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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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足跡調査 5


「握手したことが何で悪いんだ! 理由になってないぞ、幸太郎!」





「まあまあ、落ち着いて。握手ではなく、


『普通に握手』したことが悪いのですよ。大失敗でしたね、あははは」





ジェムーンは真っ赤になって怒りだした。しかし、それでも



襲い掛かってこないのは、やはりどうしても見抜かれたことが



不思議で仕方ないせいだろう。周囲の人狩りたちも同じだ。



『今まで一度たりとも、こんなことは無かった』のだから。



理由がわかれば、次に生かせる。





・・・ここから生きて帰ることができたら、の話だが・・・。





幸太郎は落ち着き払って説明を続ける。





「ジェムーンさんは私に握手を求めました。それ自体は


別に何もおかしくはありませんよ。私たちに『フレンドリー』な


人物像を印象付けたかったのですね? いい方法です。


ですが、大失敗だったのは、ジェムーンさんは、その時私たちに


何の警戒もしていなかった事です」





「それの何がおかしいんだ!」





「ね? 人狩りのみなさん聞きましたか? ジェムーンさんは


大失敗した意識が無いのです。具体的に教えて差し上げましょう。


私にはB級冒険者の友人がいます。ええ、今、ユタにいる


ジャンジャックとグレゴリオ殿のことです。私は彼らと


初対面の時に握手しましたが、B級冒険者の彼らですら、


私に対して一応警戒はしていましたよ。もっと言うなら、


彼らが、襲われた村へ救援に来た時、私が村人たちと


話している姿を見た後ですら、一瞬『武器を下ろしていいか』を


迷っていました。私を警戒していたからです。


また、先日、そこにいるアーデルハイドと


初めて一緒に任務にあたるとき、彼女はギルドから


『女性に安全な人たち』とか紹介されていたにも関わらず、


私たちに対して、かなり緊張していました。


ええ、ギルドから『安心』と紹介されていてもなお、


私たちを警戒していたからですよ」





「だから! それがなんだ!?」





ジェムーンが怒鳴る。だが、幸太郎はケロッとして、それをスルー。





「・・・ところが、ですね。ジェムーンさんは、私たちと


握手する時、全く緊張していなかったのです。警戒もしていない。


どうして全く緊張していなかったのか? 理由は簡単・・・








『自分が加害者側だと自覚していた』








・・・からですよ。その時私は、あくまでも『初対面』の人物。


相手が『どんな文化を持っているか?』『どんな考え方をするのか?』


『何が好きで』『何が嫌いか』『何に怒るのか』を


お互いに全く知らない状態です。わかった人もいるようですね?


その通り、普通に考えれば『自分が被害を受ける可能性』を考え、


初対面の人に緊張するのは当然なのです。


ところがジェムーンさんは全然緊張していない。


これっぽっちも、ね。


つまり、ジェムーンさんは『自分が一方的に相手に損をさせる立場』で、


『損をするのは幸太郎とモコだけ』と確信していたのです。


まあ、2つの理由の、どちらか1つだけなら論拠としては


弱いです。でも、『2つ』も論拠があるのは『偶然』だと思いますか?」





元の地球なら、初対面の人に全く物怖じしない人がいても



不思議は無い。警察もあり、法もあり、周囲の人々の良識もある。





だが、ここは異世界だ。町の防壁の外では悲鳴を上げても



誰も来てくれない可能性の方が高い。いや、大抵の場合、



助けは来なくて死ぬ。





わかりやすく例えるなら、その日初めて会った人間で、



どんな文化を持ち、どんな素性かもわからない人を、



気安く自宅に招き入れる人がいるのか、という話だ。





そして、その時自宅に招かれて、気安く入ってくる人間は、



『自分の身が危ない』とは考えていない人間に限られる。





繰り返すが、元の地球なら、そういう事も時々はあるかもしれない。



だが、この異世界で、それは命取りである。








ジェムーンは顔を真っ赤にして、震えながら叫んだ。





「そ、それは全部『かもしれない』ってだけの話だろうが!」





幸太郎は白けて答える。





「ええ、そうですよ? でも高い確率で『そうかもしれない』って


事だから、こちらも『そうかもしれない』って対応を


してただけなんですが? 十中八九そうなるのであれば、


あえて確率の低い方を選択する人がいるんですかね?


死んだらお終いなんですけど、理解しておられますか?


実際に、こうして『大当たり』だったのですけど?」





クスクス笑っていたモコがとどめを刺した。





「そう考えない『お馬鹿さん』が、ジェムーン、あなたなんでしょ?


お笑いだわ。ご主人様と騙し合いをしようなんて・・・。


身の程知らずもいいとこね。あなたが100人いたって、


ご主人様には勝てないのよ。わかる? 


あ、ごめん。やっぱりあなた程度の頭じゃ理解できないわよね?


無理言ってごめんなさい。許してね?」





エンリイ、エーリッタとユーライカ、クラリッサとアーデルハイドは



盛大に大笑いした。もちろん、彼女たちは前日に



幸太郎から詳しい説明を受けていただけである。



実は、その時『人狩りたちを煽れ』と、昨日のうちに指示されていた。





・・・全員、ここで始末するつもりだから。





わざわざ長話をしているのも、わざと相手の神経を逆なで



しているのも、そのためだ。





現在人狩りは20人。ジェムーンを加えて21人。



しかし、ここまでバカにされれば、幸太郎たちに



ギャフンとほえ面をかかせてやりたいのは当然の感情。





幸太郎は・・・それを利用している。





人間は思慮の浅い者ほど、『気分がいい』『痛快だ』



『ざまあみろ』と見下してやりたい感情に逆らえない。



だから、もし人狩りたちに伏兵がいるのであれば、



今、全員呼び寄せるはずなのだ。大勢で取り囲み、



幸太郎たちが怯えて涙を流すのを見れば



『溜飲が下がる』のである。





幸太郎は21人から増えないなら、ジェムーンと、人狩りの



合計2人ほど『証人』として捕縛しようと考えている。





もし、伏兵が集まってきたら?





その時は『冥界門』を開き、遺憾ながら全員皆殺しに



するつもりだった。幸太郎は性格が悪い上に、サイコだ。



そもそも、モコとエンリイを狙ってくる奴らなど、



生かしておくわけにはいかないと幸太郎は思っている。










(C)雨男 2024/09/24 ALL RIGHTS RESERVED






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