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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとガイコツの森 2
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眠っている力


 喜ぶモコとエンリイとファル。



彼女たちを微笑んで見ていたムラサキは、



ゆっくりとベッドから降りた。





「じゃあ、あとはお願いしますね。私はそろそろ上に戻ります」





その言葉にファルが慌てた。





「もう、戻ってしまわれるのですか?」





「ええ、私やアステラ様は、長時間地上にいるわけにはいかないのです」





ファルはムラサキの手を取り、懇願した。





「ムラサキ様、1つお願いが、お願いがございます。


どうか、お聞き届け下さい!」





「お願い? 幸太郎君はもう大丈夫ですよ?」





「あ、あの、不躾なお願いとはわかっていますが、どうか、


どうか、私に戦う力を授けて下さい」





「戦う力・・・ですか?」





「はい・・・私はあまりに無力です。今回も、私は幸太郎様の


従者として何もできませんでした。全然、何の役にも


立っておりません・・・。幸太郎様を守ることもできず、


モコさん、エンリイさんに守ってもらうだけで・・・」





「しかし・・・本来、戦う力は己を鍛えて得るべきものです」





「それは重々承知しております。しかし、そこを押して、


なにとぞ、お力添え下さいませんでしょうか? 


今でも屋敷でトレーニングは怠っておりません。


でも、今回の旅で、己の無力さを痛感いたしました・・・。


自分が非力で、守られるだけの存在であることが悔しいのです。


幸太郎様の従者として、このままでは・・・」





ムラサキは、少し迷った。もちろん本来は人間の行動には



不干渉が基本であり、幸太郎のように特殊な



『御用』でも受けていない限り、力を与える事自体が良い事ではない。





なぜ『良くないこと』なのかは、ロイコークたちを見れば



嫌でもわかる。





しかし、ムラサキは『手を貸す』ことにした。





(幸太郎君は、遥か大昔、この世界で生きていた頃よりも


無茶をするようになった気がするし・・・。


ファルちゃんが幸太郎君を庇って無茶をするかもしれないし、


逆に幸太郎君がファルちゃんを庇って無茶をするかもしれない・・・)





ムラサキは『手を貸した場合』と『貸さなかった場合』を



数パターン考えたが、ここで手を貸しておいた方が



『マシ』に思えた。





どちらにせよ、ムラサキが長く地上に留まるわけにもいかない。



迷っている時間が惜しい。後で気が変わったからといって、



軽々しく地上に降りるわけにはいかない立場だからだ。



結局ムラサキの個人的な我儘でもある。





「わかりました。少しだけ、手助けしましょう。


まず、ファルちゃんの中に眠っている力があれば、


それを呼び覚ますことにします」





「あ、ありがとうございます!!」





ムラサキはファルに靴を履かせ、自分に向かい合うように立たせた。



そして、ムラサキはファルの目をじっと見つめる。



ムラサキは段々近づき、鼻と鼻がくっつきそうな程近寄った。



ファルは美しいムラサキの顔に、ちょっとドキドキする。





「ファルちゃん・・・あなた、


珍しい能力を持っているのですね・・・」





「な、何か、良いものが?」





「ええ、これは・・・あなたの8代前のおばあさんが残した


因子です。あなたの体に、その因子が眠っています。


そして、あなたの心には、その因子を呼び覚ますカギが


生まれていました」





「8代前のおばあ様・・・? 


まさか、あの『影使い』と呼ばれた・・・?」





「そうです。自分の影を呼び起こし、操る力。


そのスキルの名は『ブラック・ジェミニ』・・・」





「でも、伝え聞くところでは、そのスキルは


大した力ではなかったと言われております」





「それは鍛え方次第ですよ。時間がありません。


手早くいきます。私の左手を握って下さい」





向かい合って立つファルはムラサキの左手をとった。



ムラサキは『陽光』を1つ作り、浮かべる。



温かい光が周囲を照らす。





「では、目を閉じて、ゆっくり呼吸して下さい」





ムラサキは目を閉じたファルの額に右手を当てる。



そしてムラサキは大きく息を吸うと、ゆっくり唱えた。





「ふるへゆらゆら・・・ふるへゆらゆら・・・」





瞳を閉じたファルは、自分の体に、何か熱く、大きなものが



流れ込んでくるのを感じた。



自分の体の中で、何か強い力が、うねるのがわかる。





じっと成り行きを見ていたモコとエンリイが、驚きの声をあげた。



ファルの影がゆっくりと起き上がってきたのだ。



それは真っ黒いが、完全にファルと同じ姿をしている。



まあ、自分の影だから当たり前ではある。



影なので、足の影が伸びて本体のファルと繋がっていた。





「もういいですよ。目を開けて下さい」





ファルが目を開くと、自分の横に影が立っているのが見えた。





「ほ、本当に・・・。伝え聞く通り・・・」





「さあ、まずは『ブラック・ジェミニ』を呼び起こす


感覚を憶えて下さい。私の手を放さないように。


手を離すと失神しますよ?」





ファルは額に汗を浮かべながら、『ブラック・ジェミニ』を



ただの影に戻すことと、呼び起こすことを繰り返し練習した。





『幸太郎たちの役に立ちたい』というファルの思いが



強かったのだろう。わずか数回繰り返すだけで、



ファルは『ブラック・ジェミニ』を



自由に呼び起こせるようになった。





「上出来です、もう感覚は掴みましたね。



練習を怠らないように注意して下さい。



あとは『鍛え方』ですが・・・」





ムラサキは『ブラック・ジェミニ』というスキルの鍛え方を



ファルに教えた。難しいものではない。しかし、ファルは



真剣な顔で必死にムラサキの教えを記憶した。



何の役にも立たなかった自分が、悔しくて悔しくてたまらないのだ。





「ファルちゃん、念を押しておきますが、


この『ブラック・ジェミニ』は鍛えないと意味がありません。


現在の所、ほとんど無力です。


なぜ、このスキルがファルちゃんの中で


『眠ったまま』だったのか・・・。


今ならわかりますね?」





ムラサキの問いかけに、ファルは慎重に答える。





「・・・今の私には・・・到底『扱いきれない』スキル・・・


だからですね?」





ムラサキはうなずいた。





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― 新着の感想 ―
良かったなー!ファルさん! 願いを聞き届けてくれたムラサキ様に感謝!
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