私がもらう
馬車から降りたゲーガン司祭は、聖騎士の男と共に、
悠然と幸太郎たちに向かって歩いてきた。
幸太郎は聖騎士の男を『鑑定』する。
(名前はマラケシコフ。聖騎士で間違いない。ジーウェイと同じ服。
しかし、こいつは『オーガスの玩具』か。何か奇妙な能力を
与えられているのだろうな。敵の数が多いから先手で
潰すことができん・・・。まずはコイツの能力が
知りたい所だな。
なにかファルとの会話でボロを出してくれると
助かるのだが・・・)
ファルは被っていた頭のフードを後ろへおろし、
一歩前に出てゲーガン司祭に話しかけた。
「ゲーガン司祭・・・ゲーガン司祭様ですね?
私です、ユタのファルネーゼです」
ファルの姿と言葉に、ゲーガン司祭は目を見開いて驚いた。
「な、なんですと? ファルネーゼ様!? いや、確かに、
そのお姿、間違いなくファルネーゼ様・・・。
どうして、このような場所へ?」
「その・・・実は、『あるもの』を探しに、この森へ
来ていたのです」
「その『あるもの』とは?」
「それは・・・残念ながら、表立っては言えません。
もし、よろしければ、後で会談の場を持ちたいと思います」
ここで、聖騎士のマラケシコフがヘラヘラ笑いながら言った。
「隠さなくたって、いいんだぜ。お前の旦那に殺された
子供たちの死体を探しにきたんだろォ?
死体なんて探してどうする気だったんだ?
夫を見習って、まさか骨でもしゃぶろうってつもりだったのか?
キシシシシ」
ゲーガン司祭は、青ざめるファルの顔を見ると、
それまでの温厚そうな聖職者の仮面を脱ぎ捨て、
邪悪な本性を見せた。
「はっは、やっぱり子供たちの死体を探しに来てたのか。
まったく、油断も隙も無い。しかし、この場でこいつらを
捕縛できたのは、まさに大神オーガスの導きというところかな?」
ゲーガン司祭の言葉に、30人近い聖職者・・・もとい、
人狩りたちが下品な笑い声をあげる。
「しかし、私は運がいい。まさに天の配剤よ。
おい、マラケシコフ、『ファルネーゼ』は私がもらう。
あっちの獣人のメス2匹は、お前たちにやろう。
なかなかの上玉で少々惜しい気もするが、
やはり、何を置いても『ファルネーゼ』よ。
あの美しい顔! あの美しい体!
初めて見た時から、いつか、思いのままに
なぶりものにしてやりたいと、ずっと願っていたのだ。
くっくっく、まさか、こんな形で夢が叶うことに
なろうとはな!」
その言葉を聞いたファルは、思わず後ずさった。
「ゲーガン司祭様・・・? あ、あなたは、いったい何を
言っておられるのですか・・・?」
ゲーガン司祭はファルを見て、舌なめずりをした。
「おい、ファルネーゼ。お前は今日から『行方不明』だ。
今、この瞬間から、お前は領主でなく、一匹のメスだ。
服を着れるのは、今日で最後だぞ? 明日からは
毎日裸で私に許しを請うのだ。くっくっく、
まずはペットの心構えを厳しく躾けてやる。
まあ、可愛がってやるから心配するな」
ファルは額に汗が浮いた。奥歯が鳴る。あの温厚で、善良そうな
ゲーガン司祭の正体が、まさかこんな邪悪な犯罪者だったとは。
市民から尊敬のまなざしを受け、優しい言葉で神の道を説く司祭。
あまりにも表の顔とイメージが違う。
いや、聖職者などというものは、
むしろこっちの方が正常なのかもしれない。
元の地球でも、もし本当に全ての聖職者が善良だったなら、
戦争という言葉は、とっくの昔に『死語』となっていただろう。
聖職者とは神の名を騙り、神の言葉として、
自分の欲望を叫ぶ獣なのだろうか。
ファルは膝が震えた。幸太郎から『人狩り』だと聞いてはいたが、
その正体は想像をはるかに越えていたのだ。
彼の邪悪な本性を目の当たりにすると、
ファルの心は恐怖に縛られた。
「ファル、がんばれ。今度は聖騎士を頼む」
幸太郎が後ろから、小さく声援を送る。
その言葉を聞くだけで、ファルは恐怖を振り払えた。
恋する乙女は無敵なのだ。
ファルは、今度は聖騎士の男に向かって話しかけた。
「聖騎士様! あ、あなたも、このような蛮行を支持すると
言うのですか? あなたは聖騎士なのでしょう?」
マラケシコフはニヤニヤ笑いながら答えた。
「そのとおりだよ。俺はオーガス様から力を授かり、
聖騎士となったのさ。つまり、
この行いは神がお許しになったって事だ。わかるぅ?
もし、これが間違っているってんなら、
神がゲーガン司祭に天罰を下しているはずだろ? 違う?
俺にしたって偉大なスキルを授かっていねえはずだろ?
ん? どう? 反論はあるかな~?」
人狩りたちは、またもゲラゲラと笑った。
「で、でも、でも、聖騎士ならば、その力は善き事のために・・・」
「だ~か~らァ。これが、その『善き事』ってわけだ。ウシシシ。
少なくとも、ゲーガン司祭や、俺たちはハッピーになれるぜ?
今日はいいメスが3匹も手に入ったからなぁ~。
ファルネーゼ、おまえは今日で服が着れない家畜生活に突入だってよ。
せいぜい風邪をひかないようにな? キシシシシ」
ここで、幸太郎が一歩前に出て、ファルを庇った。
「『ファルネーゼ』様! 逃げましょう!
私共がお守りいたします!
なんとかコナへ逃げるのです! グレナン男爵様を頼れば、
このような邪悪な者どもなど、すぐに吊るされることに
なりましょうぞ!」
幸太郎のセリフを聞いた聖職者たちは、再び笑った。
いや、盛大な爆笑と言っていい。
「威勢のいいガキだな。でも、ざーんねん。グレナン男爵も
俺たちの味方だよ~。アーッハッハッハッハ!」
「な、なんだとっ!?」
しかし、さすがにゲーガン司祭はマラケシコフをたしなめる。
「おい、マラケシコフ。さすがに口が軽すぎるぞ。
どこかに情報が洩れたらなんとする」
「キシシシシ。心配いらねーって。メス3匹は、今日で
人間から家畜。このガキはここで、きっちり殺しておくからよ」
そう言うと、マラケシコフの体から、ゆらゆらと陽炎が
立ち昇る。その陽炎は、次第に強く輝き、炎となった。
そして、その炎は2体の人の形をとり、地面に降り立つ。
幸太郎は、その2体を『鑑定』。そこには、こう表示された。
『ファイア・エレメンタル』