ゴブリンの巣穴 9
幸太郎は、さらにゴーストを10体追加召喚。
横穴や天井の穴など、全ての横道を探らせた。
必ず、非常時の脱出路にしている穴があるはずだ。
1つだけでいいから、見つける必要がある。
ゴーストの侵入に驚いたゴブリンたちが大騒ぎをした。
「うるさいわね・・・狭い所で騒ぐんじゃないわよ」
音が反響する洞穴は耳が良いモコにとって苦手なようだ。
もちろん、ゴブリンが全滅すれば快適になる。
「ボクは巣穴とか洞穴ってキライ・・・。狭いんだもん」
身長が190センチもあるエンリイには、洞穴は
狭く感じるのだろう。ただ、逆に幸太郎にとって洞穴などは
『有利』なロケーションと言える。
ゴーストに驚いたゴブリンは次々に横穴から通路へ出てきたが、
50体ものゾンビ軍団が相手ではどうしようもない。
そもそも1体や2体くらいゾンビを倒したところで、
幸太郎たちは痛くも痒くもない。
通路を下っていくと、やや広い場所へ出た。
そこに、松明を持ったゴブリンと、大柄なゴブリンが待っていた。
大柄な方は『ホブゴブリン』だ。
ゴブリンの身長は130センチから140センチ程度。
だが、ホブゴブリンは幸太郎と同じくらいの身長だ。
そして、どう見ても腕の太さは幸太郎の倍以上ある。
そのホブゴブリンが4体も待ち構えていた。
武器は棍棒と丸太。パワーで押しつぶそうというのだ。
「ご主人様、ゾンビを下がらせて下さい。
私たちで片付けます」
「こういうバカはボクたちで殺した方が、効率がいいよ」
幸太郎はモコとエンリイの言う事に従った。ゾンビたちは
普通のゴブリンだけに狙いを絞る。
モコ、エンリイ VS ホブゴブリン4体。
と、言っても相手にはならない。一方的な殲滅である。
ホブゴブリンが丸太を振り下ろす!
が、モコはあっさりと回避。
逆にエンリイは『如意棒』で真正面から丸太を撃ち返す!
モコは小回りの利かないホブゴブリンの足首を
『サイコソード』で切断した。
エンリイも棍棒や丸太を『如意棒』で粉砕する。
ただの丸太と、黄金樹の幹から生み出された『如意棒』では
比べるべくもない。まるで相手にならなかった。
モコはホブゴブリン2体の頭を踏み砕き、エンリイは
『如意棒』でホブゴブリンの顔に穴を開けた。わずか7秒程度。
圧倒的な戦力差だ。
ここで、横道に入ったゴーストが、戻ってきて
くるくると回転してるのが見えた。
『脱出口』を発見したのだ。
「よし、よくやった!」
幸太郎は快哉を叫ぶ。どうしても必要な物が見つかった。
これで準備はできた。幸太郎はゾンビに命じて、
ホブゴブリンの死体を1つ『脱出口』の目印に置いておく。
「あとは一気に行こう。どうせボスは偉そうに最下層だろ。
血の匂いも濃くなってきた。不愉快だからさっさと片付けようか」
ゴブリンにしてみれば、まるで悪夢だろう。
洞窟内部は真昼のように明るくなり、
罠はゾンビやゴーストにはまるで意味を持たず、
横穴や分かれ道はゴーストが飛び回る・・・。
そして、自分たちの巣穴だから、数で圧倒したい所なのに、
ゾンビ軍団がうじゃうじゃいる。
投石、弓矢、毒を塗ったナイフ。
人間相手なら絶大な効果を持つものも、『死体』相手では
成果が出ない。もう死んでいるからだ。
ホブゴブリンが守っていた場所で待っていると、
ゴーストが戻ってきて、正解の道を示した。
幸太郎は、まず、正解以外の道にゾンビ軍団を突撃させた。
1匹残らず殲滅するつもりなのだ。これも絶対に必要な措置。
ゾンビ軍団を突撃させた道の奥でゴブリンたちの叫びと悲鳴が
聞こえてくる。
「・・・けっこう多いな・・・」
「そうですね。おそらくですが、すでに合計で60匹以上は
殺してると思います」
「ここの巣穴は100匹以上の大型の群れみたいだね」
「ますます生かしておけん。脱出口から逃げた奴らもいるだろうが、
ここから先は全て殺す」
静かになった。不正解の道からゾンビ軍団が戻ってくる。
「よし、決着をつけよう」
幸太郎たちは、ゴブリンの巣穴の一番底の方へ向かった。
先にゴーストが偵察に来ていたため、最下層の広間には
怒り狂ったゴブリンたちが雄叫びをあげていた。
モコが『ソナー』で探る。
「・・・囚われている女性たちがいます。
左奥の穴の中だと思います。
数は・・・4・・・人かと。音が反響で濁っているため、
正確な数はわかりません。すすり泣きの声がします。
ゴブリンは大型のものが1匹。あとは詳しくはわかりません。
申し訳ありません」
「いや、充分だよ。囚われてる女性たちの場所さえわかれば、
大丈夫。あとは皆殺しにするだけだ」
幸太郎がどうしても欲しかった情報は『脱出口』と
『囚われた女性の居場所』だ。
ゴブリンたちが勢力を増やそうとするなら、
きっとどこからか女性を誘拐して苗床にしているはずなのだ。
ゴブリンは『ほとんどの大型哺乳類に子供を産ませることができる』と
鑑定に書いてあった。
だが、『もう1つの人類の形』とも書いてあった。
ならば、ゴブリンは優先して人間の女性を狙うはずである。
頭が良く、勢力のある群れなら、尚更人間を狙ってくるだろう。
幸太郎たちの予想は当たった。
・・・当たっても、全然うれしくないが。
幸太郎は『冥界門』を呼ぶ。
「・・・カルタス。囚われた女性たちは左奥の穴らしい。
最優先で保護してくれ。人質に取られると面倒だ。
ゴブリンは全て殺してくれ。もはや生きてていい存在じゃない。
細かい采配は任せる。こっちのゾンビ軍団は基本的に
雑魚を狙わせる」
「承知いたしました。必ずやご満足のいく結果を、
ご覧に入れましょう」
モコとエンリイはここで別行動だ。どうしても必要な仕事が
地上にあるのだ。
「ご主人様、ご武運を」
「上は任せて。きっちりホールドしとくから」
「頼むよ、モコ、エンリイ。ある意味、一番大事な所だからね。
さあ、あまり時間はかけられない。短期決戦だ。
30秒以内にケリをつけよう。
ルークたちが心配し出すと面倒なことになる」
モコとエンリイは頷くと、『陽光』の道をたどり、
地上へ戻って行った。
この2人なら大丈夫。安心して任せられる。
幸太郎は最下層の広間から見えない位置で『冥界門』を開いた。
「開け! 『冥界門』! 目的は女性たちの保護と、
ゴブリンの殲滅だ! 突撃!」