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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとガイコツの森 2
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遺体が投棄された場所


 森の西の端に沿って、幸太郎たち一行は歩いていく。



途中に2メートルくらいの崖になってる所や、小さな沢になって



歩けない所があるが、幸太郎がいれば大した問題ではない。





3メートルくらいまでの崖なら、幸太郎が『マジックボックス』から



ハシゴを取り出して降りることができる。上ることも当然可能。





もし、それ以上の崖があるならエンリイの出番だが、



さすがにそんな大きな崖は無い。





沢の水深が深くても、『ゴーストブーツ』を装着すれば、



水面を滑って渡ることができる。この『ゴーストブーツ』で



水面を浮いたまま走れるということは、デイブとデボラを



探しに行くときに判明した『思わぬ副産物』だった。



幸太郎自身が、こんなことが出来るとは思っていなかったのだ。








どれくらい歩いただろう。



とにかく森の端に沿って移動しているせいで、



進んでいる距離自体は大したことない。



単純な移動スピードならば、森の中の廃れた街道を



直線で歩く方が圧倒的に速いはずだ。



ただし、今の目的は早く移動することではない。





移動スピードが遅い理由は、幸太郎とファル。



モコとエンリイに比べれば、体力、筋力、ともに劣る。





ただし、ファルのHPは『4』である。そう、実は、幸太郎が



初めて地上に降りた時の『3』より高いのだ!



幸太郎は、このことに対して、何気にショックを受けていた。



何しろ、グリーン辺境伯の娘、エメラルド嬢も



最大HPは『4』だったからだ。



日本では水泳部で、日本人にしては体格もいい方、



足の速さも平均以上、腕相撲だって部内では上位だったのに、



HP『3』! それに対してファルネーゼとエメラルド嬢が



HP『4』と上回っているのだ。貴族の箱入り娘のHPが



平均以上の日本人男子を上回っている。



これは、この世界では『死』が身近なことの証明。



貴族の箱入り娘ですら、幸太郎よりも戦闘、殺し合いについての



心構えや身のこなしが優れていて、



体力も日本人の平均的な男並みという事になる。





わかりやすく例えよう。仮に神から『汝は今から10秒後、



戦いに巻き込まれて死ぬであろう』とお告げがあったとして、



即座に武器になる物を探し、誰が襲ってくるかを考え、



どこから逃げるかという準備が日本人にできるだろうか?





できない。





ほとんどの日本人は『は? なんだそりゃあ』とか



『えー? なんかヤバくなーい? ウケるー』と言いながら、



10秒後に死ぬだろう。



10秒もの時間があったというのに、棒立ちで、きょとんとした顔のまま、



何も理解できずに絶命するのは間違いない。



だからムラサキの判断で幸太郎のHPは『3』で、



ファルネーゼとエメラルドのHPは『4』なのだ。





ここは、日本人の大半が『すぐに死ぬ』世界。



『地元で負け知らず』程度なら翌日には死体になっているだろう。



ただ、これは日本がいかに安全で平和か、という事の裏返し。



喜ぶべきことでもある。








昼食を食べた後、なおも北を目指す。



途中、いくつか森に入る道みたいな場所を発見したが、



それは『かつて使われていた道』だったらしく、



少なくとも数年は手つかずのように見えた。



念のため、幸太郎は『霊感』を使い続け、数体の亡者を成仏させたが、



エルロー辺境伯に殺された子供たちではない。





しかし、地道な積み重ねは無駄にはならなかった。



やや、日が傾いてきたころ、ついに発見する。





『道』だ。





それは小さな道。だが、明らかに



『馬車が通った』車輪の跡が見て取れる。



いままで発見してきた『荒れ果てた道』ではなく、



今でも馬車が通れる道だ。





「ご主人様、これで間違いないと思います」





「今まで見てきた道とは、明らかに違うよ、


この道はまだ『生きてる』道だね」





「・・・あら? 幸太郎様、何を見てらっしゃるのですか・・・?」





幸太郎は、強張ったような険しい顔で森の奥を見つめていた。



『霊感』をオンにした幸太郎にはわかるのだ。



森の奥の、とてつもなく暗い雰囲気が。



まるで、その部分だけ、



周囲よりも黒くなっているかのようだ。





(子供たちの魂は見えないが・・・。ここだな。


そして、やはり成仏できずにさまよっているのだろう・・・)





全員が顔を見合わせてうなずいた。モコ、エンリイ、ファルも



幸太郎のただならぬ雰囲気から、言わずとも察したのだ。





幸太郎を先頭に、道をたどって奥へと足を踏み入れる。



しばらく進むと、急に肌寒く感じられた。



モコ、エンリイ、ファルが思わず『ぶるっ』と震える。





さらに進むと、幸太郎が立ち止まった。





「・・・みんなは、ここで待っててくれ。


見えてきた。子供たちの魂だ。


前方に見える、あの小さな谷の底が、


子供たちの遺体が投棄された場所だよ」





それは、増水によってえぐれて出来た、小さな谷。



水は流れていない。見た所、深さは2メートル程度か。



だが、その谷の底には、不自然に土が被せられている。



おそらく、子供たちの遺体がここに投棄され、



その上に土を被せたのだろう。








それが、50メートル以上、続いていた・・・。








「おそらく、殺された子供たちの数は、200人を超える」





幸太郎がつぶやいた。モコ、エンリイ、ファルが息をのむ。





幸太郎には見える・・・、視えている。殺された子供たちが、



苦悶の表情を浮かべ、涙を流し、悲鳴を上げながら助けを求め、



漂い、歩く姿が。



そして、その『苦しみ』『悲しみ』『恨み』『憎しみ』『怒り』が



目に見えない黒い霧となって、辺りに漂っているのだ。





(そして、おそらく『死にたくない』『家に帰りたい』という


渇望が、俺たちの体温や生命力など、『エネルギー』を


吸収し続けているんだ・・・。


これに近づくのは氷の海に飛び込むようなものか)





幸太郎は、真剣な表情でモコ、エンリイ、ファルに



『ここで待つよう』に念を押した。3人は幸太郎に



ついて行きたかったが、とてもそんな雰囲気ではない。



そして何より、『霊感』が無くても、



『ここは危険だ!』



と本能が訴えているのだ。ここに留まると命に関わる、と。





「ご主人様、どうか、無茶はなさらないでください」





モコは心配そうな顔で幸太郎の背中に声をかけた。



だが幸太郎は返事をしない。





『無茶をする』つもりだったからだ。







次の話は、人によっては苦痛を伴う内容となっております。


もし、吐き気などを感じたら、すぐに読むのをやめて、明るい空などを見て呼吸を整えてください。


そして、二度と続きを見ないようにして、スルーしてください。

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