再びガイコツの森へ
ファルネーゼはごく普通の目立たない市民の服装。
その上に、地味なフード付きの外套を着ていた。
スカートではなく、ズボンを穿いているので、服装自体は男物。
これなら顔見知りに会わない限り『ファルネーゼ様だ!』とは
バレないだろう。ただ、まあ、ファルネーゼは顔も美しいが、
スタイルもモデル並み。男物の市民の服装だが、
ファルネーゼを男だと勘違いしてくれる可能性は
期待するだけ無駄だ。
幸太郎が驚いたのは、ファルネーゼが『手ぶら』だったこと。
なんと、ファルネーゼは小さいながら『マジックボックス』を
持っているという。着替などは、全てそこへ入れていた。
正体がバレる可能性は低いが、それでも用心に越したことはない。
幸太郎たちは街道をしばらく北の『フラーノ・ファーム』方向へ
歩くと、誰もいないのを確認してから街道を東へ外れた。
ここから先は道の無い場所を移動する。
と言っても、人目が無ければ、幸太郎が死霊術を使えるから楽だ。
早速『ゴーストブーツ』を装着。全員で地面を滑り始めた。
「こ、これ、楽しいです! 速い、速いですわ!」
ファルネーゼは大喜びだ。ただ、エーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドのように
上手にバランスが取れないので、
モコとエンリイが手を繋いで転ばないようにしていた。
「そろそろ日が落ちるな。やっぱり全然人はいないか。
北西方向に『フラーノ・ファーム』か『中継都市コナ』が
あるはずなんだけど、誰一人見かけない。
今でも『ガイコツの森』が避けられてるのは変わってないようだ」
「私とご主人様が初めて会った場所が、
ここから西の方だと思います」
「なんかもう、懐かしい気がするな・・・。
色々あったし」
「私、興味があります! 後で教えて下さいまし」
「じゃあ、今日の晩御飯が終わったら、ボクとモコが
話してあげますよ」
「ご主人様、今日はどこまで行きますか?」
「うーん、俺もこの辺の地理に詳しいわけじゃないけど、
このペースなら日が沈む前には『ガイコツの森』の
南端に到着すると思う。
いっそ、森の中へ入ってしまおうか。
俺が成仏させて回ったから、亡者はいなくなってるし、
誰の目にもつかないだろう」
「そうですね。今回は、とにかくファルネーゼ様が
誰にも見つからないようにするのが先決ですものね」
幸太郎たちは夕日になるころには『ガイコツの森』に到着した。
やはり『ゴーストブーツ』は速い。ゴーストを入れ替えるだけで、
休まず走り続けることができる。
幸太郎は『ガイコツの森』の廃れた街道から、森の中へ入った。
そこで停止、『ゴーストブーツ』を解除する。
「ファルネーゼ様、ここからは徒歩になります。
足が疲れたら、私に言って下さい。
その都度、回復魔法で治しますので」
「ありがとうございます。・・・さすがに、何か少し
気味が悪い森ですね・・・」
「まあ、そこは仕方ありません。人の寄り付かない森ですから。
確か、もう少し先に小川が流れていて、
開けた場所があったはずです。
そこにテントを張って、シェルターで囲みます。
そしたら夕食にしましょう」
森の中を流れる小川。その河原にテントを張り、
『時計塔』で三段重ねの柵を構築。
一応、上方もできる限りカバーした。
河原が広いという事は、大雨が降ると増水するということ。
しかし、黒に変わりつつあるオレンジ色の空には
星が輝いている。雨の心配はないだろう。
「ファルネーゼ様、申し訳ありませんがテントが広くないので、
2つのベッドを繋いで、モコ、エンリイと一緒に寝て下さい。
シーツでカーテンを作って、プライバシーには
配慮いたしますので」
「あら、幸太郎様も一緒で構いませんのに?」
「また、ご冗談を・・・。ファルネーゼ様に何かあったら、
私の首が飛びますよ」
「幸太郎様、まず、その『様』をつけるのは止めて下さいまし。
私は、この旅の間は『ユタの領主』ではなく、
幸太郎様のパーティーメンバーなのですよ?
ファルネーゼではなく・・・そう、『ファル』とお呼び下さい」
「ご主人様、私もそれでいいと思います。『ファル』と
呼んでいれば、万一誰かに聞かれても気付かれる心配が
減るはずです」
「そーそー。この旅の間はファルネーゼ様でなく、『ファル』。
あくまでもボクとモコの友達『ファル』。
幸太郎さんのパーティーメンバーだよ。
その方が、より安全なはずさ」
「え・・・? そ、そうかな? うーん・・・」
幸太郎は考えようとしたが・・・うまく考えられない。
どうしたって幸太郎は女に弱いのだ。
「わかったよ。で、では、今からパーティーメンバーの
『ファル』と呼ぶよ。じゃあ、『ファル』も俺の事は
『様』は無しで呼んでくれ」
「それはお断りいたしますわ」
そう言って『ファル』はモコ、エンリイと一緒に
ベッドの上に敷毛布を広げ始めた。なんか楽しそう。
・・・幸太郎は一刀両断にバッサリ断られて、微笑みのままフリーズ。
(え?・・・あれ? いや、あの、こういう場合って、
交換条件で、俺のことも『様』無しになるんじゃないの・・・?
いつの間にか不平等条約が締結されてるっぽいんだけど、
俺、何か間違ったっけ・・・?)
幸太郎の頭にハテナマークが飛び交う。
幸太郎はファルネーゼに何か言おうと思ったが、何も頭に浮かばない。
結局、幸太郎は女に弱いのだ。
幸太郎、完敗!!
そして、ファルネーゼ・・・いや、ファル、恐るべし。
(・・・。ま、まあいいや。『パーティーメンバーのファル』か。
じゃあ、ステータスウインドウからパーティー登録しとこうかな)
幸太郎は久々に『パーティー登録』を使った。
ジャンジャックとグレゴリオ以来である。
滅多に使うことが無い機能。しかし効果は絶大。
メンバーに登録された人物は、幸太郎の経験値が流れ込む。
努力なしで強くなれるという、完全チート能力だ。
(『領主』には役に立たないかもしれないけど・・・。
せっかく俺の『パーティーメンバー』になったんだからな)