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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 4
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ゴブリンの巣穴 17


「そう・・・では、救出された女性たち以外は、誰も


『黒フードのネクロマンサー』を見てないのね・・・?」





キャサリン支部長は『ホッとしたような』、『残念そうな』、



複雑な顔をした。それは正直な気持ちだろう。



『黒フードのネクロマンサー』出現の情報は、一応、公開することになった。



秘匿すると、後で変な疑いをかけられるかもしれないからだ。





「でも、B級冒険者と同等の戦力を持ってるのは確定したわね。


そんじょそこらの冒険者や兵士では、まるで相手にならないはずよ。


これほどの数、多くの上位種。


厄介なゴブリンメイジも3体いるし、


D級冒険者なら・・・50・・・いえ、確実に巣穴を潰すなら


70人は欲しい所。しかも半分くらい死ぬ前提でね。


『黒フードのネクロマンサー』は、それを・・・


圧倒的に上回る力を持っているってことになるわ」





「でも、本当なんです。私たちが捕まっていた広間の


ゴブリンどもは、本当に数十秒で死体になり、


静かになりました!」





「わかるわ。もし、全滅させるのに手間取っていたら、


ゴブリンどもは、きっとあなたたちを人質にして


戦いは長引いたはずよ?


嫌な言い方だけど、4人の人質が全員生き残ってるはずないもの」





キャサリン支部長はカーレでの



『黒フードのネクロマンサー討伐』依頼を



『B級以上限定』に変更した。



つまりC級以下は、『やります』と申請しても、



全てカウンターで『不許可』となる。



平たく言えば『触らぬ神に祟りなし』ということだ。



下手にちょっかい出して、敵に回すと大変なことになると



キャサリン支部長は判断した。



なにより、噂以上に紳士的らしいという情報を重視した結果だ。



女性に優しく、一般人に危害を加えないのならば、



そもそも討伐の緊急性が無い。



依頼人の2つの教会など放っておけばよい。





あとは『黒フードのネクロマンサー』を神聖視する女性たちに、



『教会が絡むと、うっとおしいから、言っちゃダメよ?』と



キャサリン支部長が優しく諭した。



彼女たちは渋っていたが、キャサリン支部長の



『それにしても、囚われていた女の子たちのために



本気の涙を流すなんて、



彼ってカッコイイわねえ。・・・惚れちゃいそう!』



というジョークに彼女たちは笑って引き下がってくれた。



女性が欲しいのは『共感』。



『男でもない、女でもない』キャサリン支部長は、



その辺りがよくわかっているのだろう。





・・・ただし、幸太郎は青ざめた。








話の締めくくりに、明日ギルドから調査隊を出す事が決まった。



実際に巣穴を見て、内部を調べたいというのだ。



自然にできた洞穴だが、そんなに大量のゴブリンが



住み着いていたのなら、調査の結果次第では巣穴の



出入り口を全て破壊して封鎖することになるかもしれないという。



『多分、そうなるわ』とキャサリン支部長は言った。





ルークたちがギルドから正式に指名され、道案内をすることが決定。



幸太郎たちも指名されたが、『明日は休養日にします』と断った。



別にルークたちに花を持たせたわけではない。



単純に『ルークたちに囮になってもらおう』と考えただけに過ぎない。



幸太郎は、そんな善人ではないのだ。



おっさんは自分勝手が標準装備。








この依頼の報酬は、1パーティーに対し金貨10枚が支払われた。



元々の依頼では、チーム全体で金貨4枚。



7名の冒険者が全滅したせいで、チーム全体に対し金貨9枚に変更。



1パーティーに対し金貨3枚という事だ。



総額では2倍以上の大幅な報酬アップである。



しかし、幸太郎の報告により、



『前任者7人が全滅したのは当然だった』と認識が変化。



任務が終了した後だが、さらに報酬は上方修正され、



1パーティーに対し金貨6枚という結果になった。



つまり『幸太郎たちでなければ、



2回目の探索も全滅していたはずだ』という



判断が下されたのである。



金貨6枚という報酬は『3回目だったら、



このくらいの報酬になっていただろう』金額だ。



冒険者ギルドとしては、むしろ『安上がり』と言える。



町の警備隊と、商人ギルドからの依頼を



2回も失敗していた場合の方が怖いから。





そして巣穴の発見成功に加えて、大量のゴブリンの耳である。



もちろんゴブリンを殺したのは『黒フードのネクロマンサー』だが、



耳を持ち帰った事に対して、



特別に1パーティーに金貨4枚が追加された。



それほど重要な情報とみなされたのである。



キャサリン支部長も幸太郎と同様に、



『もし、このゴブリンの群れがビエイ・ファームに



襲い掛かっていたとしたら・・・』と発言。



それを聞いた各部署の責任者たちも青い顔で額に汗が浮く。



追加報酬に異議を唱えた者は誰もいなかった。





幸太郎が驚いたのは、エーリッタとユーライカにまで



正規の報酬が支払われた事だ。



本来は幸太郎が雇った『傭兵』扱いだが、



経理室長が強硬に正規の支払いを主張した。



もちろん、この任務の経緯と大量の耳で、



さらに『寄付金』をふんだくる予定だからだ。



結果に合わせて、『もう少し話を大げさにしたい』という事に過ぎない。



経理室長も善人ではないから。



『いやあ、運が良かったです』では



『冒険者ギルドも苦労しました』



『危ない所でした』という話にできないのだ。



そして、やはり『成果』に対して報酬を渋ると、



次から冒険者たちが働かなくなってしまう。



ゴブリンを殺したのは『黒フードのネクロマンサー』でも、



『これほど大量のゴブリンがいた』『巣穴は壊滅した』という



重要な情報に対し、報酬を出さないと



最終的にギルドも困る事態になる。



『金にならない』となれば、



冒険者たちも他の町へ移ってしまいかねない。





ルークたちは支払われた高額報酬に満面の笑みを浮かべ、



はしゃいでいる。こうしてみると、本当に中学生みたいである。



それを見た幸太郎も、思わず微笑んだ。








こうして、幸太郎たちがユタから帰って早々、



いきなり参加することになった『ゴブリンの巣穴』探索は終了した。





ルークたちは最初に巣穴へ突入したせいで、



他の冒険者たちから『スゲエな、話を聞かせてくれよ』と



チヤホヤされている。



逆に、この依頼から離脱してしまったニロギたちは



苦虫を嚙み潰したような顔だ。



『参加しとけば良かった』と思っているのだろうが、もう遅い。





ただし、その判断が正しいのか、間違っていたのかと言うと・・・。





自分の力を過信する者、自分の力量を正確に把握できない者、



このような冒険者は長生きできない。



そして・・・すぐに誰も思い出さなくなる。






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