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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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再びユタへ


 幸太郎たちは、昇格したその日のうちにユタへ向けて出発した。



クラリッサとアーデルハイドに『2,3日で帰るよ』と伝え、



二日酔いのエーリッタとユーライカにも



『ユタへ行く』との伝言を頼んだ。





「あたいたちも一緒に行こうか?」





クラリッサは護衛を申し出たが、それは遠慮しておく。



別に何かと戦う予定は無いからだ。





「大丈夫だよ。表向きバカンスだけど、用件が済んだら


すぐに戻ってくるから。みんなは普通に依頼を受けて、


稼いでいてくれ。宿の代金は3週間先まで支払い済だから、


遠慮なく使っていいよ」





幸太郎、モコ、エンリイはひらひらと手を振り、



カーレの北門から町の外へ出た。








カーレ、ユタ間の街道は落ち着いたものだった。



商人が頻繁に行きかう。商人はみんな冒険者の護衛を



つけているし、ピートス川の橋までだが、騎士団の見回りもある。



もっとも、エルロー辺境伯の騎士団は、ほとんど逃げ出し、



現在はユタの町の警備隊が騎士団の仕事を



肩代わりしているような状態である。



幸太郎の言う通り、エルロー辺境伯の悪事を見て見ぬふりを



していたような騎士団だ、モラルが低い。





ピートス川にかかる橋を渡り、いよいよユタの町の南門が見えてきた。





「久しぶりに戻って来たなぁ・・・。まあ、もう2度と


戻れないと思っていたんだけど」





「こうして戻ってきてみると、なんだか不思議な感じがしますね、


ご主人様・・・」





「ボクはユタは初めて見たよ。カーレに負けず劣らず


大きな町だね」





「ちょっとドキドキするな。何せ大騒ぎを起こした挙句、


逃げ出したわけだからね・・・誰も俺を憶えてないと


いいけれど」





「心配いりませんよ、ご主人様。E級のギルドカードも


手に入れましたし、『ヒーラー』なら誰も疑ったりしません!」





「そーそー。幸太郎さんはどーんと構えてればいいんだよ。


ボクのC級のギルドカードもあるから、番兵が疑うわけないって」





幸太郎たちユタへ入るための検問所の列に並んだ。



そして、通行料を支払うと、あっけなく通された。





「おお・・・。素晴らしい効果だな、ギルドカードってのは。


E級のギルドカードでも、この威力。なんかもう


D級目指さなくてもいいような気がしてきた。あははは」





「ご主人様はお金持ってますから、D級の必要は無いかも


しれませんね」





「まあでも、信用で言うならD級のほうが高いから、


持ってて損は無いと思うよ?」





そんな雑談をしながら、『エルロー辺境伯の屋敷』を目指す。



当たり前だが、今でもこの領地は『エルロー辺境伯領』である。



一応、妻の位置にあったファルネーゼが新領主となっているため、



表向きは大きな変化が無いように見えるだけ。



確かにその意味ではバルド王国のランブロフ宰相の判断は



間違っていないと言える。現に無駄な混乱は起きていないのだから。








エルロー辺境伯の屋敷にやってきた。あの時以来だ。



驚いたことに、『拷問部屋』になっていた塔が無くなっている。



忌まわしい場所ということで破壊したのだろう。



元々は物見櫓も兼ねていたはずなのに、思い切った事をする。





(塔の最上階には誰の魂も無かった。エルロー辺境伯の魂も


強制的に成仏させたから、迷って出てくることもあるまい。


幽霊屋敷にはならないと思うけど、ファルネーゼ様は


よっぽど嫌だったんだろうな・・・。まあ、気持ちは


良くわかるけど。拷問器具とか手術台とか、


使用済みのあんなもんは見たくないよなぁ・・・)





門の両側に警備兵がいた。この2人が騎士団の残留組なのか、



町の警備隊からの派遣なのかはわからない。



が、あの時の連中に比べれば、はるかに人相がいい。





(信用してもよさそうだな)





幸太郎は門の内側の警備兵に、用件を告げる。





「私は幸太郎と申します。カーレのE級冒険者です。


こちらのイネス様にお届け物です。


『薬を預かってきました』とお伝え下されば、


お分かりになるかと思います」





幸太郎はギルドカードを提示する。警備兵は少しいぶかしんだが、



だからと言って追い返したりはしない。屋敷内へ



取次に行ってくれた。





門の前で少し待っていると、驚くべき光景が『やってきた』。





「幸太郎様! お久しぶりです! ファルネーゼです!」





なんと警備兵どころか、イネスどころか、ファルネーゼが



走って迎えにやって来たのだ。門の警備兵が



『え? 何? コイツら偉い人だったの?』みたいな顔で固まっている。





固まっているのは幸太郎も同じである。完全に予想外だった。



ファルネーゼはスカートを少しつまんで、



たくし上げながらパタパタと走っている。



貴族のお嬢様がやる『カーテシー』に似てる。





「約束通り、来てくださったのですね。さあ、中へどうぞ。


今日はクッキーがありますよ。モコさんもエンリイさんも


よく来てくださいました」








応接室に通され、紅茶とクッキーでもてなされた。



ファルネーゼとイネスが『座って下さい』と促す。





「本日はファルネーゼ様にお目通りを許していただき、


感謝の・・・」





幸太郎は右手を胸に当て、感謝と挨拶をしようとした。



が、それを笑ってファルネーゼが止める。





「そんな硬い挨拶は不要ですわ。さあ、座って下さい。


幸太郎様にはこちらこそ感謝しておりますし、


私はモコさん、エンリイさんとも、お友達ですもの」





そう言って楽しそうに笑った。





「えーと、あの、イネスさん。一応、確認しますが・・・」





「はい、ファルネーゼ様は全て知っておられます」





イネスはさらっと答えた。おまけに・・・





「私が全て話しました」





けろっと言い切った。





(まあ・・・そうだよなぁ。そもそもイネスさんと


ギブルスさんの計画に乗っかったのは俺の方だし、


イネスさんは騙せるような相手じゃないし、


自力で気づいたんだろうし・・・。何より


『言わないでくれ』なんて約束もしてないしな・・・)





幸太郎は受け入れるしかないと諦めた。辺境伯の金庫から



ドロボーしていった負い目もある。ただし、辺境伯家からは



銅貨1枚も与えられなかったファルネーゼは



『自分のお金が盗まれた』という意識は皆無。



あくまで結果としてだが、『莫大な資産と自由が手に入った』



というのが正直な感想だ。





何より、最初からファルネーゼ自身がエルロー辺境伯家の



一員となった気がしていない。



はっきり言えば、ミューラー侯爵家を



守るために『人質になった』という認識でいたのだ。





だからこそ、子供を拷問して殺す『殺人鬼の妻』などと言う立場でも、



自害せず、歯を食いしばって耐え続けてきた。



『自分が死んでは人質の意味が無い』、と。





そして、異世界からやって来た男が、殺人鬼を倒し、



自分を解放してくれたと感謝している。





ファルネーゼにはイネスが全て教えた。幸太郎が異世界から



やってきたことも含めて、全部。





その結果、ファルネーゼは確信する。



この遠い他の世界から来た男こそが、



悪を滅ぼし、自分を救ってくれた神の使者だと。



『紳士的な好青年』から『愛の勇者』へとランクアップされたのだ。





ファルネーゼもある意味、狂っていると言えるだろう。



なにせ、幸太郎は異世界の日本が生んだサイコ野郎なのだ。




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