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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとガイコツの森 2
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また今度


「ありがとう。もう大丈夫ですわ」





ファルは笑顔で答えた。泣きはらした目が赤い。



幸太郎たちも笑顔でうなずいた。





(初めて人を殺したんだ、平気なはずはないだろうに)





幸太郎は内心、心配した。しかし、モコとエンリイは、



それに加えて、こうも思った。





((絶対、ご主人様<幸太郎サン>についていくという、


覚悟を決めた剣だった・・・))





そう、今の剣は『貴族のお嬢様である自分』と決別する、



過去の自分に別れを告げる一振りだったのだ。



幸太郎にはわからなかったが、今のファルは、



もう今までのファルとは別人である。



『辺境伯の妻ファルネーゼ』は、今、死んだのだ。








幸太郎は『後始末』を始めた。モコとエンリイに頼んで



馬車から2頭の馬を外してもらう。意外なことに、ファルが



進んでハーネスなどを外してくれた。



馬車の構造に知識を持っているらしい。



もちろん、幸太郎は全然知らない。





幸太郎はゲーガン司祭に『成仏』をかけ、



死体を『マジックボックス』に収納。



現在『マジックボックス』には人狩り29人と、



馬車の御者。それにマラケシコフとゲーガン司祭、



合計32人の死体が入っている。



死体を持ち歩く幸太郎。サイコもいいとこだ。





だが、これは計画に必要な事。これで人狩り一行は『行方不明』だ。



それも、『忽然と姿を消した』ことになる。





昨日の雨で道は柔らかい。つまり馬車が『ガイコツの森』まで



やってきたことは隠しようがない。



人狩り29人の足跡もついている。





ところが、ここから先には『一切の痕跡が無い』状態になるのだ。





調査に来た冒険者たちなどが現場を見ても、馬車が森へ



入った所まではわかるだろう。目端の利く者だったら、



人狩りたちが北側の低い丘を越えて、なにやら争った痕跡を



見つけるはずだ。





しかし、そこで終わり。





幸太郎は馬を外した馬車を、丸ごと『マジックボックス』に吸い込んだ。



そして、『ゴーストブーツ』を使用。宙に浮いた状態で



馬2頭を連れて、南西方向へ消えていった。





つまり、どんなに詳しく調べても、



この場所から『出て行った』足跡は



『馬2頭だけ』なのである。





昨日の雨で馬車の轍の後はしっかり残っている。



人狩りたちが歩いた足跡もくっきり残っている。



幸太郎はそれを逆手に取ったのだ。





普通、『マジックボックス』は最大でも背負い籠6個分程度だという。



幸太郎のように『大型タンカー』が収納できる



『マジックボックス』は、まさに規格外。



それでなくとも元々『レアスキル』なのだ。





司祭と聖騎士が信者を連れて『ガイコツの森』へ向かったのは



知られているはずだ。



どんな名目での外出なのかは不明だが、



帰って来なければ、当然探しに来る。



だが、どれだけ探しても、馬車の痕跡も、29人の信者の足跡も、



『ここからどこへも行っていない』。





誰も帰って来ない以上、死んだとは推測されるはず。



しかし、馬車を壊して燃やした形跡もない。



合計32人の足跡も無い。



仮に馬2頭の足跡を見つけたとしても、32人も乗ることはできない。



言うなれば、幸太郎は『超巨大な密室殺人』を作り出したのである。





何が起きたのか、推理できる者は皆無。





そもそも盗賊に襲われたと仮定しても、29人の信者と、



なにより『聖騎士』を倒す方法がわからない。



ロクに戦った痕跡すら無い。



幸太郎のようなインチキ野郎がいなければ、説明がつかないのだ。





結論はどうなるか?・・・決まっている。








『司祭たちは、ガイコツの森に喰われたのだ』








これ以外にあり得ない。公式な発表にはならないだろうが、



人々は、必ず、この噂をする。司祭が行方不明になった事の



『犯人捜し』は必ずとん挫する。





幸太郎は、この計画を、人狩りたちが馬車でやって来るのを



見た瞬間から考えていた。



そうだ、幸太郎は、彼らを見た瞬間から



『殺した後』の計画を立てていたのだ。サイコパス。



ゲーガン司祭も、マラケシコフも、人狩りたちも、



『美女が3人見えた』という情報を聞いて、大喜びで



この『ガイコツの森』へやって来た。



だが、関わってはならなかったのだ。



見てはならなかったのだ。



異世界の日本からやってきたサイコ野郎とは、



絶対に関わってはならなかったのだ。








やや日が傾きだしたころ、幸太郎たちはユタの防壁のそば、



ギブルスの干物工場にたどり着いた。



やはり『ゴーストブーツ』は早い。



人目が無ければ、だが。





そして、馬2頭は結局連れてきてしまった。



途中で手綱を放し、解放したのだが、



2頭とも嬉しそうに後をついてくる。



そして、幸太郎たちが休憩を取ると、鼻を摺り寄せてきた。





「「「「か、かわいい・・・」」」」





幸太郎たちは馬を振り切るのを諦めた。



牧場育ちの馬なのだろう。人を仲間だと思っているようだ。





幸太郎たちが予想より早くユタへ帰還できたのは、



馬たちのお陰でもある。



町が近づいてからは『ゴーストブーツ』を解除し、



馬に乗って歩いたのだ。鐙は無いが、毛布を鞍替わりにして、



ポコポコ走る。





『誰が幸太郎の前に乗るか』でモコ、エンリイ、ファルがもめたが、



コインで決着。あとはローテーション。



幸太郎は馬に乗れないのは自分だけだと知った。



まあ、馬に乗れる日本人の方が珍しいだろう。





干物工場にはガーラが待機していた。馬2頭はギブルス商会に寄付。





「お帰りなさいませ、幸太郎さん」





ガーラがにっこり微笑む。心配は心配だったのだろう。



何しろ『領主』も同行していたから。





「目的は果たせました。詳しい説明は、後日ギブルスさんにしときます」





幸太郎も微笑んだ。ガーラはうなずくと、



カムフラージュの板やゴザを外し、床のハッチを叩いて



合図を送る。『コン、コン、コン、コン』と4回ハッチを



一定のリズムで叩く。それを5回繰り返した。



すると、しばらく間をおいて、床の下から『ガチリ』と



ロックの外れる音がする。そしてハッチが持ち上がり、



中から見覚えのある顔が現れた。メイドのケイトとダイアナだ。





「お帰りさないませ、ファルネーゼ様」





ファルもうなずく。そして、ファルは幸太郎に別れの挨拶をした。





「幸太郎様、楽しい旅でありました。大変なこともありましたが、


充実した日々であったことは間違いありません。


また、幸太郎様と旅をさせて下さい。約束ですよ?」





「お疲れ様でした、ファルネーゼ様。こちらこそ、至らぬ点が・・・」





ここでファルは幸太郎の言葉を遮った。





「幸太郎様! 私はそこのハッチが閉じるまで、幸太郎様の


パーティーメンバーの『ファル』ですわ。あなた様の仲間です」





幸太郎は少し面食らったが、ファルの言葉を聞き入れた。



というより、余計なことを言うと話が長引きそうに思えたからだ。



ケイトとダイアナはハッチを開けたまま、



ずっと待機しているのだから。





「・・・わかったよ、ファル。こちらこそ、助けてもらって


ありがとう。楽しかったよ。また一緒に旅をしよう」





ファルはにっこり笑うと、幸太郎に『ぎゅうっ』と抱き着いた。



そして、モコ、エンリイとも固く抱き合うと、



『また今度!』と手を振って、ハッチの中の階段を降りて行った。








こうして、幸太郎がやりたかったこと、『エルロー辺境伯に



殺された子供たちの弔い』は終わった。



色々あったが、結果としては『終わり良ければ総て良し』と



言えるだろう。





ただ、幸太郎は1つ勘違いをしている。





幸太郎はファルの『また、一緒に旅を』の内容を、



『子供たちの墓参りの時は誘ってね』という意味に考えていた。





だが、ファルは『今度は、一生ついてゆきます』という



意味で考えている。





意思の疎通とは、かくも難しい。






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