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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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あの場所


「えーと、ではまず先に、バーバ・ヤーガさんからの


お届け物をお渡しします」





幸太郎は『マジックボックス』から『オロナ院の軟膏』を



取り出し、イネスに渡した。





「これは・・・懐かしいですね。私もバーバ・ヤーガも、


作り方は知っていますが、材料が入手できませんでしたから。


うん・・・、完璧な仕上がりね。さすがだわ。


ありがとうございます、幸太郎様」





イネスはバーバ・ヤーガとの思い出を懐かしむように



薬を眺め続けた。





「私も、ようやくバーバ・ヤーガさんとの約束を果たせて、


ほっとしております」





幸太郎はバーバ・ヤーガの異名の由来などの雑談をしようと



思っていたが、イネスに話の方向を変えられた。





「幸太郎様、あなたがここへ来られた理由は、もう1つ


あるのでしょう? それはファルネーゼ様のご要望とも


共通するお話です」





「・・・つくづく、恐ろしいお方ですね。お見通しでしたか。


イネスさんの推測通り、私はもう1つ別の用件で


ここへ参りました」





モコとエンリイはきょとんとした。バーバ・ヤーガから



預かった薬以外に、もう1つ用事があるとは



聞いていなかったからだ。





そして、自分たちが聞いていない話なのに、



幸太郎の行動を読んでいたイネスに感心した。





イネスは真剣な顔で話し始めた。





「幸太郎様がここへ来た2つ目の理由。それは旦那様に


殺された子供たちの遺体が、どこへ運ばれたか、


それが知りたくて、ここへ来たのでございましょう?」





「・・・その通りです。私は子供たちの魂が、まだ地上を


さまよっているのなら、天へ送ってあげたいと


思っているのです。それこそが、私の『本業』ですから」





「・・・幸太郎様、私は『妻』という立場でありましたが、


子供たちの遺体がどこへ運ばれたのかは知らないのです。


執事だったアンガスが、数人の部下と馬車で出て行く所までしか


見ておりません」





「うーん・・・、それだけでは・・・。『町の外』は


当たり前でも、防壁を出た後どこへ行ったのかは、


何か手がかりが欲しいですね・・・」





考える幸太郎に、イネスが穏やかに告げた。





「手がかりはあります。幸太郎様ならば、これで絞り込めるでしょう。


アンガスは毎回必ず北の門から馬車で出て行きました。


そして、毎回必ず1時間もしないうちに帰ってきていました」





「『毎回』・・・。なるほど・・・。では、おそらく、


あの場所・・・でしょうね。あとは現地で探すしかありませんが」





「はい。さすが幸太郎様。その推測で間違いないでしょう」





モコとエンリイ、ファルネーゼは『きょとん』としている。





「ご主人様、あの、全然わからないので教えて下さい」





「今の『1時間以内に帰ってくる』だけじゃ、何の手掛かりにも


ならないと思うんだけど」





「そうですわ。たった1時間では、往復も考慮すれば、


そんなに遠くまで行けないでしょうし、


町に近ければ誰かに見つかってしまうと思いますわ」





イネスは微笑んで幸太郎に『どうぞ』とジェスチャーをする。



幸太郎は少し照れながら、解説することにした。





「難しく考える必要は無いのですよ。順番に行きましょう。


まず、『子供たちの遺体が人々に見つかるのは絶対に避けなければならない』


というのが必須の大前提。当然、それは町の外。


ここまでは確定していますね。


さすがに街中に遺体を埋めていたのでは、誰に見つかるとも


わかりません。埋める場所も減ることは無く、増える一方。


必ず防壁の外です。次に、ここは『ユタ』です。


南は『ジャンバ王国』。つまり敵国。


さすがに馬車で敵国へ乗り込んで遺体を埋めるのは危険すぎます。


もし、見つかったら外交的にも取り返しがつきません。


東は『アルカ大森林』。


森の北端のほうですが、まだ細く森が続いていますから、


森へは入れない。街道にはダークエルフの見張りもいるし、


ドライアード様たちにも見つかるでしょう。


何よりアルカ大森林の評議会も味方ではありません。


と言うよりも、敵です。


西は『海』です。水深のある所まで船で行けば、


魔物に襲われ部下たちも死にかねません。


海へ遺体を捨てること自体も悪手です。


波で遺体がたくさん打ち上げられたら、


『誰の仕業だ』と問題になるでしょう。


残るは『北』だけ。


アンガスが毎回1時間で帰って来たのなら、


途中で他の協力者たちに引き渡してきただけでしょう。


1時間では穴を掘ってる時間すらありません。


そして協力者は少なくとも馬車で一泊以上の遠距離まで


運ぶように指示されているはずです。


ユタのそばでは都合が悪いですから。


協力者は、多分、人狩りでしょうね。


人狩りとて、埋めるのは『どこでもいい』わけではありません。


町に近ければ、万一、獣が掘り返したりして見つかると困ります。


そして、ユタから遠くと言っても、他の貴族領まで


入り込むわけにもいきません。


万が一バレたら大変なことになります。


すると、『ユタから馬車で一泊以上の距離』、


『エルロー辺境伯領地内』で、『ほとんどの町や村から離れていて』、


『人が全然来ない場所』・・・ということになります」





「あっ!!」





モコが叫んだ。





「わかりましたわ!」





ファルネーゼも叫んだ。





「おわかりになりましたね。そう、『ガイコツの森』ですよ」





幸太郎が微笑む。しかし、それにエンリイが異議を唱えた。





「でもさ、幸太郎サン。ホーンズ山脈とかのほうが遺体が


発見される可能性は低いんじゃない?


アルカ大森林が途切れた所から山脈へ行けば・・・」





「エンリイの言う事はもっともな話だね。ホーンズ山脈に


限らず、他に適した場所はある。


森にしたって『ガイコツの森』以外にたくさんある。


コルト王の自爆戦争のせいで、この近辺の村は全て


無くなってしまったから、地理的な候補自体は多い。


ところが、『ガイコツの森』には、他にない有利な点があるんだ。


それは『人々が意識的に避けている場所』ってことさ。


エミール王子の暗殺事件があったせいで、人々はあの森を


避けるようになってしまった。付近の村も無くなったせいで、


わざわざあの森を通る理由も無くなっている。


実際に街道は雑草だらけで廃れていたよ。


仮に森を通過しようと考える人がいたとしても、


『騎士の亡霊』がさまよっていると聞けば、


無理に通過しようとはしない。


結局、騎士の亡霊はカルタスたちで、無害だったんだけど、


それは俺たちしか知らない事。


軽はずみに森へ入って、襲われて死んでから


『こんなことなら回り道しとくんだった』と思っても遅い。


わざわざ近寄るメリットが無いな。


人々が意識的に避けている場所、というのは他にないアドバンテージだ。


ホーンズ山脈の方はジャンジャックとグレゴリオ殿が依頼で


入っていたように、稀に『用がある』人もいる。


しかし、『ガイコツの森』は何も用が無い上に、


人々が意識的に避けているんだ。


そして、人狩りたちにしても、手ごろな場所なんだよ。


ユタからそこそこ遠い。しかし、何泊も必要なほど遠くもない。


ホーンズ山脈なら魔物は出るだろうが、『ガイコツの森』なら


野犬か狼か、イノシシとかまでだろう。危険が少ない。


拷問された遺体を運んで埋める、という『憂鬱な』仕事なら、


『ガイコツの森』よりも遠くへ運ぶ意欲も起きないはずさ」





「な、なるほど・・・。さすがは幸太郎サン・・・」





モコとエンリイは幸太郎の解説に感心した。



ファルネーゼは大興奮している。





(すごいですわ! 幸太郎様はイネスと同じくくらい


頭が切れるお人なのですね! 紳士的で賢い人。


巨大な悪に屈することなく、悪魔を滅ぼす神の使徒。


ああ、なんて素敵なお方なのでしょう・・・)





ファルネーゼから見た幸太郎は『美化999%』アップだ。



ファルネーゼも相当頭がイかれてる。





ただ、頭のイカレ具合ではモコもエンリイも負けてない。





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