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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとガイコツの森 2
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ファル


 幸太郎は魔法のコンロで晩御飯を作る。モコも手伝った。



エンリイとファルは食べる人。





晩御飯はモアの鳥ガラとハロハロのキノコで作ったスープに、



豚肉と野菜をたっぷり入れたシンプルなもの。



焼きうどん・・・いや、炒めうどんと、



グレートホーンのステーキ。もちろん、パンとバター、



ジャムも食べ放題。カカカロのパンも幸太郎は好きだ。





「美味しいです! 幸太郎様の作った料理、美味しいですわ!」





ファルは大喜びだ。幸太郎は美食に慣れた貴族相手に



料理を出すのは心配だった。幸太郎の作れる料理など、



たかが知れているからだ。





幸太郎が内心『ほっ』としたのは、ファルがエンリイみたいに



大食漢でなかったこと。モコと変わらない。





(そのうちアルカ大森林に戻って、食料を仕入れないと


いけないかなぁ・・・)





クラリッサとアーデルハイドもガンガン食べる人だったから、



食料が減り始めたのだ。もちろん、幸太郎の



『マジックボックス』には、大量に食料が入っているので、



1か月程度では底を尽かないが。








全員満腹になった後は、焚火を囲んで、今までの『武勇伝』を



モコとエンリイがファルに教えた。





モコとエンリイは、ファルが『幸太郎が異世界からやって来た』ことを



知っていると聞いて驚いていた。





「ギブルスさんとバーバ・ヤーガさんは自力で気づいていたから。


あと、イネスさんを騙すのは無理だよ」





幸太郎はそう言って笑った。





「大丈夫です。絶対に誰にも言いませんから!」





ファルも両手を強く握って、気合を込めて約束してくれた。





「じゃあ、ファルには全部話してもいいですよね、


ご主人様」





幸太郎はちょっと迷った。幸太郎たちが関わった事件に



『グリーン辺境伯家乗っ取り未遂事件』があるからだ。



今は『ファル』として幸太郎たちと同行しているが、



旅が終われば『ファルネーゼ』に戻るしかない。





・・・そう、エルロー辺境伯領の『領主』だ。



政治的な立ち位置は、本人の希望とは別に、必ずついて回る。





ところが幸太郎が迷っているのを察したファルは、けろっと言った。





「あ、先日の『乗っ取り未遂事件』は


イネスから聞きましたので大丈夫ですわ。


一応、建前として『何も知らない』ことになってますけど。


そう言えばエメラルド様からの手紙にあった


『風変わりなヒーラー』は幸太郎様のことですよね!」





(ギブルスさん経由か・・・。まあ、ギブルスさんは


豪商だから、ユタとカーレの政治的均衡、


領主と強いコネを作っておくのも


商売の内なんだな・・・。あの人にはかなわないなぁ)





「そっか、そこまで知ってるなら・・・。じゃあ、問題ないね。


いいよ、モコ、エンリイ、全部話しても」





そして、ここからは夜が更けるまで、モコとエンリイが



鼻息も荒く、幸太郎の武勇伝を話し続けた。



ファルも、興奮しながら聞いている。





(なんか、この3人仲がいいなぁ。まあ、仲が悪いよりは


よっぽどいい。良きかな、良きかな)





幸太郎は『少し大げさな』モコとエンリイの話を微笑んで



聞いていた。モコとエンリイという美女2人。



エルフの血が入っているのか金髪碧眼の美しいファル。



このいずれ劣らぬ美女3人と焚火を囲んでお茶を飲む。



前世では考えられなかった光景だ。





(本当にこれって、現実かな? もうすぐ目覚ましが鳴って、


いつものブラック企業に出勤しなくてはならないんじゃ


なかろうか?)





幸太郎は3人の美女を見て、またも『夢じゃなかろうか』と



考えた。だが、別の意味で現実は非情だ。



幸太郎が元の地球で死んだことは、動かぬ事実である。








テントの中では2つのベッドをくっつけて、



モコ、エンリイ、ファルが3人で身を寄せ合って寝ている。



幸太郎はシーツのカーテンで区切ったベッドで1人寝ている。





この夜、幸太郎が気付かない、1つの事件があった。








『グルルルル』








野犬の群れがシェルターの外に現れたのだ。



幸太郎は完全に寝ているが、モコは気づく。



小狼族の耳から逃れるのは至難の業である。





体を起こしたモコにエンリイが気付いた。そして、体を起こした



モコとエンリイにファルが気付く。





革の鎧を装着しようとしたモコを、エンリイが止めた。





「あー、大丈夫。野犬だけだよね? なら幸太郎さんを


起こすまでもないよ。寝かせとこう」





下着とシャツだけのエンリイは靴を履いてテントの外へ出ると、



自分の髪の毛を1本抜いた。そして『時計塔』の



隙間から、外に『分身』を作った。



魔猿闘術の『分身の術』だ。





4体のちびエンリイ。身長は1メートルと少し程度しかないが、



『如意棒の術』も使えるし、パワーと知能も高く自律行動ができる。



はっきり言って、かなり強い。



暗いので野犬が何体いるか不明だが、あっという間に



数匹が死体になった。そして、形勢不利と見た野犬は、



夜の闇に消えていった。ちびエンリイたちが野犬の死体を



下流へ捨てに行く。





「はい、おしまい。さ、もう一度寝よーよ」





エンリイはさらりと言ったが、ファルは驚きの目で



エンリイを見た。





「エンリイさん、すごい力をお持ちなのですね・・・。


私も、何か幸太郎様を支えられるような力が欲しいですわ・・・。


今は、屋敷の敷地内を走って体を鍛えることくらいしか出来てないです。


今のままでは、私は幸太郎様の足手まといになってしまいます・・・」





「ファルは心配しなくていいのよ。私とエンリイも


かなり強いと思うけど、ご主人様の強さは


B級冒険者並みなの。ファル1人くらい私たちで守れるから」





「うん、戦いはボクたちに任せてよ。前も言ったけど、


ボクたちに勝てるやつなんて、滅多にいないからさ」





「でも・・・。私はあまりにも非力です・・・」





「でも、ファルも『魔法の矢』は憶えたって言ってたじゃない。


大丈夫。役に立つわ」





「憶えたと言っても、まだ矢は2本しか・・・。射程距離も


せいぜい10メートル程度で・・・」





「はいはい、そこまで。いいんだよ、ファル。


あせっちゃダメ。ね? 戦いはボクとモコがいるから」





そう言って、モコとエンリイはファルを両側から『ぎゅっ』と



抱きしめた。ファルは涙目で小さくうなずく。





「さあ、もう一度寝ましょう。時計塔はまだ深夜1時を


指しているわ。ご主人様はいつも朝8時まで寝てるから、


朝まで充分時間はあるわよ。ご主人様に気づかれると


心配かけちゃうから、そーっとベッドに戻りましょう」








こうして、幸太郎は気づかないまま、深夜の戦いは終わった。






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