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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 4
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ゴブリンの巣穴 4


「俺たち4人は、全員孤児院の出身なんです。ってゆーか、今でも


孤児院に住んでいます」





ルークたちの説明では、彼らはオーガス教の教会が運営している



孤児院の子供たちだった。やっぱり全員、自分の正確な年齢は



知らないようだ。





「その、孤児院の建物が、もー、ほんとにボロくって・・・。


雨漏りも酷いし、風が吹けばガタガタいうし、隙間風も・・・。


素人の修繕では、もう追いつかないんです。


チビたちのためにも、なんとか建て直しをしないと。


でも、まともな方法では大金を稼ぐのは難しいので・・・」





「それで、冒険者、か」





確かに大金を『短時間』で稼ぐならば、地道な商売よりも



冒険者の方が可能性はある。



別に何もダンジョンへ行け、というのではない。



先日、幸太郎が盗賊や人狩りを返り討ちにしたが、何人かは



賞金がかかっていた。そんな予定外の収入もある。



例え金貨10枚、20枚という額でも、



商売をイチから始めていては、年単位の時間がかかるだろう。



それに『冒険者ならでは』の臨時収入が入る可能性だってあるのだ。





商売には様々な技能が必要であり、コネもあった方がいい。



元手も必要。先立つものが無くては仕入れもできない。



商人ギルドに入れなくては締め付けも受けるだろう。



孤児院出身の4人が商売を始めるのは難しいと言える。





(そうか・・・。よし、ここは、俺がひと肌脱ぐとしようか。


お金には困っていないし、何より、ちょっと気まずいからな・・・)





これは幸太郎がファルネーゼに頼んだ『作戦』のことを言っている。



コナのオーガス教の教会だけでなく、オーガス教全体に



大ダメージを与えるような、えげつない・・・、いや、



あまりにも性格の悪い邪悪な作戦だ。



幸太郎は一切手を出さないが、下手すると大勢死ぬ。



・・・というか、間違いなく大勢死ぬ。





ただ、元々幸太郎は宗教に対して辛らつだ。



『命より信仰が大事なら、信仰と共に滅ぶがいい。本望だろ』



くらいの血も涙もない考えをしていた。まさにサイコ。



幸太郎は『ベルセルク』のシールケが言った、



『太陽は太陽、光は光』というセリフに共感している。



『宗教が違うからと太陽や月に祈ることができない。



宗教が違うからと火、水、風、土に感謝できない。



宗教が違うからと先祖に手を合わせることができない』



そのようなことは、カケラも共感できなかった。



『付き合いきれん。勝手にやってろ。俺を巻き込むな』と



考えているのだ。世の中の聖職者たちが聞けば、激怒するだろう。



その意味で、幸太郎は宗教から見れば邪悪な存在で間違いない。








ルークたちにとって、ゴブリンの巣穴を探す依頼は、



どうしても参加したい依頼だとわかった。



前任者7人が全滅したことで、



『任務失敗案件』として報酬が跳ね上がっている。



しかし、その一方、あくまでも『巣穴の発見』が目的であり、



戦わずに済む可能性もある。



うまく戦闘を避けることができれば、



『割のいい任務』と言えなくもないのだ。



ほとんどの冒険者たちは『危ない』と拒否する依頼ではあるが。





ちなみに、ルークたちを幸太郎が全然知らなかった理由も判明。



ルークたちは『新人』の時から、朝早くギルドへ顔を出す。



そして、幸太郎たちがギルドへ来る頃には、出撃していた。



帰ってきても、ほとんどの場合



すぐに孤児院へ戻り、畑仕事や子供たちの世話をしていたのだ。



8時まで寝ていて、仕事は2日に1度の幸太郎が



ルークたちを見たことが無かったのは、むしろ



当然と言えるだろう。ぐうたら幸太郎。








ルークたちの事情がわかったので、明日の行動の方針を確認する。





「では、明日、早朝にギルドに集合。ビエイ・ファームの東から


南東方面を調査する。あくまでも目的は巣穴の発見だ。


基本的に戦闘は行わない。巣穴の場所を発見したら、


即、撤退。巣穴の攻略は別問題だ。いいな?」





全員がうなずいた。





幸太郎は食堂のウェイターに頼んで、パンや焼き肉を



大量に包んでもらった。そして、それをルークたちに持たせた。



孤児院へのお土産だ。





大喜びで孤児院へ帰っていくルークたちを、幸太郎たちは



微笑んで見送った。





幸太郎は頭の中で孤児院建て直しのプランを練る。



建て直しの資金自体は幸太郎1人で事足りる。



しかし、単に大金を寄付したところで、いずれ底を尽く。



生きて行けるような『継続的システム』が必要だ。








翌朝、7時。ギルドに幸太郎たちは集合した。幸太郎は少し眠い。



ルークたちはすでに集合していた。幸太郎より立派。



しかし、巣穴を発見し、日帰りする予定なので



早めに出発するべきなのだ。



ギルドのカウンターに出発することを伝えて、町を出た。



冒険者ギルドは24時間無人になることはない。





まずはビエイ・ファームを目指す。途中、夜間の畑の見回りから



帰ってくるエーリッタとユーライカに会った。



『ユタで何をしてたか』など、話はあるが、



とりあえず今はそれどころではない。



『ゴブリンの巣穴を探す依頼』を受けたと伝えて別れた。



エーリッタとユーライカも徹夜で眠いのだ。





カーレとビエイ・ファームの間をパトロールする騎士たちとも



すれ違った。騎士たちは不定期に街道を騎馬で見回る。



定時パトロールだと、騎士のいない時間を



盗賊や人狩りに狙われるからだ。





「そういえば、そろそろピシェール男爵領への侵攻が


始まるはずだよな」





騎士をたちを見送った幸太郎がポツリとつぶやく。



それに対し、クラリッサが新しい情報をもたらした。





「それがさ、当初予定していた大規模侵攻は無くなったらしいぜ?


理由はわかんないけど、急に準備の手が止まったって聞いたよ」





「へぇ? 大規模じゃなくなったってことは、ピシェール男爵の


息子たちは降伏するってことかな? でも、降伏したって


全員処刑されるだろうに」





幸太郎も何が起きたか推測できない。



ただ、何かあったのは間違いない。



それについてはルークたちの顔が曇った。





「なんか聞いた話じゃ、ピシェール男爵の一番下の四男は、


まだ10歳にも満たないっていうじゃないですか。


それでも処刑されるって・・・嫌な話ですね・・・」





「貴族の世界じゃ仕方ないんだろーけどさー。


やりきれない話っスよねー。まだ子供なのに」





「うちの孤児院のチビどもと変わらないって考えると、


なんとか助けてやりたいですよ」





「見方によっちゃ、俺たちの方が幸せなのかもなぁ。


ばーちゃんは優しいし、チビたちも懐いてるし」





やはり孤児院出身だけあって、一番下の子供のことは心配らしい。



ただ、逆に言うと、長男、次男、三男のことは



『貴族だろ、責任取って死ねよ』としか思っていないということ。



立場が違えば、見方も違う。








ビエイ・ファームが見えてきた。ここで幸太郎たちは



街道を外れ、東の方へ進む。





「えーと、まずは、先日俺たちがゴブリンに襲われたところを


目指すとしよう。そこから巣穴を探すのが一番効率が


いいと思う」





全員がうなずいた。



ここからは全員武器を持ち、警戒しながら進む。



ルークたちは革の鎧、ショートソード、ラウンドシールドだ。



ただ、全て安い中古を買ったようで、傷みがひどい。



自分であちこち修理してあった。



幸太郎は盗賊や人狩りの装備と交換してやろうかと思ったが、



理由もなくそんなことをすれば、不審に思われるかもしれない。



『なんでマジックボックスに、そんな大量の物が入っているのか?』と。





先日ゴブリンと戦った場所に到着した。



幸太郎は場所をよく憶えていなかったが、



モコがしっかり目印を記憶していた。



幸太郎はモコがいないと、この世界で生きていけないだろう。





途中は野犬すらおらず、平和だった。しかし、ここからが本番だ。



何せ前任者たち7人が誰も帰ってこなかったのだから。






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