表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
933/1046

雨上がりの休日 5


 幸太郎たちはカーレまで戻ってきた。





「『特別通行許可証』はもらってるけど、さすがに門までは


開かないだろうな。今日は門前で野宿としゃれこみますか」





幸太郎はそう言って笑ったが、モコが『あ!』と言って、



防壁の上を指さした。





金髪ツインテール。ごつい巨体。たくましい腕。



仁王立ちする威風堂々とした姿は見間違えるはずもない。



そう、キャサリン支部長が防壁の上で待っていたのだ。





「ご苦労だったわね、幸太郎ちゃん。デイブとデボラも


無事で良かったわ。今開けるからちょっと待ってて」





そう言ってキャサリン支部長が防壁から消えると、



カーレの南門がわずかに開いた。





「ありがとうございます、キャサリン支部長。しかし、


その、正直、門を開けていただけるとは思ってなかったのですが」





幸太郎の疑問はもっともだ。何しろ、今回の『特別通行許可証』は



ルイーズが『独断で』発行したものだからだ。



冒険者ギルドのスタンプがあるため、正式なものには違いないが、



夜に門を開けるにはキャサリン支部長か、大勢の冒険者たちの



協力が必要となる。





(ルイーズさんはどうやって協力を取り付けたのだろう?)





幸太郎が不思議に思うのは当然の話だ。しかし、キャサリン支部長が



笑って経緯を教えてくれた。








幸太郎たちが出て行った後、冒険者ギルドの事務方で、



ひと悶着あったのだ。ルイーズは独断で『特別通行許可証』を



発行した。当然、その許可証には控えがある。



門番や町の警備隊から問い合わせがあった時に、



『正式なものである』と証明するための控えだ。





その控えが夕方の書類整理の時に、他の事務員に見つかった。





と、いうか、当然見つかる。むしろ見つからない方が



事務処理としては『ザル処理』ということになってしまう。



見つかることはルイーズだって承知の上だ。





事務室長は『特別通行許可証』を発行するという話を聞いていない。



ルイーズは周囲の事務員たちに、



その勝手な行動を咎められ、責められた。





『何も申し開きすることはありません』





ルイーズはクビになる覚悟をしていた。それでもデイブとデボラが



助かるのなら、と幸太郎へ『特別通行許可証』を渡したのだ。





なぜなら他の冒険者は当てにならないからだ。



もし、他の冒険者ならば、



『出すモン出してくれるなら、やってやらんこともないが?』



と言うだろう。幸太郎たちの『助けに行きたい』と、



他の冒険者の『金だせよ、金』では結果に大きな差が出ることは



想像に難くない。冒険者が防壁の外へ出てしまったら、



どこで何をしているかは、全く分からないのだから。





と、そこへキャサリン支部長と記録室長のベリンガムが



やってきて、さらっと言ったのだ。





『あ、それいいのよ。あたしが許可してんの。もし、幸太郎ちゃんに


困ったことがあったなら、可能な限り協力してあげてねって、


ルイーズちゃんに言ってあったのよ。ごめんね』





『彼にだけ特別な協力をすることに対し、いぶかしむ者もいるでしょう。


しかし、これは例の金貨1000枚の報酬に関係することなので、


ごく一部の者にだけしか、指示されていなかったのです。


ルイーズが何も言い訳しないのは、単に『かん口令』に従っているだけ。


ルイーズが選ばれたのは、たまたまですよ』





『ま、みんなに通達してなかったのは悪かったわ。


何せ事情が事情だからね。どこまで言うべきかは判断が


つかなかったのよ。騒がせちゃったわね?』





事務室長以下、全員がそれで引き下がった。



金貨1000枚の報酬の案件は『かん口令』が敷かれている。



つまり質問することも禁止事項の内に入っているのだ。



事務員たちの中には、薄々、見当が付いている者もいたが、



どの道『話す事自体』が禁止されている。





ルイーズは突然かばってくれたキャサリン支部長と



ベリンガムにお礼を言おうとした。



だが、キャサリン支部長はそれを止めた。





その代わり、キャサリン支部長はルイーズの肩を



『ぽんっ』と叩き、ウインクで返す。



ベリンガムも軽く片手を上げただけで、記録室へ戻っていく。





そして、心配するルイーズに笑って答えた。





『幸太郎ちゃんたちなら、心配いらないわよ。


例え相手が何であっても、そう、夜間であっても、


あの子たちを倒せる奴なんて、そうそういるもんじゃないわ。


デイブとデボラを見つけたら、すぐに帰ってくるわよ。


賭けてもいいわ、あと3時間以内に幸太郎ちゃんたちは


帰って来るって』





『そ、そんなに早く!?』





驚くルイーズに、キャサリン支部長は小声で教えた。





『幸太郎ちゃんたちはね? ある事件で「イビル・アイズ」を


無傷で倒しているの。内緒よ?』





ルイーズはびっくりした顔で固まった。それはそうだろう。



『即死の邪眼』を持つ『イビル・アイズ』は、『即死』が決まれば



ドラゴンさえ倒せる魔物なのだ。今まで出現した事例は



両手で数えられるほどしか無いが、討伐に推奨される



冒険者ランクはドラゴン同様『C級以上』となっている。



D級以下は足手まといとされるほどの凶悪な難易度なのだ。





なお、幸太郎は『無傷で倒した』とは言ってない。しかし、



百戦錬磨のキャサリン支部長は、モコとエンリイの様子から



『全然苦労してない』ことを見抜いた。



『即死』攻撃を持つ相手と戦ったのに、モコとエンリイには全く



緊張も興奮も恐怖も疲労も感じられない。



だからキャサリン支部長は『幸太郎ちゃんが単独で倒したのね。



何か奥の手を持ってるのは間違いない』と推測しているのだ。





無論、キャサリン支部長はそれを幸太郎に質問するほど



野暮ではない。知ってて、あえて騙されるフリをするのも



『イイ女の条件』だと思っているからだ。








「ま、そんな感じ。ルイーズちゃんが心配してるから、


まずはギルドへ戻りましょうか。デイブ、デボラ、


帰ったらルイーズちゃんにお礼を言っておきなさいよ?」





デイブとデボラも笑顔でうなずいた。自分たちのために、



こんなにも多くの人たちが動いてくれたのかと、感動していた。





それはそれとして、幸太郎は思う。





(おっとこ前だなぁ・・・キャサリン支部長は・・・。


確かに『いい女』の条件に『男らしさを持つ女』っていう


矛盾しているような話を聞いたことがあるけど・・・。


キャサリン支部長は、確かに男らしさと、女らしさを


併せ持ってる稀有な人物だねぇ・・・)










(C)雨男 2024/10/08 ALL RIGHTS RESERVED






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ