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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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雨上がりの休日 6


「あ、待って下さい、キャサリン支部長、まずはこれを見て下さい」





ギルドへ向かって方向を変えたキャサリン支部長は立ち止まり、



再び幸太郎たちへ向き直る。





幸太郎が『マジックボックス』から袋を取り出した。





「あら? なぁに? プレゼント・・・ってわけじゃないわね・・・」





キャサリン支部長が真顔になった。血の匂いに気づいたからだ。



そして袋を受け取り、中身を見る。





キャサリン支部長は眉を寄せ、険しい顔になった。





「これで全部?」





キャサリン支部長が袋を返しながら質問。





「はい。全滅させました」





「やるわね。大したものよ? それにしても大変なことに


なったわねぇ・・・。あくまでも結果論だけど、


救出に行ったのが幸太郎ちゃんたちで、ホントに


良かったわ・・・。ちょっと急いでギルドに戻りましょう」





幸太郎たちは走って冒険者ギルドへ戻って行った。








袋の中身は全滅させたオークたちの『耳』である。



たくさんのオークの耳の中に、一回り大きい耳が3つ。



そして形は同じでも、並みのオークとはまるで違う大きさの



耳が1つ。





まずはこれを『キャサリン支部長に報告した方がいい』と



薦めたのはエンリイ、クラリッサとアーデルハイド、



そしてデイブとデボラだ。コルトの自滅戦争の結果、



ユタとカーレ周辺では村も魔物もいなくなってしまった。



だが、ついにこの地域にも再び魔物が侵入してきたのだ。





ゴブリン10匹を討伐した時は『上位種がいる可能性が高い』という



推測の域を出ない話だった。しかし、今回は違う。



討伐した『オークチーフ』『オークロード』の耳という、



動かぬ証拠が挙がっている。冒険者ギルドとしては、



商人ギルド、そしてグリーン辺境伯に報告を入れ、



対応を話し合う必要がある大事件だ。





幸太郎たち現場の人間にしても、報酬の金額が引き揚げられる



ことになる話である。まあ、死ぬ可能性も増えるということだが。








キャサリン支部長を先頭に幸太郎たちが冒険者ギルドへ



帰ってきた。食堂の冒険者たちから『よう、生きてたのか、



デイブ、デボラ!』と歓声が上がる。





もちろん、ルイーズもカウンターの向こうから笑顔を見せた。





しかし、そのムードに水を差すようにキャサリン支部長が、



厳しい声でギルドの各責任者たちを呼び集めた。





「幸太郎ちゃん、アレを」





幸太郎が頷き、さっきの袋をカウンターに置いた。



中身を見せたとたん、一瞬で雰囲気が変わった。



全員が真剣な顔になっている。





ギルド専属の鑑定士が、カウンターの上にゴザを敷き、



耳を並べた。





「・・・合計、27体。うち、オークチーフが3体、


オークロードが1体ですね、間違いありません」





ギルド内全体がどよめいた。大きな群れ、しかも上位種が



4体も含まれている。険しい顔で並べられた耳を見ていた



事務室長が、思わず幸太郎に質問した。





「これを・・・全部、君たちが倒したのかね?」





「みんなのお陰ですよ。私はヒーラーなので見ていただけです。


運が良かったのは否定できません。こちらが女性ばかりだったので、


欲をかいたオークロードがノコノコ一番前まで


出しゃばってきたのです。


そこへエーリッタとユーライカの矢が両目に突き刺さり、


そのチャンスに全員で襲い掛かって仕留めました。


一番厄介な敵を、一番最初に倒せたのが大きかったですね」





もちろん『全員で襲い掛かった』というのは嘘だ。



エンリイが『ドラグーン・ランス』で顔の真ん中に



一発で大穴を空けただけ。





「そうか・・・。普通ならオークロード1体に対して、


D級冒険者4人が最低ラインだが・・・。


27体のオーク、しかも上位種4体の群れなら、


D級以下の冒険者なら30人以上の編成を組まねばならない


ところだっただろう。


いや、運が良かったにせよ、大したものだ。


しかも誰も死んでいないというのも、賞賛に値する」





事務室長は素直に賛辞を送った。正直なところ先程までは、



『なにがあったか知らないが、なぜ新人ごときに



特別通行許可証を発行するのだ。優遇し過ぎではないのか?



他の冒険者たちに示しがつかん』



と内心不愉快に思っていた。



だが、その考えは間違いだったと思い知る。





エンリイというC級冒険者が1人いるとはいえ、



新人4人、D級2人でオークの群れ27体を



『短時間で』



全滅させて、デイブとデボラもしっかり救助している。



おまけにデボラが負ったという足の傷も、きれいさっぱり治っている。





そして、ギルドの各責任者を内心唸らせたのは、



『幸太郎、モコ、エンリイ。



エーリッタとユーライカ。



クラリッサとアーデルハイド』



全員が『けろり』としている所だ。これほどの敵と不意に



遭遇しているにも関わらず、全員が『倒せて当然』という



顔をしている。





これは当然の反応である。なぜなら、まだ



『幸太郎が何もしていない』からだ。



死霊術も使っていない。『冥界門』も呼んでいない。



水鉄砲すら取り出していない。





さらに言うなら、モコとエンリイが



『サイコソード』、『ラピッド・スピード』、『如意棒』、『分身の術』



という奥の手も出していないのだ。全力には程遠い。





普通、冒険者がこれほどの大手柄を上げれば



『え? 何か不思議ですか? これくらい普通ですよ、普通。



誰でもできますよね? 出来ない人なんてこの世にいませんよ』



とか、



『俺たちを、そこらの雑魚どもと一緒にすんな』



などとイキリ散らすか、威張り散らすものだ。





しかし、幸太郎以下、全員が『特に気にしていない』。



明らかに、全員がまだ本気には程遠いという余裕があった。





ギルドの責任者たちは、なぜキャサリン支部長が幸太郎たちを



優遇しているのか納得がいった。



むしろ優遇して良かったとすら思っている。





何しろ、もし幸太郎たちでなければ、探しに行った



冒険者のパーティーは、オークの群れと遭遇して全滅。



デイブとデボラも死亡。



冒険者ギルドへは、一切何も情報が入らない。



当然、対策など打たれるわけも無く、次々に被害がでていただろう。



オークの群れはビエイ・ファームに襲い掛かっていたかもしれないのだ。





だが、幸太郎たちが探しに行った事で、オークの群れは全滅。



生還したデイブとデボラから出現時の詳しい情報も手に入る。



そして、何より・・・銅貨1枚すら払う必要が無い。



『依頼』じゃないから。幸太郎たちは『散歩』に行っただけ。





職員全員が険しい顔の中、経理室長だけは内心、



『タダでオークの群れが全滅かぁ~。



運がいい、運がいい。これをネタに商人ギルドと



町の警備隊から寄付金の上乗せが見込めるぞ。



ボロ儲けだな』と喜んでいた。










(C)雨男 2024/10/10 ALL RIGHTS RESERVED






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