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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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足跡調査 7


 全員が、にまにまと眺める中、



幸太郎は最後のユーライカまで『ぎゅっ』と抱いて慰めた。



顔が真っ赤になって額に汗が浮いてる幸太郎。やっぱりイマイチ締まらない。



エンリイ、クラリッサとアーデルハイド、そしてモコ、



エーリッタとユーライカ。全員なぜか髪からいい香りがする。



この世界にシャンプーは無いし、『洗浄』の魔法に芳香剤の機能は無い。



それでも幸太郎は彼女たちのいい香りにクラクラした。



幸太郎は女性に対して免疫が無い。





その後、捕らえた人狩りとジェムーンに、人狩りたちのリーダーを



教えてもらう。彼らは仲間たちの無残な末路に心底震えあがっていた。



3倍の人数があっという間に血だるまの死体に変わったのだ。



しかも幸太郎たちは、クラリッサとアーデルハイドが少し



かすり傷ができた程度で、ほとんど傷を負ってない。



おまけにその傷も幸太郎が跡形もなく治している。



突然協力的な態度に変わったのも無理はないだろう。



ジェムーンたちが死なない方法は、ただ1つ。



ひたすら『リーダー』の幸太郎の機嫌を損ねないことだけだからだ。



もし幸太郎が『もういい』と言って、彼らを解放したら、



あっという間にエンリイたちの餌食になって、



転がる『見分けのつかない死体たち』の仲間入りするだろう。





エンリイとクラリッサが『人狩りのナンバー1とナンバー2の



頭くらいは持って帰った方がいい』と進言したため、



一応、持って帰ることになった。



もしかしたら賞金がかかっているかもしれない。



幸いなことに人狩りのリーダーは



クラリッサに殺されていたため、なんとか顔の判別がつく状態。





ただ、人狩りのナンバー2はアーデルハイドにやられて、



頭も顔も潰れたトマトになっていた。もう誰だかわからない。



仕方ないので、代わりに『参謀役』だった男の頭を



『マジックボックス』に入れた。





幸太郎はジェムーンたちに目隠しをすると、人狩りたちの



死体に『成仏』をかけてまわる。こっちが本業。





(もし、今度生まれてくる時があったなら・・・。


その時はちゃんと真面目に生きるんだぞ)





幸太郎は人狩りたちの死体に手を合わせる。モコとエンリイも



幸太郎に倣って手を合わせた。ポカンとしているのが



クラリッサとアーデルハイド。敵に手を合わせるのが



理解できないのだろう。日本人の習慣は、この異世界では



奇異に映る。それは仕方ない。





彼らに『次』があるのかどうかは、幸太郎にはわからない。



魂自体は不滅だが、『砕ける』可能性がある。



あとは今回の人生が『ラストチャンス』だった場合、



もう人間に生まれることは無い。



いわゆる『最後の審判』というやつである。



幸太郎はアステラとムラサキから聞いて驚いたが、



『最後の審判』は地上ではなく、死んだあと、霊界で各人個別に



行われるという。裁く対象は肉体ではなく、魂だから。



全員一斉ではなく、タイムリミットはそれぞれ個々に決まっているのだ。





幸太郎がアステラとムラサキから聞いた『最後の審判』の話は、



ここではしない。いずれ、機会があれば語る時もあるだろう。



ただ、幸太郎は、この話に心底恐怖した。








幸太郎たち一行はカーレの門をくぐった。門の番兵は



捕縛された人狩りたちに、特に興味を示さない。



あまり珍しくもないのだろう。それに、もし誤解ならば、



『魅了』で尋問された時に判明する。



この世界では偽証や、相手に濡れ衣を着せるのは難しいのだ。








冒険者ギルドに戻って一部始終を報告する。



ジェムーンたちが人狩りの仲間だったことに、ルイーズは驚いていた。



そんな人には見えなかったという。



まあ、普通はそうだ。高級車や高級腕時計、衣服や装飾品などの



『ハロー効果』が全然通じない幸太郎の方がおかしいのだから。





普通の人は、相手が高級そうな腕時計や、高価そうなネックレスを



着けていれば『身なりがいい』と思うのは普通だ。



高級車や外車に乗っていれば『裕福そうだな』と考えるのは



当然の反応である。





だが、幸太郎は違う。





相手が外車に乗っていれば『なぜ国産車ではなく外車に乗ってるのか?』、



相手が高級車に乗っていれば『なぜ高額な高級車を選んだのか?』、



髪を染めていれば『なぜわざわざ髪を染めるのか?』、



ヒゲ、ピアスやタトゥーがあれば



『なぜわざわざ鼻輪や入れ墨をするのか?』



『なぜヒゲを生やしているのか?』と



その人物の心の『飢えと渇き』の奥を覗き込み、



相手の『渇望』、つまり弱点を把握する。



それが幸太郎。間違いなくサイコ野郎だ。





裏庭に回って、ジェムーンたちを引き渡す。早速ギルド専属の



魔導士が尋問するという。持ち帰った人狩りの首は、



意外なことに『ナンバー1のお頭』ではなく、



『参謀役』のほうに多額の賞金がかかっていた。



あちこちで、かなり恨みを買っていたらしい、



なんと賞金は合計で金貨32枚。意外な副収入となった。



ギルドは早速、複数の依頼人たちへ『討伐成功』の連絡を入れる



準備を始めていた。



賞金は幸太郎たち、エーリッタとユーライカ、



クラリッサとアーデルハイドの3つのパーティーで山分け。



幸太郎たちは金貨10枚、



エーリッタとユーライカ、クラリッサとアーデルハイドには



それぞれ金貨11枚とした。



知ってはいるのだが、やっぱりエーリッタとユーライカは



『なんで、そんなに欲がないの?』と不思議そうな顔をした。





だが、それは単に『人狩りたちをブチのめす』という



幸太郎の『目的』が達成されている事の方が重要だというだけ。



だから金銭の部分は、割とどうでもいいのだ。



特に仲間内で貸し借りの話をすると、ケンカの火種になりかねない。



幸太郎は『自分が損してるくらいでちょうどいい』と思っている。





簡単な例え話をしよう。ドラクエなどで、自分が操作するパーティーが



ボス討伐を目指す。道中の敵は大したこと無いので勇者と戦士が



ぶん殴って倒し、魔法使いと僧侶はMPを温存する。



ところが運悪く、撤退、再挑戦を強いられた場合・・・。



『魔法使いと僧侶は何も働いていない』と言えるだろうか?



当然、そんなわけは無い。





MPの温存含めて、それが『チーム』というものだからだ。



勇者と戦士が『俺たちばっかり戦ってる』と言うこともあり得ない。



魔法使いが『ボスのダメージの大部分は私の魔法』などと



言うことも無い。僧侶が『回復させたんだから、



その分後で利子をつけて金を払え』などと言うことも無い。



『感謝しろ』『借りを返せ』『お前は何もしてない』とか言い出せば、



遠からず、そのパーティーは解散するだろう。



もう、ボスを倒すという『共通の目的』が見えなくなっているから。



感謝しろとか、借りを返せとか言い出すメンバーがいれば、



その人物は至急、パーティーから追い出した方がいいだろう。



もう・・・『仲間』ではないのだ。



そして、現実では『本当に』死ぬのだから。『次』は無い。



ためらえば自分と仲間が死ぬのだ。





だから幸太郎は金銭面で仲間たちの方を優遇する。



もし、仲間たちに少し不満が出たとしても、



『一番損しているのは幸太郎』という印象を持たせるためだ。



リーダーは基本的に『損な役回り』を引き受けられないと



務まらないポジションだ。それは会社でも同じ。





出来なければ?・・・会社と違って冒険者に救済措置は無い。



敵に負けたら死んで終わり。不満を持つ仲間に殺される可能性もある。



くどいようだが『次』は無い。



来世に期待しよう。



ただ、そういう奴は来世も同じことを繰り返す。








人狩りの件は、割と簡単に話は終わった。本当にギルド内が



ざわついたのは『ゴブリンの耳』を見せた時だった。





合計で10個のゴブリンの耳。6体は樹上からの投石。



4体は後ろからの挟み撃ち。明らかに通常より数も多く、知恵がある。





「これは・・・『ホブゴブリン』か『ゴブリンメイジ』、


あるいは『ゴブリンウォリアー』などが生まれた可能性が高いです。


近くに『巣』があるのかもしれません。


今回は商人ギルドからの調査依頼ですが、悪い知らせを


届けるしかないですね・・・」





ルイーズも眉を寄せてため息をつく。





「でも、幸太郎さんたちが、ご無事で良かったです。


ゴブリン10体の討伐。人狩りの襲来を予見。


『フレンド』の皆さんと共に、見事な返り討ち。


そして何より、そのおかげでちゃんと依頼達成に必要な


情報も持ち帰れたのですからね。商人ギルドの依頼が失敗すると、


寄付金をもらっている以上、こちらの立場が悪くなるところでした。


ジェムーンさん・・・いえ、ジェムーンが人狩りの仲間ならば、


彼らの持ち帰った情報は信用が置けませんから。


もし幸太郎さんたちが負けていたら、人狩りにとって都合よく


歪められた情報を掴まされ、ビエイ・ファームに


大きな被害が発生していた可能性が否定できません。


正直、『危機一髪だった』と言って差し支えないでしょうね・・・」





ルイーズは『依頼書』に『完了』のスタンプを、勢いよく押した。





「みなさん! お見事です! 任務完了、依頼達成です!」








こうして、商人ギルドからの『足跡調査』の依頼は終わりを告げた。








なお、余談だが、捕らえたジェムーンと人狩りの2人は尋問のあと、



奴隷として奴隷商人に売ることになった。サイコ野郎とはいえ、



幸太郎も一応日本人だ(そう! ぼくらの仲間!)。



例え犯罪者と言えど、人を売ることに抵抗がある。



しかし、ここで日本の常識を持ち込んでも仕方ない。



それこそ『嫌ならお前が養ってやれ』とか『じゃあもう、殺せよ』と



言われるのがオチである。





「この2人は奴隷として売っといてよ。売れた儲けは


ギルドと折半でいーよ」





エンリイに任せた所、あっさり数秒で話がついた。



さすがC級。慣れている。










(C)雨男 2024/09/28 ALL RIGHTS RESERVED






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