番外編 三人で買い物
ここは東京。渋谷、原宿、青山・・・。
3人の美女が服飾の専門店を、見て回っている。
そのうちの1店でアステラが試着してみた。
「いいですね。お似合いですよ、アステラ様」
ムラサキが笑顔で褒める。
「そうね、アステラちゃんの雰囲気にも合ってると思うわ」
アマテラスだ。
「う~ん、な、なんか、ちょっと気取り過ぎじゃないかしら?」
アステラは少し気に入らない様子。
「そんなことはございません! お客様の美しさを
より引き立てております」
「あ、では、こちらのモノもお試しになってはいかがでしょう?」
店長と店員はかなり必死だ。この3人が誰かは知らないが、
なんとかして顧客にしたい。
(こ、これほどの美女3人がウチの顧客になってくれたら、
周辺のライバル店・・・いや、本社からも一目置かれるのは
間違いない! なんとしても・・・もう、タダでもいいから
なんとかご用命いただけたら・・・)
結局、美女3人は何も買わずに店をあとにした。
「惜しかったですね、店長・・・。あれほどの美女、
しかも3人なんて、見たことがありませんよ・・・」
「アイドルや女優どころじゃなかったな。モデル・・・?
いや、なんか神々しさすら感じたが、あれほどハイレベルの
美女たちが顧客になってくれたら、ウチの名声も爆上がりで近辺に
鳴り響いただろうに・・・。はぁ、戻ってきてくれないかなぁ」
アマテラス、アステラ、ムラサキの3人で、今日は服を買いに来ている。
本来の目的はムラサキが『じーぱん』を買う事。
それに便乗してアステラも地球に来ている。
アステラは服を買う時、いつもアマテラスとムラサキを頼っているのだ。
アステラの服のセンスは、若干、・・・若干、残念な感じだからだ。
以前アステラは、とあるお土産を売ってる店で、
ティーシャツを買った。
本人はなかなか気に入ってたのではあるが・・・。
アマテラスは笑った。
ムラサキはビミョーな笑顔をした。
そのティーシャツには縦に『びや樽』とプリントされていたのだ。
もちろんアステラは受け狙いで買ったのではない。
『びや樽・・・夏らしくていいわね!
ビールも美味しそうな感じ!』と
真面目に考えての結果だ。
アステラの服のセンスは、ボール半個分ほど外角アウト気味。
アステラは、自分の服装のセンスが、『ほんのわずかに』
世間からズレている事を自覚した。
以来、服を買う時は2人を頼っている。
まあ、元々、顔といい、スタイルといい、
えげつないほどハイスペックなので、
何を着たって『似合う』のではあるが。
3人で東京を歩くと、滅茶苦茶、注目を浴びる。
「うおっ、すっげぇ・・・。なんつー美人・・・」
「すごーい・・・髪キレー・・・」
「足、なっが!」
「ウエストの締まり方、何のエクササイズしてるのかしら・・・?」
「俺、あの黒髪ポニテの子、どストライクなんだけど・・・」
当然、スマホで撮影しようとする者もいる。
しかし、無駄なのだ。
写メや動画を撮ると、何も映っていない。
その上、時間が経つにつれて、どんどん記憶が曖昧になっていく。
1時間もすると『あれ、あの、なんかスゴイ美人を見かけたんだけど』
程度しか記憶に残らないのだ。
そして翌日には全く記憶に残っていない。
記憶に残すことができるのは特殊な修行をした人だけだ。
3人は空間転移を繰り返しながら、
いくつかのオシャレな店を見て回った。
だが、結局アステラは一着も買わなかった。
「なんか・・・肩がこるような服ばっかりね・・・」
「そうですか? アステラ様にお似合いなものも、
たくさんあったと思いますけど・・・」
「仕方ないわね~アステラちゃんは。・・・じゃあ、また
『いつもの』所に行く?」
「お願いします、先輩」
3人は人目もはばからずに空間転移。
まあ、どうせ、誰も記憶に残らない。
記録にも残らない。
「はぁ~なんかやっぱり、結局はここよね~。
なんか落ち着くわね~」
ここは『しまむら』だ。毎度のことながら、
結局はここに来てしまう。
「あ。これ、かわいい」
ムラサキは胸に花のプリントが付いた服が好きだ。
ただ、胸が大きいので、せっかくの花の絵が
横に間延びしてしまうのが悩みの種だ。
「この白のブラウス・・・いいわね、シンプルで素敵ね」
アマテラスもニコニコで服を選んでいる。
まあ、神と言っても、はやり女性だ。
ただし、アマテラスもアステラと同じく
顔もスタイルも、えげつない程のハイスペック。
地味な服を着ると、かえって色々と強調されてヤバイ。
3人はゆっくりと店内を見て回る。
男だと『30分で下着からシャツ、背広、ネクタイまで
揃えなさい』と言われたら、
『余った時間はどこで待ってればいい?』と
質問してしまう。
女性はそういうわけにはいかない。
じっくり時間をかけて慎重にコーデを選ぶ。
これは人間でも神でも変わらないようだ。
しかし、楽しいショッピングに水を差す者たちが現れた。
黒い高級車が3台。タイヤを鳴らし、ドリフトしながら
駐車場へぶっこんで来たのだ。
2人の男の周りをサングラスのSPがガードしつつ、
店内へ急ぎ、入ってくる。
「おお! やはり! アマテラス様、ここにおられたのですね!」
「五十鈴川さん、では、この方が太陽神の!?」
「はい、野沢総理、こちらの黒髪の美しい女神が、
アマテラス様です」
「あら~? 五十鈴川くん、久しぶりね。よくここがわかったわね?」
「現代ではSNSが発達しておりますからな。東京で
『なんかスゴイ美女を見た』って発信が急激に増えて、
その後、急激に無くなりました。きっとこれは
アマテラス様が伊勢よりおいでになられたに相違ないと、
推察いたしました。
後は最新の発信をたどり、人海戦術で絞り込んだのです」
「ん、ごほん、お初にお目にかかります。アマテラス様。
私は内閣総理大臣を務めております、野沢、と申します。
お会いできて、恐悦至極に存じます」
「はい、お疲れ様。お仕事がんばってね」
アマテラスは、アステラとムラサキに、
野沢総理と五十鈴川を紹介する。
「こちらの人は野沢総理大臣。こっちの人は、ウチの神社の禰宜、
五十鈴川くんよ。黒いサングラスの人たちは『ボデーガード』みたい」
アステラとムラサキが『よろしく』と挨拶する。
五十鈴川が挨拶のあと、アマテラスに質問した。
「アマテラス様、もしや、この方々は・・・?」
「ええ、こっちは私の後輩で、他の宇宙で太陽神を務めている
アステラちゃん。この子はその従者、ムラサキちゃん」
「な、なんと!! では、今ここに2柱の太陽神がお揃いに
なっておられるのですね?! 感激であります!!」
野沢総理も感動の涙を流している。
「日本の総理で良かった。ああ、よくぞ日本に生まれけり・・・」
SPたちは懐から日の丸の旗と、旭日旗を取り出し、
広げた。こっちもみんな笑顔だ。
野沢総理と五十鈴川は顔を見合わせ、頷くと、両手を肩幅に広げた。
『柏手』をうつ気なのだ。
「い!? ちょ、ちょっと」
「まさか、ここで?!」
驚くアステラとムラサキ。しかしアマテラスだけは、
慌てず騒がず・・・
「えい」
人差し指を野沢総理たちに向けて、光を放った。
野沢総理と五十鈴川は満面の笑みで、両手を広げたまま、
固まった。まるで時間が停止したかのよう。
SPたちも笑顔で旗を広げたまま、固まった。
仕方ないので、野沢総理たちは『しまむら』の
バックヤードの壁に立てかけておく。
高級車の運転手に事情を話し、30分後に回収を頼んだ。
「もう、毎度ながら、しょうがないわね~五十鈴川くんは・・・」
アマテラスはコロコロと笑っている。
アステラとムラサキは、服を買い、スーパードライと
ミルクプリンも大量に買いこんで地球を後にした。
アマテラスがお土産に持たせてくれた『赤福』も楽しみだ。
3人で買い物。3人の平和な1日のワンシーン。