雨上がりの休日 3
「おい! そこのブタ野郎! そうだ、お前だよ豚の大将。
俺はお前みたいな弱そうなオークロードは見た事ねえぞ!
随分やせっぽちだなぁ? お前の部下たちの方が
よっぽど強そうだぜ。腕も体も細いし、お前なんか
食ってもマズそうだぜ! お前ごとき俺が片手で
ひねりつぶしてやるよ! ばーか!」
オークロードは、不愉快そうな顔になった。
幸太郎はとりあえず、オークが怒りそうな罵詈雑言をテキトーに
並べてみただけ。オークの気にする言葉なんか、まるで
わからないが、何か1つでもヒットすることを願った。
『俺が、やせっぽち、だとぉ?
俺たちの、言葉が、わかるニンゲンは、初めて見るが、
俺よりも、小さい、くせに、身の程、知らずめ!』
(あ、やっぱり『弱そう』とか『やせっぽち』って部分に
反応するんだ。大きい方が偉いのか、原始的だな・・・)
幸太郎はオークロードがあっさり挑発に引っ掛かったことに安堵した。
オークロードは部下たちを押しのけ、最前列にやってきた。
『おい、お前、どっちが、大きくて、強いか、見せてやる!!』
オークロードは人間から奪っただろうバトルアックスを
振りかざした。勝負あり。
モコが猛烈なダッシュでオークロードの前まで出る。
そして、いきなり直角に曲がってオークたちの
最右翼を狙うふりをした。
オークたちの視線がモコに集中した。その瞬間、
クラリッサとアーデルハイドが構えるラウンドシールドの
後方に隠れていた、エーリッタとユーライカが弓を射る。
放たれた矢はオークロードの両目に突き刺さった、命中!
オークロードはいきなり両目がつぶれて混乱した。
いまさら無意味だが、オークロードは目に刺さった矢を必死に抜く。
そして止めだ。オークロードの最期。
魔猿族特有の体の柔らかさで、棍を構えたまま、
エンリイが思い切り体を後方へねじる。
そして、長っがい足を大きく踏み込み、
エンリイは全身の力を一気に爆発させ、その力に
『如意棒の術』の力を上乗せして、神速の突きを放った。
「必殺・・・『ドラグーン・ランス』ッ!!」
閃光のような突きに加え、大地が揺れるかのような強烈な『踏鳴』!!!
ボゴッ・・・
まるでライフル弾の如き勢いだった。エンリイの棍は20メートル近く
離れているオークロードの顔の真ん中を貫通、大穴を開けた。
オークロードは顔の真ん中に大穴が空いたせいで、
頭の中身を後方へ撒き散らしながら、断末魔も叫べずに崩れ落ちてゆく。
「ふぅぅ・・・『成敗』!・・・ってね!!」
エンリイが棍を元の長さに戻し、再び構える。
エンリイの『必殺技』はダンジョンで使用したものと、
基本的には同じもの。
しかし、修行の結果、あの時とは段違いの威力に成長していた。
さらに幸太郎に名前を付けられたことによって、
別次元の威力に突入している。
モコの『パイルバンカー』と違って、近距離から中距離まで届くのも利点。
しかし最大の利点は、黄金樹の幹から生み出された
『如意棒』で撃てる所である。
『如意棒』が『サイコソード』と同じく竜鱗を砕けるのは実験済み。
つまり、本気の『ドラグーン・ランス』は
理論的にはブルードラゴンなどを貫通するはずである。
まさに必殺。
『如意棒』を使わないとしても、
オークロードの頭など血の詰まったバルーン同然。
なお、『ドラグーン・ランス』という名前は、中二病である
幸太郎の命名。これは『地球防衛軍6』のウイングダイバーの
最強武装から名前を借りている。
いきなり群れの主、オークロードを失ったオークたちは
混乱に陥った。しかし、3体のオークチーフが
『殺セェェェ!!』と叫ぶと、オークたちは逃げずに
襲い掛かってきた。もちろん、幸太郎たちも逃がすつもりなど無い。
すでに幸太郎から『皆殺し』という決定が下されているのだ。
右翼方面に走っていたモコが、今度はオークの群れの中へ突っ込んでいった。
そして超高速でオークたちの間を走り抜け、次々にアキレス腱や
膝の裏を小太刀で切り裂いて行く。オークも棍棒などで
モコを叩き潰そうとするが、かすりもしない。
モコは眉一つ動かさずに、わずか2,3センチの差の見切りで
躱し続けている。
モコは父親であるバスキーの指導で殺意の波動に目覚め、
ダンジョンでC級、B級冒険者の戦闘を間近で見続けた。
さらに幸太郎の課した修行『流々舞』に加え、カルタスたちとの
猛特訓により、もはや単純な接近戦ならB級冒険者に近い
実力を身に着けていたのだ。
オークたちが振り下ろす、背筋が凍るようなスピードの
棍棒の一撃も、もはやモコにはスローダンス同然。トロすぎる。
オークロードを倒したエンリイも左翼方面へ走り出した。
そして、恐るべき跳躍で木に登ると、信じられないスピードで
木々の間を飛び回る。そして、真上からの攻撃で、
次々にオークを殴り倒す。オークたちは攻撃の届かない
頭上から、一方的にエンリイのマシンガンのような
突きを喰らい続け、逃げ惑い、血だるまで倒れていった。
幸太郎の前面はクラリッサとアーデルハイド。
オークチーフが棍棒を振りかざして襲い掛かってきたが、
その重い一撃をクラリッサは軽々とラウンドシールドでパリィ。
クラリッサから見て左上方から振り下ろされる
棍棒を左下方へとはじいた。ニタニタと笑うクラリッサは
バトルアックスの一撃でオークチーフの頭を真っ二つに割る。
アーデルハイドもオークの棍棒をラウンドシールドで受け止めると、
六角金棒を横薙ぎした。オークは左腕でガードしたが、
腕は『ボキボキ』と音を立てて変形。そこで金棒は止まらず、
アバラも『ボキボキ』と音を立てた。さらに、それでも
金棒は止まらずオークの背骨も『ボキッ』と音を立てた。
そして、絶命したオークは土煙を巻き上げながら
地面を転がっていく。
信じられないことに、クラリッサとアーデルハイドは
オークを問題にしない腕力を持っている。
圧倒的なパワーだ。
ただ、アーデルハイドの『へやあ』という掛け声は
なんか気が抜けるのが難点。
幸太郎は一石二鳥を狙って、歌を歌い出した。
『ウルトラ6兄弟の歌』だ。
味方の鼓舞、そして、森の中に隠れているであろう、
デイブとデボラへの『助けに来たぞ』というメッセージである。
この歌は、聞く人に勇気と正義と底力を呼び起こす。
幸太郎は心を込めて歌いあげた。
(ご主人様の歌・・・! 知らない単語が多いのに・・・。
すごい、胸の奥から勇気が湧き起こる!)
(これ、幸太郎サンの歌だね。なんだろう、体の奥から
力が無限にあふれてくるよ!)
モコとエンリイはニヤリと笑う。『勝ったも同然』という気持ちだ。
エーリッタとユーライカも顔を見合わせて笑う。
「ユーライカ! あれ、やるわよ!」
「オッケー! やろうエーリッタ!」
エーリッタとユーライカは呼吸を合わせて大きく息を吸い、
声を揃えて叫んだ。
「「 二弓一心ッ !!」」
2人の顔から表情が消える。そして、まずエーリッタが弓を射た。
エーリッタが矢を番える間にユーライカが射る。
2人は凄まじいスピードで交互に弓を射始めた。
しかも、機械のように正確で、悪魔のような残酷さだ。
オークの目を射る。武器を振り上げた手首を射る。
足を射る、肩を射る。そして隙あらば胸を、腹を、口を、
頭を・・・。オークは次々に戦闘力を失っていった。
クラリッサとアーデルハイドも力がみなぎっている。
「やろう! クララ!!」
「はは、やる気だな、ハイジ! 不思議だ、この歌を
聞いていると、『絶対に負けない』って気がしてくるぜ!」
オークが戦おうとしていたのは最初だけだった。
いや、正確にはオークチーフが全滅するまでだ。
その後は、もう一方的な蹂躙が続いた。そして、オークの群れは
あっという間に全て骸と化した。完勝、全滅だ。
オークロード1体。オークチーフ3体。オークが23体という
大きな群れだった。数で行けば幸太郎たちの4倍近い。
だが、最初にオークロードを倒したため、形勢そのものは
最初で決してしまった。
『全言語翻訳』を持つ幸太郎の安い挑発に乗った、
オークロードがバカだっただけだ。
まあ、幸太郎以外にオークを挑発できる者など誰もいないが。
(C)雨男 2024/10/04 ALL RIGHTS RESERVED