足跡調査 6
幸太郎たちはジェムーンと人狩りたちを、わざと煽った。
しかし、全然誰も増援を呼び寄せる気配はなかった。
(うーん。どうも、これで全員ってことか)
幸太郎は話を切り上げることにした。これ以上は無駄らしい。
「よし、じゃあ、ギルドへ突き出すからジェムーンと、
人狩りを誰か1人捕縛してくれ。後は別にいいや」
「了解です、ご主人様」
幸太郎とモコは、いったん、エンリイたちと合流した。
これで幸太郎たち7人と、人狩りたち21人がにらみ合う構図となる。
「おい、幸太郎。さっきはお前も売る予定だと言ったが、
もうあれはナシだ! こんな生意気でムカつくヤローだとは
思わなかったんでな。お前はここで殺す!」
「いや、別に売って頂かなくて結構なんですが」
ジェムーンは完全に頭にきている。
「ちっ、口が減らないヤツだ。お前が死ぬまで、たっぷり拷問して
後悔させてやるからな。それに、もうお前を生かして捕まえる必要も
無くなったよ。そこのエルフの女どもが、いい金になりそうだ。
自滅って言葉はこういうことを指すんだな。
わざわざそっちから来てくれたんだからよ、
お前たちこそ本当の馬鹿だろうが!
ついでに、そっちのバカデカい大女3人も売ってやるよ。
ちったぁ、金になるだろう! ははははは!!」
(あ・・・)
幸太郎は青ざめた。
(うわぁ・・・)
モコも青ざめた。
(なんでそれを・・・)
(言っちゃうかなぁ・・・?)
エーリッタとユーライカも青ざめた。
ジェムーンと人狩りたちは無邪気に笑い続けている。
自分で死刑を情熱的に求刑していく新しいスタイルか。
幸太郎は視線を送らないようにしたが、モコとエーリッタとユーライカは
『そ~っと』エンリイ、クラリッサ、アーデルハイドの方を見てみた。
エンリイ、クラリッサ、アーデルハイドは口を一文字に硬く結び、
顔を伏せて震えていた。そして、鬼の形相で顔を上げると、
揃って絶叫した。
「「「 ぶっ殺す!!! 」」」
あとは酷いものだった。
モコは大慌てで、エンリイたちにジェムーンを殺される前に
捕縛に向かった。エーリッタとユーライカが必死に弓で援護する。
ジェムーンは『ははは! お前の方からわざわざ・・・』などと
寝言を言っていたが、モコに『やかましい!』とぶん殴られて
あえなく失神。後は、エーリッタとユーライカに足を撃たれて
動けなくなっていた人狩りをぶん殴って気絶させ、
なんとか幸太郎の方へ引きずってきた。
これで一応2人を捕縛。
残りの人狩りたちは『お気の毒に』としか言いようがない
末路を辿った。
エンリイ、クラリッサ、アーデルハイドが出合い頭に3人殺した。
まさに一瞬。
それを見た人狩りたちは、『コイツらからやるぞ!』と取り囲んだ。
エンリイに対して4人で襲い掛かるが、全く相手にならない。
エンリイはカルタスの部下の4騎士と何百回も戦っている。
たかが人狩りが4,5人いた所で、近寄ることさえ許さない。
喉を突き、肘を壊し、膝を壊し、足首を壊す。
・・・あとは滅多打ち・・・。全員しつこいほど滅多打ち。
滅多打ち、滅多打ち、滅多打ち、滅多打ち、滅多打ち。
人狩りたちは大量の流血に加えて、顔が滅茶苦茶。
もう誰だったのか判別が出来なくなるほど棍で殴られて死んでいった。
クラリッサはバトルアックスを小枝のように振り回す。
大きくて重い武器なのに、スピードは人狩りたちの剣を
容易く上回った。バトルアックスは剣では受けきれない。
剣や盾、皮の鎧ごと、人狩りたちは『壊されて』いった。
1人だけ、バトルアックスを剣で受け流した者がいたが、
受け流した次の瞬間、クラリッサの『頭突き』が顔に
めり込んでいた。顔面の骨が砕け、陥没している。
その人狩りが最後に見たのは、美人のクラリッサの顔。
他の人狩りに比べれば彼は幸せだったのかもしれない。
アーデルハイドも六角金棒を軽々と振り回す。
やはり、そのスピードは人狩りたちの剣を上回った。
人狩りたちの剣は六角金棒を受け切れず、ボキボキと
砕けて破片になっていく。六角金棒は盾で受けるにも重すぎる。
人狩りたちはアーデルハイドを取り囲んだつもりだったが、
あっという間に、無防備な状態にまで追い込まれていった。
もう後は六角金棒とラウンドシールドで殴り放題。
人狩りたちの頭はつぶれたトマトみたいになって、地面に落ちた。
人狩りの中には魔法が使える者が2人いた。それぞれ魔法の矢を
幸太郎に向けて撃ってきたが、モコがスモールシールドで
ハエのように叩く。そして、お返しとばかりに
エーリッタとユーライカが頭に矢を撃ち込んだ。
人狩りたちは、エンリイたちの凄まじい怒りに震えあがり、
生き残った者は逃げ出そうとした。しかし、
エーリッタとユーライカがいるので、それは不可能だ。
次々に、そして正確に人狩りの膝や太ももが射貫かれる。
そしてエンリイ、クラリッサ、アーデルハイドに追いつかれた者は、
絶望の悲鳴を上げた後、恐怖が刻み込まれた顔のまま、
物言わぬ骸と化して地に伏せることとなった。
しかもこの戦いでエンリイは全くの無傷。
クラリッサとアーデルハイドは少しかすり傷があったが、
すでに血が止まっている。
『ハーフドワーフ』の恐ろしさだ。
その一方的で壮絶な蹂躙を目の当たりにしたジェムーンと、
捕縛された人狩りは、涙を流し、必死に幸太郎へ
『殺さないでくれ』と哀願した。
一応『証人』なので、殺すことはしない。しかし、幸太郎は
この2人をグーで一発ずつ殴った。
「鼻血程度で済んで、ありがたく思え!」
幸太郎もエンリイたちへの悪口には腹が立っていたのだ。
ふと、幸太郎が気付くと、目の前にエンリイが
しょんぼりとした顔で立っていた。
「・・・幸太郎サン・・・。お、大きな女の子って・・・、
可愛くない・・・のかな・・・?」
その様子を見た幸太郎は、苦笑すると、エンリイの首に手を回して
引き寄せた。そして自分の肩にエンリイの頭を抱く。
「バカだな、エンリイ。大きい女の子は、可愛くないって・・・?
違うよ。そこがエンリイのいい所じゃないか・・・。
それがエンリイの可愛い所の1つなんだよ。
それにエンリイの可愛い所は、俺だけわかっていればいいんだ。
エンリイはそれじゃ嫌か?・・・うん、そうだ、絶対に、
俺だけはエンリイのいい所はわかってる。
ジェムーンみたいな奴は、俺がぶん殴ってやるからね」
「うん・・・あ、ありがと。ぐすっ、幸太郎サ~~ン」
エンリイは幸太郎に抱き着いて、泣いた。やっぱり自分の
身長はコンプレックスになっていたのだろう。
「よしよしよし、エンリイはいい子だ。
よく頑張ってる。よく頑張ってる。
よしよしよしよし。いい子だ。いい子だ。
エンリイは、よく頑張ってる」
幸太郎は肩に抱いたエンリイの赤い髪をもちゃもちゃ撫でた。
そして、ふと顔を上げると、エンリイの後ろにクラリッサ、
アーデルハイドが順番に並んでいた。
(え・・・? あれ? これって、全員俺が慰めることに
なってんの・・・?)
そして、さらによく見ると、アーデルハイドの後ろにモコまで並んでいた。
いや、その後ろに、まさかのエーリッタとユーライカまで
ちんまりと並んでいた。
ちゃっかりモコさん。
ちゃっかりエーリッタ。
ちゃっかりユーライカ。
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