表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとガイコツの森 2
952/1046

見落としていたもの


 『ガイコツの森』へ来た目的は果たせた。あとは帰るだけ。





「結局、この『ガイコツの森』に人が近寄らなくなった理由は


2つあったんだな。元々の理由は、エミール王子の


暗殺が起きた事。その結果、カルタスたちがさまよう姿が


目撃されるようになった。カルタスたちは『霊感』を


オフにしても見えたから、目撃した人も多かったんだろう。


人々が、この森を避けるようになった1つ目の理由だな」





「そして、それに目を付けた人狩りが、


エルロー辺境伯に殺された子供たちの遺体を


ここに投棄するようになったのですね」





「ああ、そして、殺された子供たちの亡霊が、谷のそばを


さまようようになったんだ。それが、時々霊感の高い人に


目撃された。それで、さらに人々は『ガイコツの森』に


近寄らなくなったわけだ。考えてみれば、カルタスたちは


『森の南部』の方にいたわけだから、森の街道を通過しようとする人が


いなくなったとしても、北部まで全然人が


立ち入らなくなった理由にはなりにくい。


『さまよう騎士』と『子供たちの亡霊』・・・


この2つの理由があって、


はじめて『ガイコツの森全体』を、全く誰も来ない場所へと


変貌させていたんだよ」





「なんか・・・悲しい森だね・・・」





「そうだな・・・この先、かなり長い時間が過ぎないと、


ここへは誰も立ち寄らないままだろう・・・」





「でも・・・私は、このままそっとしておいた方が、


子供たちの霊には良いような気がしますわ・・・」





「確かにね。時々俺たちがお供えでもして、


手を合わせるだけの方が、静かでいいかもしれない」








幸太郎たちは森を西へ進み、来た道から森を出た。



あとはユタを目指すだけ。来た時のように、森に沿って



移動する必要は無い。だから通りやすい所を、



『ゴーストブーツ』で南西方向へ突っ走ればいいのだ。





道沿いに少し森から離れ、幸太郎がゴーストを召喚しようとした。



『陽光』を出して作業していたので、MPは心配ない。



だが、その時モコが鋭い警告を出した。





「誰か来ます!・・・馬車の音が1台! 


それと複数・・・おそらく護衛が20人以上です!」





幸太郎たちはモコの視線の先を追う。





すると、低い丘の向こうから道に沿って、遠くに馬車が1台見えてきた。



取り巻きの護衛がすごい人数だ。モコは20人以上と言ったが、



30人近くいるかもしれない。



それほどの人数が見えてきたのだ。





幸太郎は眉を寄せる。



明らかに幸太郎たちが目標なのは間違いない。



周囲には他に『人が避けている森』しかないのだから。



幸太郎は不愉快そうに一言つぶやいた。





「そうか・・・人狩りどもか。ちっ、見落としていたな・・・」





幸太郎が見落としていたもの。それは『この遺体を投棄した場所を



人狩りが放置しているかどうか?』である。





幸太郎の思惑と、バルド王国中央政府の思惑が合致した結果、



『エルロー辺境伯に殺された子供たちは見つからなかった』



『エルロー辺境伯の黒い噂はデマである』



・・・という建前になっている。





つまり、子供たちの遺体は、人狩りだけでなく、



政府としても『見つかっては困る』のだ。



もし見つかったら『中央政府がその情報を潰しに来る』だろう。



だから、エルロー辺境伯に協力していた人狩りたちにしても、



『見つかると責任をなすりつけられるかもしれない』



『とにかく見つからないに越したことは無い』というわけだ。





「それで、人狩りが、あの西にある低い丘の上あたりに


見張りを立てていたんだろう。


この道を通る人がいないかどうか。


そして、森の入り口辺りに誰かいないか、を」





「あの丘・・・。そっか、『子供たちの亡霊』が怖くて、


森から離れた丘で見張っていたんだね。それで昨日ここへ


来た時にモコが気付かなかったのか・・・」





エンリイの言う通り、見張りの陣取っていただろう丘は、



少し離れている。



そこで静かにしていて動かなければ、



さすがにモコの『ソナー』にも引っ掛からないだろう。





幸太郎が、この事を見落としていなければ、森への道を



発見した時に、周囲の見張りを探していたはずだ。



幸太郎の手落ち、ミスである。





「当然、見張りは3人か4人組だったんだろう。そして、


昨日の内に1人が親玉の所へ連絡に走った。


その結果が、あの『団体客』さ。どうやら、人狩りたちは、


この森に近づく奴らを殺したり、売り飛ばしていたようだな。


特に今回は、こっちが美女3人だから気合入れてきたようだ。


そして亡霊がさまよう森には入りたくないから、


俺たちが出てくるまで森の出口をずーっと見張っていたんだろう。


ご苦労なことだ」





ただ、幸太郎は、その『団体客』を見ても、全然恐れていない。



それどころか、冷ややかにつぶやいた。





「まあ、ちょうどいい、1人たりとも逃がしはせん。


子供たちの仇、討たせてもらおうか・・・」





モコ、エンリイ、ファルは背筋が冷たくなった。



どちらが『捕食者』か、今、はっきり認識できたのだ。








馬車が、護衛を連れて、どんどん接近してくる。



馬車の鮮明な姿が見えるようになった時、ファルが驚きの声を上げた。





「あ! あの馬車は・・・オーガス教のものですわ!」





「なに!?」





オーガス教の馬車。確かにシンボルがある。そして、確かに



取り巻きの護衛も半数近くが聖職者のローブを身に着けていた。



だが、この状況下で彼らが『人狩りでない』などという事が



あるわけないのだ。





つまり、この人狩りは普段『オーガス教の聖職者』という



隠れ蓑をつけているということ。





「聖職者が聞いてあきれるわね」





モコが溜息をついた。幸太郎は念のためモコに尋ねる。





「いないとは思うけど・・・伏兵の音はあるか?」





「・・・。大丈夫です。他に足音はありません」





「だよな。多数対少数で、馬車の中に大物がいるってんなら、


戦力を分散させずにおいた方がボスは安全だ」





そして幸太郎はこの状況を見て、



とりあえずの暫定的な作戦をみんなに伝えた。



不安要素があるとすれば、あの一団の中に聖騎士が含まれて



いるかもしれないという事だけ。








少し離れた場所に馬車は止まった。そして、馬車の中から



男が2人降りてくる。





1人はジーウェイと同じ服装。つまり聖騎士だ。やはりいた。



もう1人は年配の男。豪華なローブは上位の聖職者を



表しているのだろう。





降りてきた上位の聖職者を見たファルが再び驚きの声をあげる。





「そんな・・・あの方は、中継都市コナの『ゲーガン司祭』様!


コナのオーガス教の教会のトップですわ!


あんな『大物』が、人狩りたちの元締めだったなんて・・・」





「残念だが、元締めじゃないさ。見張りがいて、報告に走ったなら、


それは小さな村でなく中継都市コナに決まっている。


そして、エルロー辺境伯とゲーガン司祭を繋ぐ人物が


いたはずなんだ。名前は知らないんだけど、その人は、


コナの司政官だろう。元締めはそっちだよ」





「で、では・・・コナの司政官・・・『グレナン男爵』が!?


で、でも、あの方は、法衣貴族ですが、とても評判の良い方で、


私にも敬意を持って接してくれて・・・」





ここでは『法衣貴族』とは領地を持たない貴族を指している。





「落ち着け、ファル。気持ちはわかるが、


プライドの高いエルロー辺境伯と


ゲーガン司祭の仲介に入れる人物は他に誰かいるか?


『辺境伯』と『司祭』だ。


仲介できるのは強い権力を持つ者に限られる。


庶民には無理。商人でも無理。騎士爵でも


下に見られて侮られる。条件を満たす人物は少ないだろう?」





「・・・。はい、おそらく、グレナン男爵・・・しか、いません」





幸太郎はうなずいた。そして、歩いてくるゲーガン司祭たちの



距離が、ついに声が聞こえる所まで近づく。





幸太郎はファルに小声で言った。





「じゃ、テキトーに話して少し時間を稼いでね。


情報が欲しい」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ