ゴブリンの巣穴 10
最下層の広間には数多くのゴブリンが集結していた。
数が多いだけではない。明らかに雑魚とは違う、『上位種』が
混じっている。
180センチくらいの巨体。人間から奪ったのであろう、兜と鎧。
大きなバトルアックス。金属のカイトシールドまで
装備していた。ホブゴブリンのようなパワーだけの
個体ではない。パワーに加え、技と知能もあるようだ。
これはホブゴブリンの上位種『ゴブリンウォリアー』である。
そして、その奥に3体の別の上位種がいた。
この3体は『ゴブリンメイジ』だ。耳がエルフのように長い。
ゴブリンだが、魔法を得意とする個体。
ホブゴブリンも2体いる。あとは小さなゴブリンがナイフや
剣を振りかざして騒いでいた。
そこへ曲り道の奥からカルタスたち5人の騎士と、
300体近いゴーストがなだれ込んだ。
広間は一気に大混乱に陥った。
その隙に、幸太郎は少しだけ顔を出し、素早く鑑定を繰り返す。
一番先に『鑑定』しなくてはならないのが、奥の3体。
『ゴブリンメイジ』たちだ。
そして、幸太郎は『鑑定』結果に驚く。
(なんだと? 『ゴブリン・サモナー』、『ゴブリン・ネクロマンサー』、
そして『ゴブリン・ウィザード』!?
全部『ゴブリンメイジ』の上位種か!
『邪悪な魔導士の霊をたくさん取り込むと生まれる』だと・・・?
こんなヤツらがいるとは!)
幸太郎は奥の手を使うことにした。出し惜しみは無しだ。
狙うのは『ゴブリン・ウィザード』。
「『コール・バンパイア』! ブラッドリー、真ん中の
ゴブリンメイジを撃て!!」
「かしこまりました!!」
幸太郎の背後に、口元をマントで隠した長身の男が浮かび上がる。
そしてその目が赤く、妖しく、輝いた。
「『バンパイアッ・・・ビイイイィィィィィィィムゥッ』!!」
完璧な狙撃!
赤い閃光が走ったあと、『ゴブリン・ウィザード』は
頭に大穴があき、倒れた。
(よし! 倒せた! さすがは『真祖』だ。
サモナーのレベルが45、ネクロマンサーのレベルが39、
だが、ウィザードだけレベルが68だったからな。
その習熟度なら、ここで一番危険な敵はアイツだろ。
小細工される前に倒せて良かった)
しかし、ここのゴブリンの群れは他にも上位種がいる。
まだ終わりではない。
幸太郎が仰天したのは『ゴブリン・サモナー』だ。
何やら唱えていると思ったら、いきなり空中から胴体だけで
2メートルはあるだろう『大サソリ』が降ってきた。
『召喚魔法』だ!
そして、幸太郎にとって厄介なのは『ゴブリン・ネクロマンサー』。
自分以外で初めて『ネクロマンサー』に出会った。
『ゴブリン・ネクロマンサー』はゴブリンゾンビや
ホブゴブリンゾンビを数体召喚した。
しかし、最も厄介なのは『成仏』を使えることである。
『ゴブリン・ネクロマンサー』は飛び回るゴーストに対抗するため、
『成仏』を唱えた。5メートルほどの光の輪が広がる。
その光の輪に飲み込まれたゴーストやゾンビは光の粉になって
消えていった。2体のゾンビと、『冥界門』からやってきた
ゴーストが20体ほどがやられた。
『ゴブリン・ネクロマンサー』は、さらに『成仏』を唱えた。
そしてまたもゴーストとゾンビが消し去られた。
とはいえ、そこで終わりだ。
幸太郎の『成仏』はアステラの特別製。
スキルに改造され、無限に使用可能。効果範囲も広い。
一方、『ゴブリン・ネクロマンサー』は、
ゴブリンゾンビなどを召喚し、その上2回『成仏』を
唱えたため・・・MPが無くなった。
もう、どうにもならない。ゴーストに捕まり、腕を引っ張られ、
足を引っ張られ、胴体や顔に噛みつかれ、口を塞がれ、
首を絞められた。
そして、最後はバラバラに引き裂かれたのだ。
一方、空中から出現した大サソリ。
硬い外骨格と大きなハサミ。
8本の足。大きな毒の尾。強敵である。
しかし、数の暴力に押しつぶされた。
2つのハサミでゾンビを捕らえ、大きな毒の尾で
ゾンビを突き刺す。しかし、ゾンビに毒は効かない。
大きな毒針をゾンビの頭に刺すことで1体を倒したが、
そこまでだった。
群がるゾンビに8本の足を掴まれ、力任せに引きちぎられた。
毒の尾にも怪力のゾンビがしがみついて動きを封じる。
そこへカルタスの部下が駆け付け、
毒の尾とハサミを切り落としたのだ。
もう大サソリは動く事さえできない。頭を落とされて終わり。
召喚された大サソリは煙のように消えていく。
切り札があっけなく倒された『ゴブリン・サモナー』は
女性たちが捕らえられている穴へ逃げ込もうとした。
人質にしようというのだろう。
しかし、もう遅い。
すでにカルタスの部下2人が入り口を守っていた。
『ゴブリン・サモナー』は周囲を見回し、逃げ道を探している所を
大量のゴーストに捕まり、引き裂かれた。
こちらはカルタス。カルタスはゴブリンをなぎ倒しながら、
一番最初に『ゴブリン・ウォリアー』へ向かった。
『ゴブリン・ウォリアー』が盾を構え、バトルアックスを振り上げる!
しかし、『ソードブレイカー』と謳われたカルタスには
隙だらけである。
カルタスは振り下ろされたバトルアックスに合わせて、
ミスリルの剣で逆に斬り上げた。
バキィンッ・・・
バトルアックスは真っ二つになり、地面に落下。
さらにカルタスは剣でカイトシールドを弾き飛ばすと、
その手首を切り落とした。
目にも止まらぬ正確な早業だ。
そして、カルタスは大上段に剣を振り上げると、
轟雷のような一撃を振り下ろす!
『ゴブリン・ウォリアー』は兜ごと、頭から股間まで
真っ二つになって左右に分かれ、転がった。
『ゴブリン・ウォリアー』の顔は驚いた顔のまま固まっている。
これがバルド王国で『十指に入る剣士』と称えられた、
『ロイヤルガード』の精鋭、カルタスの実力だ。
これで勝負は決まった。
2体のホブゴブリンもカルタスの部下に倒され、
雑魚のゴブリンたちは、もう成す術も無い。
ゴブリンゾンビなども『ゴブリン・ネクロマンサー』が
倒された時に消えている。
幸太郎が『冥界門』を開いてから。およそ30秒。
動いているゴブリンは1匹もいなくなった。