴』の話で持ちきりだ。



当然『黒フードのネクロマンサー』の話も飛び交っている。



恐れる者、賛美する者、様々だ。なぜか・・・というか、



やっぱり、『黒フードのネクロマンサー』は紳士的で、



囚われた女性たちのために本気の涙を流したという話は



広まっていた。





幸太郎は、ちょっと複雑な気分だ。





ギルドの調査隊も出発した。ルークたちが道案内。



護衛の冒険者も大勢いる。



調査隊の中には土木工事専門の大工までいるらしい。



もう巣穴となった洞穴を潰して封鎖する方向で決定のようだ。



グリーン辺境伯の意向だろう。








幸太郎はカウンターのルイーズに



『孤児院の建て直しに協力する』と伝え、



しばらく冒険者は休業と宣言した。



もちろん、そんなことをギルドへ報告する必要なんか無い。



単純にマナーの問題だ。





「何か手伝えることがあったら、言ってくださいね!」





ルイーズは、にっこにこで答えた。



とにかく『カネ・カネ・カネ』『金だせよ』の



冒険者たちに比べれば、



無償で孤児院の再建に協力するという話は



気分のいい『美談』なのだろう。








幸太郎たちは、ルークから聞いた孤児院の場所へやってきた。



子供たちが畑仕事をしたり、



井戸から水を汲んで洗濯をしている。



ユタもカーレも海のすぐそばだが、井戸水を使っていた。



ピートス川のお陰で井戸が海水にならないと



ギブルスから聞いている。





孤児院は墓地の横に建っている。建物自体はかなり大きい。



敷地も墓地の横のせいか、かなり広い。



そして孤児院の隣にオーガス教の教会がある。



墓地、孤児院、オーガス教の教会、の順だ。



そして、幸太郎は、この時初めて知ったが、



広い墓地を挟んで孤児院の反対側に



『クリストフのアトリエ』として使われていた倉庫がある。



当然、今は無人だ。前の住人は二度と戻って来ない。





(孤児院と教会のスペースは充分広いな・・・。


これなら、ここでイベントやっても大丈夫だろう。


最悪、このでかい墓地も使わせてもらおうか)





幸太郎は『勝手に』使う計画を立てている。



おっさんは自己中心的で自分勝手なのだ。








「おや、孤児院に何か御用ですか?」





孤児院から優しそうな声が聞こえた。



『おばあちゃん』といっていい、年配の女性が歩いて来る。



その目も優しい光を帯びていた。





(よし! 絶対建て直す。決定。


当分、お金に困らないようにしてやろう)





幸太郎は、この老婆が好きになった。いい笑顔をしている。



若いころはともかく、歳をとれば、



誰でも『今まで考えてきたこと』が顔に出る。



人相に『現状維持』は有り得ない。



人相は、その人が何を考え、何を実行してきたかの履歴書だ。



その人の顔は『内面』を追いかけるように、



後から徐々に変化してゆくのだ。



例えば『ヤンキー』と言えば、ほとんどの人が



『だいたい、こんな顔』と思い浮かぶ。



『ヤクザ』と聞けば、ほとんどの人が



『まあ、こんな感じ』と思い浮かぶ。



だが、『クラスメート』と聞いて、何かステレオタイプの



顔はイメージが浮かぶだろうか? あるわけない。



人間は歳と共に自分の顔に人生の履歴書・・・、



『こんな事を考え、実行してきました』という



看板がかかるのだ。





「初めまして。私は幸太郎と申します。


昨日、ルークたちから


『孤児院を建て直したい』という話を聞きまして。


何かお力になれれば、と、寄ってみた所です」





「まあ、そうですか。ルークたちがそんなことを・・・。


あの子たちの気持ちはありがたいのですが、


建て直しの費用を稼ぐために、


危険な仕事をしているかと思うと、


素直には喜べないですわ・・・。


ルークも、イサークも、ヨサークも、タゴーサクも、


みんな、まだまだ子供です」





確かに実際のところ全員16歳に達していない。



元の地球はもとより、



こっちの地球でも成人とは見做されない。



しかし、それは『鑑定』を持っている幸太郎だけしか知らない事だ。





「しかし・・・これは確かに出来るだけ早急に


建て直した方がいいですね・・・。


ルークたちの言ってる意味は良くわかりました」





幸太郎たちは、孤児院を見つめた。



想像以上にボロボロである。



屋根も板などで補修してあり、あちこち石を置いて



板が飛んで行かないようにしてあった。



建物自体も、素人の補修だらけ。



おまけに建物が傾くのか、流木みたいなもので、



支えている有様だ。





「古い建物ですから・・・。どうも基礎部分自体が、


ダメになってるようなんです。一度完全に撤去して、


元からやり直さないと、建て直せないと言われました」





孤児院の老婆は俯いて悲しそうに言った。



自分たちではどうにもならないのだろう。





「建て直す費用はいくらくらいかかるのでしょうか?」





「・・・金貨400枚です・・・」





「400枚ですか・・・」





幸太郎は考え込むフリをした。



何しろ『相場』なんて知らない。



この金貨400枚が高いのか安いのか、全然見当がつかない。



日本円換算など、愚の骨頂だろう。



物価や物の価値など比べる意味が無い。



簡単に言うなら、この世界に『日本銀行券』を



100枚持って来たって薪にしか使えないし、



この世界で売ってるバカみたいに重たい



グレートソードなど、



日本で何の役に立つのか、ということだ。





(全部解体、撤去。基礎から全部やり直しとなれば、


廃材の処分、必要な新しい資材、


総額で、こんなもんかも知れないなあ)





幸太郎は真剣な顔と裏腹に、ぼんやりと、そんなことを考えた。





「孤児院はオーガス教が運営していると聞きました。


教会は金貨400枚は出せませんか?」





「とんでもない。教会は清貧を旨としていますし、


みなさんの寄付で成り立っています。子供たちの食費を


出すにも苦労している有様です。そして、そもそも教会の


建物も随分傷んでいる状態で、いつまで持つか・・・」





「そうだったんですか・・・」





幸太郎は、またも考えるフリ。



が、全然悩んでなどいない。



この時、教会の門の辺りで立ち話している人が見えた。



服装から判断すると、カーレのオーガス教の司祭なのだろう。



見た目は『毒にも薬にもならない』という感じの、



おっさんにしか見えない。





(うーむ、教会の建物も一緒に建て直さないと、


孤児院の運営費に影響が出るな。


それに、教会、孤児院を建て直すとなれば、


いったん畑に資材置き場を作るしかない。


食べ物の確保も考えなくてはならないし、


子供たちの宿泊先も必要になってくる。


空き家を何軒か借りるよりないだろうな。


孤児院だけでも金貨400枚では全然足りないし、


教会も作り直すとなれば・・・)





だが、幸太郎の結論はケロッとしたものだ。





(ま、いい。幸い、金なんて、なんとでもなるからな。


金持ちたちから搾り取ろう)





幸太郎が考えている計画は、その資金を



『世間が納得する形で孤児院が得る方法』に



重点を置いている。そして継続的に



収入を得る手助けだ。



まあ、大した計画ではない。ギブルスの協力、そして



ジャンジャックとグレゴリオの名前を貸してもらえれば



何の苦労も無い。








と、その時、モコの耳がぴこぴこと動いた。



モコはくるりと振り返ると、笑顔で声をかける。





「あ、ジャンジャックさん、グレゴリオさん!


どうしてここへ?」






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