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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとガイコツの森 2
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死ぬまで殴ってやれ


 ゲーガン司祭はマラケシコフが首だけになったのを見て、



慌てて馬車に乗り込もうとした。





「出せ! 出せ! 逃げるのだ!」





しかし、馬車の御者は『グラリ』と倒れ、動かなくなった。



首にモコの投げナイフが刺さっている。





「ひいいいぃぃ」





先程までの威勢はどこへやら。ゲーガン司祭はしりもちをついて、



ガタガタと震えだす。





それをモコが無理やり立たせると、尻を蹴り飛ばして



幸太郎たちの方へ転がす。幸太郎たちは這いつくばる



ゲーガン司祭を冷めた目で見下ろした。





そして丘の向こうから大量のゴーストとカルタスたちが



2人の人狩りを捕らえて戻ってきた。



しかもカルタスたちだけではない。



なんと『シャーリー』と『ベロニカ』も歩いて戻ってきたのだ。





この光景には、さすがに幸太郎もちょっと驚いた。





「えええ? シャーリーさんとベロニカさんは、


てっきり用が無くなったから、そのまま消えるのかと・・・」





シャーリーとベロニカは『ゲハハハ』と笑う。





「いや、なに、ちょっとお前さんに礼を言っておこうかと


思ってなあ」





「そうじゃ、わしらはマラケシコフのスキル


『エレメンタル・ドミネーター』に捕まって、あげく、


こんな女の恰好までさせられたからのう」





「女の名前までつけられて、迷惑しとったわい」





「全く、何がシャーリーとベロニカじゃい。エレメンタルに


性別などあるわけなかろうが」





「そうそう。『喜びの表情でキスしろ』とか、けったいな


命令ばっかりだしよって。内心うんざりじゃった」





「気持ち悪かったのなんの。そこの首だけ男は


毎晩、わしらを呼び出してベッドでバカみたいに腰を振るのが


日課だったんじゃ」





「お前さんたちにわかりやすく言うなら、スコップで地面に


穴を掘って、そこへナニを突っ込んで腰をふるような


ものじゃわ」





ファイア・エレメンタルたちはそう言って、



またも『ゲハハハ』と笑う。逆に幸太郎たちは



『ドン引き』していた。『例え』がわかりやす過ぎたから。



確かに『エレメンタル』たちは・・・生物ではない。



カテゴリーとしては『物質』寄り。





気を取り直して、幸太郎はエレメンタルたちに聞いてみた。





「あなた方は人間と同じような知性を持っているのですね」





「いいや? わしらの本来持ってる知性は、ニンゲンとは


別方向の知性じゃ。我々はこの宇宙が無くなるまで、


『消滅』はせんからのう」





「小さな火なら知性は無いが、ある程度集まれば知性を持つ。


ただ、それは、あー、人間には理解し難いかもしれんが、


『もっと多くの物を灰にして、もっと循環しなくては』


という知性じゃ。


『サラマンダー(火トカゲ)』のような『火の妖精』だと、


また話は別だがの」





エレメンタルたちはケロッと言った。





「でも、今はこうして会話出来てますよね?」





幸太郎の質問に対し、エレメンタルたちは嫌そうな顔で答えた。





「これは、あのバカの『エレメンタル・ドミネーター』の


影響がまだ残っているんじゃよ」





「今のわしらは、あのバカに由来する『ニンゲンぽい』知性が


残っているに過ぎんわ。焚火が消えても、しばらくは熱いじゃろ?


わかりにくい? んー、水面に石を投げると、しばらく


波紋が残っているような感じか?」





どうもエレメンタルたちはマラケシコフが残した『知性』が



好きではないらしい。





「お。どうやら、そろそろ時間切れじゃ。


礼を言うぞ、若造。助かったわい」





「わしらを解放してくれて、ありがとうよ。


やっと、この気持ち悪い姿から解放されるようじゃ」





「人の姿は嫌でしたか?」





幸太郎の最後の質問に、エレメンタルたちは、



心底嫌そうな顔で答えた。





「お前さんたちだって、ナメクジやイボガエルの姿に


変えられたら気持ち悪いじゃろ」





「そういうことじゃ。人間の姿を美しいと思うのは


人間と神々くらいじゃろ。獣や虫たちは、そう思っておらん」





「なるほど。言われてみれば」





幸太郎は一本取られたような気がした。





セクシーなコスチュームの美女に『変身』させられていた



ファイア・エレメンタルたちは、手を振りながら、



蒸発するように消えていった。



もう会うことはないだろう。



仮に会ったとしても、この事を憶えてはいないはずだ。



人間たちとは別方向の知性だからだ。








幸太郎はカルタスたちに労いの言葉をかけた。





「お疲れ様。怪我とかはない?」





「ご心配には及びません。先ほどのエレメンタルたちは


我々や大勢のゴーストに目移りして、攻撃目標を


絞り切れておりませんでした。その上、途中から


『戻れ』という指示が出ていたようで、てんで支離滅裂な


行動になっていたのです。支配下状態の彼らは


明らかに知能が低かったです」





「そうか、やっぱりな。俺の『コール・ゴースト』と同じで、


知能は術者由来だったわけだ」





「もとより、火や水が人間と同じ知能を備えているわけが


ありません。ご明察です」





もし、仮に火や水が人間と同じ知能を持っていたならば、



それは『人間と同じ価値観、欲望を持つ』という意味だ。



その時彼らが何を要求し、行動するか・・・。



想像に難くない。





「モコのリクエストも叶えてくれたようで、感謝してるよ。


本当にありがとう。いい仕事だったよ」





カルタスは幸太郎にお辞儀した。4人の部下はまたも



『決めポーズ』・・・。





幸太郎たちはカルタスたちと、300体近いゴーストに手を振った。



『冥界門』を閉じると、彼らは煙のように消えていく。





「さぁて・・・っと」





こそこそと四つん這いで逃げ出そうとしていたゲーガン司祭に目をやる。



エンリイが棍を『如意棒の術』で伸ばすと、蠅たたきのように



ゲーガン司祭の尻を叩いた。





「ひいっ、お、お許しを、お許しを・・・」





エンリイが指を『くいっ』と曲げて『戻れ』のジェスチャー。



ゲーガン司祭はぺこぺこと頭を下げて、またも四つん這いで



戻ってくる。どうも腰が抜けて立てないらしい。





「モコ、まずはこの人狩り2人から処刑しようか」





「ありがとうございます。・・・村の人たちの仇、


この手で討てる機会がやってくるとは・・・」





そう、先程のファルが行った会話の最中に、モコは



『見覚えのある顔』に気づいた。護衛の人狩りたちの中に、



モコの村を襲った奴らが2人いたのだ。



つまり、ユタの奴隷商人ブロトの所へ戻っていた連中の一部だ。



向こうもモコに気づいていたかもしれない。





「じゃあ、俺は人狩りたちを『成仏』させて、死体を


回収してくるから、その2人は死ぬまで殴ってやれ。


おっと、俺はまずマラケシコフを成仏させとくか。


オーガスさんに魂を回収されると面倒だ」





人狩りたちは逃げようとした。それはそうだろう。



しかし、モコとエンリイがあっさり回り込む、そして、



人狩り2人の鎖骨をゲンコツで叩き折った。



これで、2人とも両腕が使用できない。





「じゃあ、エンリイはこのロープで、そこのスケベ司祭を


縛り上げておいて」





低い丘の向こうに消えていく幸太郎の後ろで、



モコが人狩りに馬乗りになって殴る音が響いている。





「お前たちのせいで・・・」





バキッ





「マスティさんも・・・ラブラドさんも・・・テリアさんも・・・」





バキッ、バキッ





「みんな、みんな、いい人だったのに・・・」





バキッ、バキッ、バキッ





「お前たちは、人間のクズよ!」





バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッ・・・。





人狩りの2人は、本当に殴り殺された。



モコが2人を死ぬまで殴り続けたのだ。



もちろん、モコを非難するのは筋違いだ。



村を襲い、人を殺し、火を放ち、子供たちを誘拐、



今さら『助けてくれ』『残酷』などと虫の良い話は通らない。



嫌なら、最初から人狩りなどしなければいいだけのこと。



何か文句があるなら、それは過去の自分に言うべきだろう。





その光景を見たゲーガン司祭は、青ざめて、涙を流し、失禁した。






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