同行の申し出
ファルネーゼとイネスの情報提供により、おおよその位置を
割り出した幸太郎。しかし、『ガイコツの森』と言っても
かなり広い。もちろん、カルタスたちがいた森の南側は
避けているはず。あとは現地で『霊感』をオンにして
探すよりないだろう。
「情報提供、ありがとうございました。我々は早速、
現地へ向かい、遺体の埋められた場所を探します。
もし見つけたら『成仏』させ、弔うことにいたしましょう」
そう言って、幸太郎は立ちあがり、深くお辞儀した。
ところが、それにイネスが待ったをかけたのだ。
「お待ちください、幸太郎様。まだ、こちらの話が
終わっておりません。先ほど申し上げた通り、幸太郎様の目的は
ファルネーゼ様のご要望とも重なっているのです。
まずはもう一度お座りください」
幸太郎たちは足を止め、もう一度腰を下ろした。
「重なっている・・・ということは」
「左様です。ファルネーゼ様も殺された子供たちの遺体に
手を合わせたいと願っておいでです」
「しかし・・・馬車で『ガイコツの森』へ乗り付けては、
あまりにも目立つでしょう」
「馬車は使いません。人目を避けるために、ファルネーゼ様も
徒歩で幸太郎様がたに同行したいと仰せです」
「徒歩で!?・・・まあ、足の疲労などは私が治せますが、
それでも、ぞろぞろと大勢で歩けば目立つことには変わりないでしょう」
「同行するのはファルネーゼ様お一人です」
「ひ、1人ぃぃぃいいい!?」
幸太郎もさすがに驚いた。言うまでもなくファルネーゼは
ユタの、いや、エルロー辺境伯領の領主である。
いくら『お忍び』であっても、護衛がゼロというのは
無茶苦茶だ。
「はい、そこで幸太郎様がたに、ファルネーゼ様の
護衛を依頼したいと思います」
「し、しかし、いくらなんでも、私たち3人だけが
護衛というのは・・・」
「幸太郎様が本気を出せばB級冒険者並みの力を
お持ちであると、ジャンジャック様とグレゴリオ様から
伺っております。モコ様、エンリイ様も並外れた力を
お持ちとか。それに、パーティーメンバーのうち、
女性が2人、というのもファルネーゼ様の護衛として
最適であると思います。もし、幸太郎様がたが
『男3人』のメンバーであったなら、このような依頼は
いたしません」
幸太郎は眉を寄せて言葉が出なかった。いくらなんでも
危険ではないかと思ったのだ。なにせファルネーゼは
立場が立場だ。周囲に秘密で町の外へ出ていいわけがない。
しかし、迷う幸太郎にファルネーゼはハッキリ言った。
「私も、あの子たちを救えなかったという後悔を
ずっと抱えて生きてきました。自分の無力さを呪いました。
どれだけ涙を流しても、1人も救うことはできなかったのです。
子供の頃は恐怖に震え、怯えるしかなく、成人してからは
涙を流して心の中で謝るしかありませんでした・・・。
殺された子供たちに、せめて手を合わせ、謝りたいのです。
しかし、私は立場上、それを表立ってできません」
「表向きは『子供の死体は見つからなかった』
『エルロー辺境伯の噂はデマである』と、されているからですね」
これは幸太郎にも責任の一端はある。そうなるように仕向けたのは
幸太郎でもあるからだ。ファルネーゼは立場上、建前を崩せない。
だから子供たちの遺体が埋められた場所を探す指示が
出せないのだ。遺体の場所が想像できていたイネスが、
ファルネーゼに一切何も言わなかったのも、そのせいである。
部下に確認に行かせるわけにもいかず、自分が単独で
防壁の外へ出ることも無理だからだ。
ファルネーゼは背負っているものが大きすぎる。
だから、今回は以前ファルネーゼが
『アルカ大森林』に来た時のように『お忍び』ではなく、
完全に誰にも言わずに防壁の外へ出るということだ。
町の警備隊の隊長、屋敷を警備している騎士にも言えない。
言えるのはイネスと、イネスの忠実な家来であるメイドたちだけ。
ファルネーゼは『館から外出していない』という形になる。
ファルネーゼとイネスは、ずっと待っていたのだ。幸太郎たちが
『子供たちの遺体が埋められた場所』を探しに来るのを。
危険を考え、渋る幸太郎。だが、ファルネーゼに味方する者がいた。
モコとエンリイだ。
「ご主人様、私からもお願いします。ファルネーゼ様の
心情を考えれば、これは千載一遇のチャンスなのでしょう」
「ボクも賛成。幸太郎サン、大丈夫だよ。本気を出していいなら
ボクらに勝てる奴なんて、滅多にいないさ。ファルネーゼ様の
お世話もボクとモコがいれば心配ないし」
「う、うう~む」
幸太郎は渋る。ここでイネスが報酬を切り出した。
「幸太郎様。ファルネーゼ様の護衛の報酬は金貨100枚で
いかがでしょう」
「「100!!」」
モコとエンリイが驚いた。いくら要人とはいえ、
護衛の料金としては破格もいいとこである。
そして、これが決め手となった。
「・・・わかりました。ファルネーゼ様を護衛して
『ガイコツの森』へ行く件、お受けいたします。
ただし、報酬は一切要りません。
『銅貨1枚も受け取らない』、
これがこちらの条件です」
「よろしいのですか、幸太郎様・・・」
「はい、それでお願いします、ファルネーゼ様。
今回は子供たちの弔いが目的です。
ファルネーゼ様は同じ目的の『同行者』です。
金銭のやり取りは無粋で不純・・・
子供たちに対して失礼かと存じます。
ただし、楽な道のりではない事だけは覚悟しておいて下さい」
「はいっ! 承知いたしました!!」
ファルネーゼは胸の前で両手を『ぎゅっ』と握りしめ、
気合を入れた。