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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 4
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ゴブリンの巣穴 11


 幸太郎はカルタスたちとゴーストのみなさんに頼んで、



この広間を隅々まで偵察してもらった。



その間に幸太郎は『陽光』を大量に設置。





囚われている女性は4人。生きているゴブリンはゼロだ。



この広間に脱出路は作ってなかったらしい。



なんとなく手落ちみたいな気はするが、元々自然の洞穴を



利用しているのだ。なんでも都合よくはいかないのだろう。





(それにしても、凄惨な光景だな・・・)





幸太郎が溜息をつくのも無理はない。



広間の隅に祭壇のようなものが作ってあり、



そこに傷だらけの人間の頭が7つ並べられていた。



前任者の7人の冒険者たちだろう。





何か邪悪な者に祈りを捧げていたのかもしれない。



しかし、幸太郎にはゴブリンの意図していたものが理解できた。





(これは・・・あえて死者を冒涜することによって、


恨みや怒りの念を増幅し、より多くの邪気を発生させるのが


目的なんだろう・・・。『死体蹴り』ってやつか。


そして、その邪気が邪霊を呼び寄せ、その邪気、邪霊を


取り込んだゴブリンが上位種に進化するんだ・・・。


ここにいる上位種だけでも『ゴブリン・ウォリアー』、


『ゴブリン・ウィザード』『ゴブリン・サモナー』


『ゴブリン・ネクロマンサー』、他にホブゴブリンが2体。


途中の『脱出口』があった広間にもホブゴブリンが4体。


こいつらの目論見は成功している。


今日のうちに叩き潰せて良かった・・・。


時間が経てば経つほど、ゴブリンどもは


強力な軍団に成長していたはずだ。


ゴブリンの成長スピードは知らないが、


もし『たった一週間後』でも、その時は俺だけでは


止められない集団になっていたやもしれん・・・)





幸太郎は『もしかしたらビエイ・ファームやカーレの運命が



今日変わったのかもしれない』と本気で思った。





そして、広間の端に物干し竿みたいなものが設置してあった。



ここに、7人の冒険者たちの『胴体』が逆さに吊るされている。



食料にしていたのだろう。道理で血の匂いが濃いはずだ。





幸太郎はゆっくり首を振る。あまり見たくない。








「まずは囚われていた女性たちを救出しなくては・・・」





そして、女性たちがいる横穴へ声をかける。





「みなさん、お待たせしました。私はみなさんの救出に


雇われた者です。ゴブリンは全て駆逐しました。


もう安全です。さあ、外へ出ましょう」





しかし、女性たちは1人も出てこない。



すすり泣きが聞こえるだけだ。



幸太郎が女性たちの元へ向かうと、理由がわかった。





女性たちはボロボロだった。



顔や額にナイフでつけられたような醜い傷跡がたくさんある。



腕や足にも大きな傷跡があった。



裸の体も傷だらけだ。そして、逃げられないように、



全員、アキレス腱が切られていた。





幸太郎に怒りが沸き上がる。ゴブリンの死体を、もう一度



殺してやりたいような衝動に駆られた。



しかし、そんな無駄なことをしている場合ではない。



長引くとルークたちが心配して、



こちらへやって来るかもしれないのだ。





幸太郎は囚われた女性たちの前に跪く。そして頭を下げた。



幸太郎は『マジックボックス』からシーツを4枚取り出し、



女性に渡した。裸のままでは、あまりにも可哀そうだ。





「仮面をつけた姿のままで話をするご無礼をお許しください。


ゆえあって、この仮面を外すことはできないのです。


私は『黒フードのネクロマンサー』と呼ばれています。


私は死者からの依頼を受け、皆さんを救出に参りました。


その亡くなった方々から、すでに報酬は前払いで頂いております。


ですので、私は皆さんを外へお連れする『義務』がございます」





この時、幸太郎は一瞬『今』女性たちの傷を治そうとして、



慌てて思いとどまった。



それは『黒フードのネクロマンサー』の仕事ではない。



『荒野の聖者』の仕事だ。





「失礼いたします。申し訳ありませんが、しばし、ご辛抱を」





幸太郎はそう言って、もう一度頭を下げた。



幸太郎はゾンビに命じると、女性たちを『お姫様だっこ』で持ち上げる。



ゾンビにされても嬉しくなかろうが、他に方法が無い。





しかし、女性たちは泣きながら『おろして欲しい』と言った。





「私たちは、もう、生きていたくありません。


自殺する勇気も無いです。


お願いです、どうか、あなたの手で、


私たちを殺して下さいませ。


どうか、人の手で私たちを楽にしてください・・・」





幸太郎の胸の奥に、再びゴブリンへの怒りが沸き上がる。



囚われた女性たちは、どれほど酷い目にあったのか。



幸太郎は涙した。





「私には・・・それはできません。死者からの依頼は、


あなた方を救出して欲しい、という内容です。


お願いです、どうか、生きる希望を捨てないで下さい。


死者たちは、あなた方が生きていることが望みなのです。


それが、彼らの幸せになるのです。


死者にも心があります。死者にも願いがあります。


死者は、あなた方の幸せを願っているのです。


私からもお願いします。生きて下さい。


どうか、私の願いを、


死者たちの願いを、お聞き届け下さい・・・」





幸太郎は跪いたまま、深く頭を垂れた。



そして、それに合わせて、全てのゴーストたちも頭を下げた。



カルタス達5人の骸骨の騎士、ゴーストたち、



そして幸太郎の召喚したゾンビたち全てが。



涙を流しているのは幸太郎だけではない。



カルタス達、ゴーストたちも泣いている。





「あなたは・・・なぜ、泣いているのですか・・・?」





「あなた方と同じ、『人間』だからです」





「『人間』・・・」





「そうです。人は泣くのです。生きてる人だけでなく、


死んだ人たちも。人は涙するのです、人である限り」





女性たちは、しばらく黙り込んだ。しばしの沈黙。



しかし、1人がはっきりと言った。





「・・・わかりました。あなたの、その涙を信じます」





他の女性たちも頷いた。





「ありがとうございます。私の願いを聞き届けてくださって、


感謝いたします」





幸太郎は、もう一度、頭を下げた。





「さあ、外へ出ましょう。町までお送りしたいところですが、


それは叶いません。私は賞金首になっておりますので。


でも、ご安心を。ここへ来る途中、冒険者の姿が見えました。


巣穴を探しに来ているようです。


上手い具合に女性2人と男1人のパーティーでした。


保護してもらって下さい」





幸太郎はゾンビに女性たちを巣穴の外へ運ぶように命じた。





「あなたは、一緒に外へ行かないのですか?」





女性の1人が質問してきた。幸太郎はゆっくり首を振る。





「私は、ここでもう1つ、仕事が残っています。


ここの邪霊を祓います。皆さまとは、ここでお別れです。


もう2度とお会いすることは無いでしょう。


どうか、お元気で」





立ち上がった幸太郎は、深々と頭を下げた。





ゾンビは女性たちを慎重に運んでいった。途中は『陽光』の



道標があるので怖くはないだろう。





幸太郎は、カルタスたちとゴーストたちにお礼を言うと



『冥界門』を閉じた。



そして、大急ぎで『成仏』をかけて回る。



ゴブリンも歪で変形しているが、霊があった。



全て、1つ残らず消し去る。



そして、次に途中の『脱出口』を目指して走った。






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