ゴブリンの巣穴 14
モコの目を見たクラリッサとアーデルハイドは『意味』を
即座に理解した。全て事情を知っているからこそ、
容易に幸太郎の意図が理解できたのだ。
「『黒フードのネクロマンサー』・・・本当かい?
それに巣穴が壊滅したって・・・、
いや、まずは現場へ行ってみよう」
クラリッサが全員に行動を促した。
もちろん説明を受けているエーリッタとユーライカも賛成。
ルークたちも最後尾でついてくる。
モコが全員を引き連れて巣穴へ戻ってきた。
森の中の道には罠が1つも残っていない。
途中の罠は『黒フードのネクロマンサー』と、逃げ出した
ゴブリンたちが壊したことにしておく。
そして巣穴へ到着すると、モコとエンリイが一通り状況を説明する。
幸太郎たちが到着した時には、すでに戦闘は終わり、
巣穴は壊滅した後。
4人の女性たちが救出されていたこと。
巣穴の中は、もう真っ暗で、おそらく『黒フードのネクロマンサー』は
外へ出た後だろうということ。
さりげなく強調しておいたのは、幸太郎たちは結局
『黒フードのネクロマンサー』を1度も見ていないということだ。
救出された女性たちは、全員普通の服に着替えていた。
この服は幸太郎が『マジックボックス』から無償で提供したのだ。
これでもう、見た目にはゴブリンに捕まっていたようには見えない。
ルークたちは驚きの顔で周囲を見回している。
「すげえ・・・これ、全部、『黒フードのネクロマンサー』が
1人で倒したってこと・・・?」
巣穴の周囲だけでもゴブリンが30匹くらい、そして野犬が8匹、
ホブゴブリンが1匹死んでいる。4人の救出された女性たちは、
声を大にして力説した。
「『黒フードのネクロマンサー』様は、
ゴブリンの大群にも全く怯まず、その正義の力で
邪悪なゴブリンどもを誅伐なさいました。
最深部の上位種どもさえ、全く問題にしません。
わずか数十秒で悪を滅ぼし、私たちを救って下さったのです。
あのお方こそ、天からの御使いに違いありません!」
幸太郎は照れ臭くて、来た道を警戒するフリをしていた。
逆にルークたちは、救出された女性たちの説明を
食い入るように聞いている。興味津々だ。
そしてルークたちは、幸太郎の思った通りの事を言いだした。
「幸太郎さん、俺たち・・・中へ入ってみます!」
想像通りのセリフだったが、幸太郎たちは驚くフリをする。
「お、おいおい、中って、巣穴へ入ってみるつもりか!?」
「危ないわよ! まだゴブリンが残っているかもしれないわ」
「それより、まだ『黒フードのネクロマンサー』が
奥にいるかもしれない。
彼の機嫌を損ねたら死ぬかもしれないんだよ?」
しかし、ルークたちの意思は固い。
どうしても行くつもりだという。
「俺たち、上位種の耳が欲しいんです。
もしかしたらギルドから
特別に報奨金が出るかもしれません。
それに、最下層の様子まで調べて報告すれば、
きっとギルドから高評価をもらえるはずです。
俺たち、お金が必要なんです!」
ルークたちが行きたがる理由は単純明快だ。
もし、『黒フードのネクロマンサー』が
ゴブリンを全滅させていれば、
ルークたちは戦うことなく、上位種の耳が手に入る。
依頼内容は『ゴブリンの巣穴を探す』だが、ゴブリンの耳を
持ち帰ればボーナスが出る可能性は高い。
なぜなら仮に『銅貨1枚も上乗せされなかった』場合、
次から冒険者たちは
全然何も持って帰らなくなってしまうからだ。
金にならないのならば、
わざわざ耳を集めてくるバカはいないだろう。
そして、それは冒険者ギルドにとって不利益になるのだ。
『情報』が入ってこなくなるから。
情報が少なくなれば、入ってくる依頼の失敗確率は上昇する。
任務の失敗が続けば、
冒険者ギルドの存続の危機になるだろう。
それに、ギルドとしても具体的な利益に繋がる話だ。
目に見える実績を提示すれば、
確実に商人ギルドと、町の警備隊からの寄付金が増える。
なお、幸太郎たちがデイブとデボラを探しに行った時に、
オークの耳を持ち帰ったが、
あのケースでは銅貨1枚もギルドは出してない。
まあ、そっちは当然である。
あれは、あくまでも幸太郎たちの『散歩』だからだ。
そこまで冒険者ギルドはお人好しではない。
「そうか、そうだったな。ルークたちの戦う理由は、
孤児院の建て替えだったもんな・・・。
しかし、俺はまだ、この人たちの容態を注意しておく必要がある。
ちょっと大きな怪我を治したばかりだからな。
しばらく俺はここを動くわけにはいかないんだ」
「私はご主人様の護衛だから、ここにいるわ」
「ボクも」
幸太郎たちは、一緒には行けない。『ということ』にした。
「あたしたちもパス。洞窟とか狭い所は弓が使いにくいもん」
エーリッタとユーライカも幸太郎の意図は、すでに聞いている。
「あたいらも行きたくない。せまっ苦しい所はキライなんだよ」
クラリッサとアーデルハイドも、幸太郎たちに合わせた。
幸太郎が『ルークたちだけ』を行かせたいのは、すぐにわかった。
ただ、ボディがド派手で大きいクラリッサとアーデルハイドは、
エンリイと同じく本当に狭い所は苦手なのだ。
それは偽らざる本音でもある
「・・・俺たちだけでも、行きます!」
ルークたちは真剣な顔で幸太郎に訴えた。
幸太郎は少し困った顔をする。そして、1つ溜息をつくと、
許可を出した。もちろん、計画通りだ。
ルークたちが『行きたい』と言えば、渋々許可を出す。
逆にルークたちが行かないようなら
『中に金品があるかもしれないぞ』、
『もうゴブリンは1匹もいないだろう』と
焚きつければいい。
「・・・わかった。モコ、巣穴から何か聞こえるか確認を頼む。
ルークには、俺の『灯火』が付与されたワンドを貸してやるよ。
モコ、エンリイも指輪を貸してやってくれ。
3つも『灯火』があれば、そこそこ明るいはずだ」
「ありがとうございます」
「ご主人様、巣穴からは、全く何の音も聞こえません。
わずかに風の通る音がするだけです」
「モコに聞こえないなら、ゴブリンは全滅してると思うよ?」
「よし、ではルーク。まずは偵察に絞ってくれ。
万が一ゴブリンがいたら、すぐに戻ってくる事。
そして、万万が一『黒フードのネクロマンサー』がいたら、
女性たちを救助してくれてありがとう、とお礼を言って、
すぐに戻るように。いいね?」
「了解です!」
「戻ってきたら、この麻袋を4つやろう。耳でも金品でも
なんでも入れて帰ればいいさ。
巣穴にあるものは、全てルークたちにやるよ。
孤児院の建て替え費用の足しにしてくれ。
だから、まずは『偵察』だけだ。
孤児院の子供たちのためにも死ねないだろう?」
「はいっ」
「じゃあ、くれぐれも気をつけてな。
壊れた武器はゴブリンの武器と交換しときなよ。
持ち主は文句を言う元気は無いらしい」
ルークたちは落ちてる武器を適当に拾うと、
『灯火』の魔法を発動させて巣穴へ入っていった。
ルークたちは全員、緊張している。
ゴブリンの巣穴へ突入するなんて大冒険だ。
だが、幸太郎たちは『中には死体しかない』ことは
確認済み。危険なんて、ありはしない。
(よしよし、上手くいったぞ・・・)
幸太郎は、ほっと胸をなでおろした。




