ゴブリンの巣穴
今度は幸太郎の質問だ。
「私たちをチームに加えたい理由はなんですか?」
「すでにギルドは『任務失敗案件』に指定しています。
ただ、まずはC級冒険者の出動よりも、人数を増やすことで
『巣穴』の発見を第一に考えています。
幸太郎さん、モコさん、エンリイさんのパーティーは
戦闘力もさることながら、
最大規模の『マジックボックス』を持ち、
索敵、強力な回復魔法、C級冒険者のメンバーなど、
突発的な事態への対応力も優れていると思います。
不測の事態に強いとの判断です。
7人のD級が全滅していることから、
罠にかかったとの推測も出ています。
現在、D級4名のパーティーと
E級4名のパーティーが参加を承諾してくれましたが、
『マジックボックス』持ちや『C級冒険者』はいません。
幸太郎さんのパーティーが参加してくれれば安心です」
幸太郎のパーティーはC級冒険者のエンリイがいるが、
パーティーはとしてはE級扱いだ。
リーダーがE級だから、パーティーもE級。
C級以上は、そんな簡単に与えられる称号ではない。
「なるほど、11人でチームを組むとして、最悪、その中の
何人かが生きて帰って来れればいい、というわけですね」
「は、はい、申し上げにくいことですが・・・」
「ああ、お気になさらず。それでこその冒険者ですからね」
冒険者は『使い捨ての日雇い労働者』でもある。
商人ギルドと、町の警備隊からの依頼ということは、
裏を返せば、『ウチから犠牲者は出せない』という意味なのだ。
採算が合わない。だからこそ冒険者に依頼が来る。
そして、その『使い捨て』に不満があるなら、そもそも冒険者など
やらなければよい。
「しかし・・・私たちは既に『フレンド』がいるのですが」
「それはわかっていますが、そこをなんとか。
すでに隣の会議室に8人がチームとして待機しているのです。
上層部は、あと1パーティーの参加を必要と判断しています。
その残りの席は、是非とも幸太郎さんたちにお願いしたいです。
それが、最も成功確率が上がると思います!」
今度はモコが質問した。
「他のパーティーは名乗り出ないの?」
「はい・・・名乗り出るパーティーはいません・・・。
声をかけても拒否されてばかりで・・・」
「D級7人が全滅ってことで、警戒してるのね」
「冒険者たちは、あくまでも組合員ですから・・・。
強制はできません」
これも仕方ない話。
冒険者は全員『個人事業主』みたいなものだから。
自分のパーティーの力量、経験、装備、得意な事、苦手な事、
全てを総合的に勘案して『依頼を達成できそうか』
『生き残れそうか否か』を判断する。
判断が間違っていた場合? それはこの世にグッバイというだけ。
実戦に『次』は無い。
『こんなはずでは・・・』というボヤキは
あの世で好きなだけ言えるから大丈夫。
そして、冒険者たちは『D級7人が全滅』という結果に、
強い危険を感じているのだ。
エンリイが『ヤバめの案件』という感想を持ったように、
他の冒険者も手を出したくないのだろう。
なお、ルイーズの説明に『フレンド』のエーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドの話も出た。
エーリッタとユーライカは、ストレートに興味なし。
そして弓が得意なエルフにとって、
巣穴の中は最悪なロケーション。
さらにD級7人全滅なら、彼女たちには屋外でも
優秀で信頼できるタンクが絶対に必要。
クラリッサもあっさり断った。
理由は幸太郎たちの方がよくわかっている。
人見知りするアーデルハイドは
他のパーティーと組むのが好きではないのだ。
エーリッタとユーライカは夜間の畑の見回りの依頼を受けて、
すでに町を出ていた。クラリッサとアーデルハイドは宿にいる。
「なるほど・・・。他に引き受けてくれそうなパーティーが
いないってのも理由の1つなんですね」
「はい・・・残念ですが・・・」
幸太郎はモコと、エンリイと、目で会話した。
モコとエンリイもうなずいた。
「わかりました。参加いたしましょう。
ただ、他のパーティーとの連携は不慣れです。
思ったほどの効果は無いかもしれませんよ?」
「ありがとうございます。お願いいたします。
大丈夫ですよ、幸太郎さんたちなら必ず情報を持ち帰ると
確信しています!」
幸太郎は『あんまり、おだてないで下さいよ』と苦笑しながら
チームの待つ会議室へ向かった。
ガチャ。
会議室のドアを開けて幸太郎たちが会議室へ入ると、
8人の男たちが一斉に注目した。
最後のパーティーが決まったということで、
まずは値踏みしているのだろう。
幸太郎は内心、びっくりしていた。
8人、2つのパーティーだという。
片方の4人組は『いかにも』というゴツイ顔つきで、驚きは無い。
だが、もう一方のパーティーの男たちは『若い』!
まるで中学生くらいだった。実際に『鑑定』を使うと、
1人が15歳で、残り3人は14歳という有様。子供だ。
(確か、この世界では、16歳で成人ってのが普通だったよな。
でも、こいつら全員年齢が足りてないぞ?
よくギルドに登録できたな?
いや、そもそも正確な戸籍が無い人たちか?)
幸太郎の推測は当たっている。実はこの若い4人組は、
全員『孤児院』の出身なのだ。
正確に自分の年齢を知っている孤児の方が珍しい。
「えー、ギルドからの推薦で、チームに参加することになりました。
私が幸太郎、こちらがモコとエンリイです。よろしくお願いします」
幸太郎が軽く会釈した。そして、会議室の机のまわりの椅子に座る。
「では、えーと、まずはチームの方針を聞かせて欲し・・・」
幸太郎がそう言いかけたが、ゴツイ方の4人組が遮ってきた。
「おい、待てよ。俺たちはお前らの参加なんて認めねーぞ?
幸太郎つったか? ふざけんな、女を2人もチャラチャラ
連れてきやがってよ。この任務はお遊びじゃねーぞ。
それとも、その女2人をゴブリン様に献上でもしようってのか?」